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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
14章 君の味方

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第592話 君の中のロマンチック②スッポン……

 ぬくい。


「気がついた?」


 ……笑った。憂いなく。アイスブルーの瞳を緩めて。


「ふふ、目がおっきいなー。君、ひとりなの? 冬眠から起きたばかりで、まだぼーっとしてるのかな?」


 に、兄さまだ。夢じゃない。本当に兄さまだ。

 兄さまの手の中で、あたためてもらっていたみたいだ。


「わたしの知ってる子と同じ瞳だから、よろよろしている君を放っておけなかった」


 ……………………。


「お腹空いてる? 虫かな、食べるのは?」


 わたしは我に返って、ブルブルと首を横に振った。


「え、首を横に振った? 君、私の言葉がわかるみたいだね」


 クスクスと兄さまは笑う。


「仲間が今偵察に行ってるから、虫は取れそうもないんだけど、これ食べるかな?」


 お、パンとハム?

 わたしはアムアムと頬張る。


「よかった、パンが食べられるんだね」


 兄さまは硬めの葉っぱに数滴水を垂らしてくれた。魔法の水だ。

 わーい。と水をピチャピチャ飲む。

 ありがとうと言ってみたけれど、副音声のように「キュー」と聞こえるだけだ。


 でも兄さまは、まるでわかったように


「どういたしまして」


 と言ってくれた。


 クイとベアが戻ってきたら、話ができるかもしれない。

 うう、それにしても室内でないとやはり寒いもんだね、とチラチラ見ていたら、兄さまが胸ポケットを叩いた。


「寒いのかな? ここに入る?」


 わたしは頷いて、ポケットにおさまった。

 あーー、最高にあったかい! やはり寒さは敵だ。さっき兄さまは冬眠から起きたばかりと言っていたから、野良トカゲは冬眠するのかもしれなかった。


「狭くて苦しくない?」


「ピーーー」


「本当に君、言葉がわかっているみたいな気がするよ」


 わかってるよ。

 クイたちが帰ってきたら通訳してくれるだろう。そしたら兄さまはどんな顔をするだろう。トカゲに向けてくれた優しい眼差しとは違う、迷惑顔になるのかな? 兄さまはわたしと会ったことに、拒否反応を起こすかもしれない。

 でもこれは本当に偶然なんだよ。姿を変えて、会いにきたわけじゃない。でもでも頼み込んで、クイかベアに農場まで連れて行ってもらおう。あの場所で見知ったいくつものことをみんなに報告しなくちゃ。


 トカゲの記憶力が心配だ。

 なんかすっごくいろんなこと聞いたんだけど……。

 そう、農場の主人は兄さまを犯人に仕立て上げるつもりだと。

 でもそれもジャックたちがそう思っただけかもしれないけど……。

 あいつらと兄さまを近づけちゃいけない。

 ポケットの口が開く。兄さまが覗き込んでいる。


「私はここから移動するんだけど……君、どうする? 一緒に来る?」


「(お願いします!)ぴーーー」


 うんうん頷きながら言うと、兄さまは軽く笑う。


「本当にわかっているみたいだな。ちょっと移動するよ。寝てていいからね」


 馬に乗ったみたいだ。いい具合に揺れる。





 いつの間にか揺れていなかった。と思って首を出してみると、辺りは薄暗く、焚き火がたかれていた。スープを作っているみたいだ。


「スープの匂いで起きたのかい? 食いしん坊なところもそっくりだ」


 違うもん。食いしん坊じゃないもん。

 兄さまはクスクスと笑っている。笑いながらも小さめのお皿にわたしのスープを用意してくれた。


 う。これは食べるの難しい。お皿に手をかけたら、重みで傾いて中身をこぼしてしまう気がするし。

 どこも同じ条件なのはわかっているのに、どこか食べられる場所はないかとぐるぐるしてしまう。

 兄さまがわたしを掬い上げた。そして大きなスプーンをわたしの前に差し出す。


「ほら」


「(ありがとう)キューー」


 スプーンに首を突っ込んでスープをいただく。

 温かい。お腹にじんわりとくる。

 お、葉物野菜も柔らかくなっている。

 あっという間に飲み干すと、もう一度スプーンを掲げてくれた。

 お肉も入っていて大満足だ。


「(ごちそうさまでした!)きゅっ」


 ペコっとして顔の手入れをする。

 兄さまの手の上だけど。


「あれ、もういいの? 少食だね」


 わたしは膨れ上がったお腹を叩いた。ポンと軽いいい音がする。

 兄さま、すっごく笑ってる。


「私は家族が多かったんだ。いつも誰かが話していて、とても騒がしかった。学園で寮に入ってもやっぱり騒がしい奴がいて。私は自分の口数が少ないから、騒がしいのは好きではないと思っていたけれど、そんなことはないようだ。今相棒たちが偵察に行っていて、私はとても淋しかったらしい。君の存在にこんなに救われている」


 ……兄さま。

 兄さまは自分の鼻先とわたしの鼻を合わせた。親愛の情を見せるように……。


 ここにいるトカゲがわたしじゃなかったら、違うトカゲに兄さま、こんなことしちゃったわけよね。一瞬、トカゲにそんな告白しちゃうのは、兄さまが追い詰められているように感じて案じもし、でもそれより大きく、自分以外の〝誰か〟が兄さまに寄り添うのは悔しく感じる。それがトカゲでも……。

 ペタペタと兄さまの鼻を触ると、兄さまが笑う。


「はは、くすぐったいよ」


 と、兄さまが顔を微かに横へと振った。

 わたしはその動きの煽りを受け、足を滑らせて、その下にあった口に顔をぶつけた。

 柔らかい口にわたしの口が当たり。

 え。トカゲの姿でキスしちゃったよ!

 兄さまの目がまんまるに見開かれた。


「なっ」


 顔が朱に染まる。

 トカゲとキスしちゃって、嫌だったのかしら。そりゃ嫌よね。


「ごめん、滑って……」


 ん? 自分の声が耳に届く。

 あれ? 手で顔を触る。硬い皮膚じゃなくて、人みたいな……もしかして。

 手が人の手だ。ちびっちゃいヌメっとしたものではない。


「人に戻った?」


 わたしは立ち上がって自分を見る。背中を通り越し腰に届きそうな髪もある。

 戻った、人型に戻ったんだ! スッポンポンだけど!

 スッポンポン?

 え? 〝真っ赤な顔した〟兄さま……だった。

 わたしは自身を抱え込む。


「見ないで!」


 消えてしまいたいとばかりに、しゃがみこむ。

 わたしに、兄さまのマントがふわりと、後ろからかけられた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 兄さんお早い再会だった
[一言] やっぱり呪いを解くのは王子様(婚約者)のキス。 リディアもでしょうけどフランツの方がよほど驚いたでしょうね。 これから先は一緒に調査する流れでしょうか。
感想一覧
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