第585話 ある意味モテ期⑦この姿でできること
伝達魔法で届いた手紙を苦労して読んだ。
床に手紙を置いて、テーブルの上から身を乗り出す。
読み終えて驚いたわたしはテーブルから落ちそうになり、レオに咥えられた。
お礼を言ってから、子犬もふさまの背中に乗せてもらって、父さまの仕事部屋に急いでもらう。
「と、と、と、父さま!」
呼びながら入っていくと、父さまは大慌てで、もふさまの前にひざまずく。
なんて言ってるかはわからないだろうけど、察してくれた。
「どうした?」
「アダじゃなくて、エンターさまが来る!」
もふもふ軍団に通訳してもらう。
「え? エンターくんが? なぜ?」
ああ、アダムが情報源なこと秘密なんだっけ。
えーっと、えーと。
「手紙送ったら、心配してきてくれたみたいで」
だってあの時はまだ、トカゲじゃなかったんだもん!
「お断りの手紙を出そう」
「もう、モロールにいるみたい」
「それでもだ。リディーが療養中だと送ろう」
父さまにわたし療養中で領地にいない伝達魔法を出してもらったのだが……アダムはやって来た。領民やオッケーを出した人以外弾かれる結界をものともせず。どうなってるの?
父さま、アラ兄、ロビ兄が対応してくれていたけど、〝お遣いさまの気配があるようですが〟と言われた時に、しらばっくれるのは無理だなと思った。
わたしはアオにこっそり動いてもらって、アダムを客間に通してもらうようお願いした。
父さまたちにもどうするつもりだ?と言われたけれど、出たとこ勝負だ。
もふさまに客間に連れて行ってもらう。
もふさまはわたしをテーブルの上にそっとおろす。
方向転換をしてアダムを見上げる。
アダムと目が合う。
「じょ、冗談ではなく? き、君、もしかしてリディア嬢? 呪い?」
さすがアダム。呪術師の話をして、居場所を知らないかと尋ね、やって来てみたら、わたしは療養中という。呪いでどうにかなったのかと思っていたのだろう。それできっと確かめに来たのだ。
そしてお遣いさまがトカゲを連れて来た。リディアと同じ瞳の色のトカゲを。
もふさまに通訳してもらう。お遣いさまの〝守護補佐〟という力でアダムとは話せるということにした。それにはアダムの魔力も使うのだと。
「もう一度、確認する。君、本当にリディア嬢なんだね」
「その通りよ。元の姿に戻れるかもしれない希望のあるうちは、このことを誰にも知られたくないの。他言無用で」
そう言うと、頷く。
「戻れるんだね?」
わたしは首を横に振った。
わからないし、すぐに眠ってしまって、トカゲに身も心も近づいているのを感じているのだと不安を口にすれば、気の毒そうに見られた。
「僕も数奇な運命な気がしてたけど、君には負けるよ」
と言われた。数奇さで張り合う気ないし。そうジト目で見れば
「その受け答えはまさしくリディア嬢だね。それでどうすれば呪いは解けるんだい? 呪術師の場所がわかれば倒しに行くの?」
そこらへんも実は全くわかっていなくて、ただ居場所は知っていたいから、もし情報があったら教えて欲しいんだと言っているうちに、寒くなって眠ってしまったみたいだ。
起きた時はアダムが帰った後だった。
急ピッチで、呪術師たちの居場所を突き止めると、もふさまに言ったそうだ。
その後、アダムは父さまとも話したらしい。
レオとアオの諜報部員が耳にしたのは、父さまはどうやら呪いをかけた人かその一味が、様子を見にくるだろうと踏み、それで一味を特定しようと考えたみたいだ。だから、わたしが療養中と公表しようと思ったんだ。発表前だけど、アダムが尋ねてきたから確認したっぽい。
アダムはわたしから呪術師の情報があったら教えてと手紙がきて、何があったのかと聞きに来たことにしたみたい。概ね合ってるね。
で、わたしにも言ったけど、何かわかったらすぐに伝えると言ったようだ。
そっか。呪った人はどうなってるんだろう? 成就したと思ってるのかな。そうだね、確かめにくるかもしれない。
誰が確かめにくるか、見届けたい気もするけどトカゲじゃ役立たずだ。
わたしは籠る場所を、兄さまの別荘とすることにした。
あそこが一番暖かいから。
遊びにくるのはダメだと兄妹たちに言った。
なんてったって、わたしこの姿だからね。もふもふ軍団たちだけと過ごすと。
そう視線を落とせば、トカゲの姿を家族といえども晒していたくないのだろうと受け取ったようで、言葉が少なくなる。
もし、何かあったり、連絡があったら、伝達魔法を使ってもらうことにした。
家族には内緒で、わたしは別荘のあるタニカ共和国からエレブ共和国へと移動した。
大きくなったレオに運んでもらう。わたしたちはリュックにおさまってね。
やはりこちらは暖かい。急に眠るのは避けることができそうだ。
さて、何するって? 潜入です!
グレーン農場にね。
ふふふん。まさにこの姿でないと難しいことだ。
わたしは〝やること〟を見い出して、張り切っていた。




