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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
14章 君の味方

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第598話 君の中のロマンチック⑧魔法の言葉

「なぜそこで王宮が出てくるんだ?」


「兄さまは今も貴族。偽有権者の土地を買ったことか、その先の何かを兄さまのせいにする、かなり無茶だわ。兄さまは正式にエレブ共和国へ行ったことがないのだから」


「捏造するつもりだろう」


 兄さまの声が低くなる。


「うん、でも兄さまは対外的には14歳の子供よ。それにウチでずっと一緒に暮らしている。入園してからは学園で多くの時を過ごした。兄さま、ひとりで行動したことある?」


「え? それは……領地内や砦内、学園でもそれはあるけれど」


「短い時間でしょ?」


「……そうだな。〝所在〟は確かだ。家を出るまでは」


「そこよ!」


 自分の中で盛り上がっていたみたいで、思ったより大きな声が出た。

 膝の上の猫ちゃんがビクッとした。

 ご、ごめん。


「エレブ共和国の誰か、例えばあちらの現場担当をジャックにおっかぶせるとして、それを兄さまが指示していたとする。手紙とかそういうものを出してくるでしょうね。手紙じゃ弱いわよね。何か物的証拠なるものを考えてくるでしょう。でも実際やってないんだから、ちゃんとした調べが入れば捏造だとわかると思うの。誰かと一緒にいて、所在は確かなのだから隙はない。

 つけ込まれるとしたら、家を出てから現在までの間。決定的な証拠を突きつけてくると思うのよ。誰にも気づかれないようにやっていたんだ。けれど家から出たから足がつくことになったと言わんばかりにね」


「だから、誰も手を出せない絶対権力の箱庭で安全に(かくま)われていろ、と?」


 兄さまが荒ぶれる。


「兄さまが言ったのよ?」


「私が言った? 匿われていろ、と?」


「いいえ。わたしに貴族子女の戦いをしろ、と。指示を出して戦え。安全な場所にいることに気が引けるなら、全てを守る采配をしろ、と。だから、ランディラカ辺境伯の弟君であるフランツ・シュタイン・ランディラカにお願い申し上げます。ユオブリアの有力権者の危機です。何をされようとしていたのかを探り、そしてご自身を守って、本当に悪いやつを逃す駒にはならないでください」


 兄さまがハッとする。


「君には驚かされてばかりだ」


 兄さまは立ち上がってわたしの前にきて、跪いた。

 猫ちゃんを撫でていた手を取り、その指先に口をつける。


「レディ・シュタインの望むままに」


 そう言って顔を上げる。アイスブルーの瞳に射竦められる。

 どきっと胸が音を立てた。


『フランツが王宮に行くとなると……王宮はわたくしたちには入りにくいところですねぇ』


 ベアが気持ちのんびりと言った。


『じゃあさ、マンドリンのところへ行こうよ』


 クイが提案をする。

 え?


『それ、いいな。そいつならなんか情報を持ってそうだ』


 喜んだ声をあげたのはレオだ。


「ちょっと何言ってるの?」


『リディアには貴族子女としての戦い方があるように、魔物には魔物の戦い方がある』


 え。魔物の戦い方って、それはバイオレンス一択だよね?


『我らの主を脅かしてきたんだ、突き止めて潰しておかないと』


「ど、どうやって?」


『そりゃ、ブチっと』


 ブチっとって、何する気?


「ひ、人族は人族の法に則って裁きたいの。横の繋がりを全部知りたいから、口を割らせたい。それに協力してくれるかな?」


 もふもふ軍団は穏やかに見えていたけれど、頭にきていたらしい。けっこう怒ってたみたいだ。

 確かに強さで優劣を決める彼らだ。その頭と仰いでいるわたしの家が荒らされた。それは彼らが激怒する原因となるのかもしれなかった。

 みんなで顔を見合わせている。


『リディアがそう言うなら、生かしておくか』


 ブチってやっぱり……。


「ありがとう!」


 わたしはすかさずお礼を言って、〝生かす〟方向を決定事項にした。

 悪い奴らのせいで、ウチのもふもふが人に害を成したなんて言われたりしたら、あったまきちゃうから!

 そして、そうと決まればロサに手紙を。


「レオ、ロサに伝達魔法を……」


「それは私が自分でやろう」


 兄さまに止められる、が、渋い顔をしている。

 兄さま、人に頼るの苦手だからね。


「ロサだけじゃなくて、みんなに手紙書かないとダメだよ」


「……みんな?」


「イザーク、ダニエル、ブライ、ルシオ、みんな心配して手紙くれたよ。兄さま一方的に送りつけて、届く手紙は拒否したでしょ?」


 わたし宛のわたしを助けようとしての手紙だったけど、みんな兄さまを心配して兄さまの消息を知りたがっていた。

 兄さまは視線を落として、短く息をついた。


「そうだ。だから、こちらの願いがある時ばかり、手紙を送るのはバツが悪い」


「……魔法の言葉を教えてあげる」


「魔法の言葉?」


『魔法か?』


 レオが楽しそうに言った。

 わたしはレオに笑いかけた。

 ちょっと違う。


「助けてくれっていうの。友達はみんな喜んで手を貸してくれるよ」


 兄さまの顔が微かに朱に染まる。


「恥ずかしいとか、情けないとか思ってるんでしょ? こういう時は頼ればいいの! それで、今度誰かのピンチには兄さまが助ければいい」


 兄さまがゆっくりと目を閉じた。

 一瞬後に目を開けて、わたしを見る。


「わかった、そうするよ」


 いっぱい喋ったら眠くなってきた。

 と、水色の鳥が飛んできて、もふさまの肩に止った。

 鼻先で鳥の嘴を軽く寄せる。

 落ちた封書をもふさまが持ってきてくれた。

 封書を開けながらあくびが出た。

 !


『領主はなんと?』


「わたしの死亡説が出てるみたい」


 どうしたもんかなぁ。

 わたしが死んでないとバラす方がいいのか。

 思惑通り死んだことにした方がいいのか。

 頭が働かない。死んだことにしたら、何か見えてくるかな?

 でもその後、本当は生きていたって問題になるかな?

 一層の事、トカゲになったって言ってみる?


「死亡説? 姿が見えないから?」


 兄さまに軽く首を横に振る。


「多分、呪いをかけた人が待ちきれなくなったんじゃないかな。呪術は成功しているのに、わたしが死んだって発表がされないから」


 兄さまが目を大きくして固まった。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 素直に助けを求めるのは恥ずかしいと思うのはこの年代あるあるかも。 手紙ではちゃんと謝罪と協力をしないとですね。 敵は焦れて噂を流し始めたみたいですが逆に自由に動き回るチャンスになるかな?
[良い点] リディアが絶好調になった。トカゲ脳は色んな意味で辛かっただろうね。 呪術師の依頼人も無事?釣れたようで進展ありそう
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