第582話 ある意味モテ期④盾
晴れた!
屋根より高く積もった雪を、収納袋に収めていく。それは子供たちの仕事だ。
どこもかしこも光が雪に反射してキラキラと輝く。
雪も好きだけど、やっぱりお日様が顔を出すと、気持ちが上向きになる。
雪が売れる話をしたら、ウッドのおじいさまが大喜びだった。長く商売をしているけれど、雪を売るなんて考えたことはなかったそうだ。商売を知ったような気になっていたけれど、まだまだ奥が深いと嬉しそうだった。雪を売るのを楽しみにしているので、今回はいっぱい取っておこう。二日後ぐらいにはまた降り出すだろうから、かなりの量になりそうだ。
一仕事終えてから、雪兎を作って母さまに持っていった。
呪術師集団に狙われている話を聞いて倒れてしまったので、そのお見舞いだ。
でも呪術は媒体を通して呪うことが基本なはず。
だから怪しげな物には触れずにいようと思う。
あと、みんなの分、呪い遮断手袋を作れないかなと思っている。
呪術をピンポイントで遮断できるというより、薬草実習の時に使う魔力遮断手袋に近い形で。インチキにいろいろ遮断できるものを。ギフトのプラスで作れる気がする。
アリは呪術の媒体を見逃すまいと、張り切っている。
エリンたちにも絶対得体の知れないものには触れないように伝えた。
その後に、兄妹で雪玉を作り投げ合って遊んだのだが、途中で記憶が途切れている。
気がついたのはベッドの中で、わたしがパタリと倒れたというのだ。
家族に本気で心配された。
わたしは自分に光魔法をかけたけれど、何も変わりなかった。
そう、自分で具合が悪いという感覚がないのだ。そこが不気味だった。
母さまが泣きそうになりながら、何度も光魔法をかけてくれた。
もふさまやレオやアオやアリにも心配されたけど、わたしは辛いところがあるわけでない。なんだけど、時々ふらっとしたり、倒れているみたいで……。
念のためステータスを確かめたけれど、異常は見られない。
また魔力が増えた時からスキル?が増えてはいたんだけれど、それは関係ないだろう。
アラ兄とスキルの話をして、わたしの名前が変わっていくスキルが変って話をした。レベルが上がることがあっても、名前が進化したり、意味深な名前のスキルは聞かないそうだ。そっか、わたしのスキルは特殊らしい。
先触れ通りにイザークがやってきた。
今は止んでいるとはいえ、雪深い中シュタイン領までくるのは大変だったと思う。
お土産をいっぱい持って来てくれた。イザークがそういう気が使える人だったんだーと驚いたけれど(失礼!)、どうやら家族に勧められ、用意してもらったそうだ。
「大丈夫か? オーラが濁っているな……魔力が低下してる」
え? 魔力が?
わたしに話があるとのことなので、わたしたちともふさまだけになると、すぐさま言われた。
おかしいな。さっきステータスを見たときは気づかなかった。
手紙には話の内容までは触れていなかった。けれど、時期からいっても、兄さまに関係することだろう。
「……兄さまから連絡がいった?」
尋ねると、イザークは頷く。
「平民になると。リディア嬢とも婚約を破棄すると書いてあった」
「その通りよ」
イザークはおでこを手で押さえた。
「何かの作戦で、そう見せかけているわけでもないのか?」
あ、そっか。イザークはそう思ったのね。
「うん。兄さまはもう戻ってこない」
静けさが訪れる。
「……俺は〝戻ってくる〟に、俺の人生の全てを賭けるよ」
「……イザーク」
「あいつが、君と離れて生きていけるわけない」
「……わたしと兄さまは、終わっちゃったの」
そう告げた時、じくっと胸が痛む。
「……そうか。俺が今日来たのは、フランツが帰ってくるまで、婚約者になる提案をしにきた」
否定はしない優しい友人に、意地悪を言ってみる。
「帰ってこないから、結婚するまでになっちゃうよ?」
「そうはならない」
全く頑固だな。
生徒会の婚約者がいないブライとルシオからは丁寧な手紙をもらった。
みんな婚約者がいなくなったら、わたしに求婚者が殺到すると思っていたみたいで、兄さまが戻ってくるまで、婚約者になっとくか?と言ってくれたのだ。
ダニエルからは婚約者がいるので婚約はできないがと謝られ(なんで?)、これまた困ったことがあったらなんでも言ってくれと手紙にあった。
王位継承権を持つロサも、仮にでもなってしまうと王妃教育ってのを履修することになるから勧められるものではないが、自分の隣が空いているぞと手紙をくれた。
みんな兄さまが戻ってくると疑ってなくて、それまでの間、仮で婚約者になってくれると。本当に優しい人たちだ。実際、結婚する気がなくても、婚約をしたらその記録が残ってしまうのに。わたしの危機にみんなが手を差し伸べてくれた。
「気持ちは嬉しい。でも、わたし、大丈夫だから。ありがとう」
だってね、婚約者になってもらったら、標的になりそうなんだもの。
そんな危険なことに巻き込めないよ。みんなもわたしにとって大切な友達だから。
「君には盾が必要だ」
「……揃いも揃って、みんなそう思うってことは、必要なのかもしれないわね。ちゃんと考えてみる」
軽く息を吐き出した。
わたしの乗り切れるはずという考えは甘いのかな……。
みんなからも手紙をもらったといえば、イザークは考えることは同じだなと笑った。ロサもだといえば、殿下……と額を押さえていたけど。
ほんと恵まれてるよな。
イザークはその後、アラ兄やロビ兄と歓談し、雪の降る前にと帰って行った。
わたしはアダムに伝達魔法を出した。
ガゴチからの情報で、呪術師を中心とした団体があるらしく、それのことで何か情報が入ったら教えて欲しいと。




