第587話 ある意味モテ期⑨トカゲ出会う
茶色のトカゲについて行くと、ある部屋の天井に隙間があって、そこからさらに上にあがっていった。光の入らない天井裏は薄暗かったのに、下の方にいくつもの光があってビクッとする。
近づいていくと、それはトカゲたちの目ということがわかった。
「ぴー」
「キュー」
「ピッ」
ヤバイ、トカゲいっぱいいた!
いっぱい鳴いている、けど、何を言っているかはわからない。
トカゲたちの間ではわかっている感じだ。
前の方にいたトカゲたちもどんどん振り返って、すっごい見られている気がする。
みんなは茶色いトカゲだから、わたしだけ色違うしね。
多分助けてくれた濃い目の茶色のトカゲと、細長の目のトカゲがわたしに近づいてくる。
「助けてくれて、ありがとうございました」
わたしは大きな声で告げた。
副音声のように少しズレて、ぴーってわたしの鳴き声が耳に届く。
「ピュッピュ」
「キュー」
「すみません、なんて言っているのかわかりません」
そう告げると、顔を見合わせている。
そしてなんか会議が始まった。
言葉があるのかはわからないけれど、なんか鳴きあっている。
「あのぉ、わたし仲間のところに戻りますね。ありがとうございました!」
そう振り返ると、濃い茶色がわたしの前にサッと来た。
そしてみんなになんかを言うと、ついて来いとでも言うように、わたしの前を走った。濃い茶色は時々振り返って待っていてくれた。わたしは走るのがあまりうまくない。
濃い茶色は、わたしが同じルートを辿れなくて戸惑っていると、戻ってきてくれて、わたしでも行けそうなルートに変更してくれる、親切なトカゲだった。
ただついて行ってしまったけど、いくつかの部屋を通り過ぎると、そこはわたしたちが拠点としていた部屋の天井裏にたどり着いた。
そこを降りれば着くだろと言いたげにひと鳴きすると、トカゲは去って行った。
「ありがとう」
背中に呼びかける。
すると下から
『リディアか?』
ともふさまの声がした。
わたしはもふさま目掛けてダイブした。
壁を伝って降りるより、よっぽど早い。
『ボイラー室にいたんじゃないのか?』
ここは3階だ。ボイラー室は1階なのに上から降りてきたから不思議に思ったんだろう。
レオに聞かれて、わたしはあったことを話した。
『だから大掃除が始まったのか』
アリの言葉に首を傾げる。
「大掃除?」
『農場全体で掃除が始まったよ。生き物がいたら、その巣穴を探せって息巻いてる』
げっ。わたしが見つかったせいで、ここに住む生物に迷惑を掛けてる!
そう嘆くとアオ が慰めてくれる。
「みんな素早いから大丈夫でちよ。見つかる鈍臭いのは、リディアぐらいでち」
うっ。その通りだけど、容赦ない。
『アオ、真実は人を傷つけるらしいぞ』
レオは突っ走りがちなところはあるけれど、心の機微には敏感だ。
「え? リディア、ごめんでち。傷ついたでちか?」
「いや、いいんだよ。本当のことだから」
『それはそうとして、そのジャックってのが魔力高かったやつだろうなー。ここの倉庫に仕事の何かが残っているんだな? それは手掛かりになるんじゃないか?』
レオの言う通りだ。
『カザエルってのは恐れられているようだな。何か知っているか?』
もふさまに尋ねられて、わたしは首を横に振った。
国か地域の名前だと思うけどと推測を言う。
とりあえず、その大掃除が終わってから、倉庫を探ってみようということになった。でも、その倉庫もどこにあるかはわからない。用途のはっきりしない部屋を、全部チェックすることにしたけれど、そうなるとすっごい時間がかかりそうだ。時間はいっぱいあるからいいんだけどね。
ってな話をしている時だった。
みんながピクッとして天井を見つめる。
「どうしたの?」
もふさまにピタリとくっついたまま、わたしは尋ねる。
ポトっと音がしたかと思うと、前に2匹のトカゲがいて、こちらに向かって頭を下げた。
「ピュー、キキキキキぃー」
「話がしたいって言ってるでち」
『アオはその者たちが言ってることがわかるのか?』
レオが尋ねる。
「なんとなくでちけど、わかるでち」
アオ、すごい!
『それじゃあ通訳してくれ』
「わかったでち。おいら通訳するでち」
アオがトカゲたちに向かって言うと、彼らも頷いた。
「アオ、さっきはありがとうございましたって伝えてくれる? この方たちが、さっき危ないところを助けてくれたの」
アオがトカゲたちに通訳してくれている間に、この者たちかと言って、みんなもお礼を次々に口にする。
彼らは同じトカゲが人族に追いかけられていたので、わたしを助けてくれたようだ。
話があるとは……彼らは怯えていた。
あなたたちは少し前もここに来ていましたよね?、と。
トカゲになってわたしもわかったから、獣は人よりも鋭く、相手の強さっていうのがわかるのだろう。
だからレオたちもふもふ軍団がこの農場に来た時、何が目的?と怯えながら隠れていたようだ。
しばらく住んでいたが、自分たちには何もすることなく、人族を探っているような印象を受けた。
そして彼らは出て行った。胸を撫で下ろしていたが、今度は違うメンツでやってきた。さらにもっと強いのがいる。
その中でひとりだけ、弱っちぃのがいた。わたしだ。
それは変わった色の同種族。弱いだけでなく、動作もとろいし鈍臭い。
ボイラー室でよく眠っているのを、チェックされていたようだ。
絶対人に見つかるぞと思っていると、案の定見つかって捕まりそうになっていた……というのがあらまし。
それで聞きたかったことは、ここにこのまま住むつもりなの?、前に来たときは様子見で、今度は本格的に引っ越してきたのか?と尋ねにきたのだという。
仲間のわたしでも、もふもふ軍団の強さは怖く思えるから、敵対していなくてもいるだけで恐怖になるんだろう。
それでわたしたちは、ここへは探りにきただけで、住むつもりはないと伝え安心させたのだった。




