第569話 記念パーティー③楽しい時間
お互いにお辞儀をして向き合って手を取る。
ステップを踏み、強く引き戻され、兄さまの腕の中でくるっと回る。
「ダンスも上手になったね」
「本当?」
と言ってるそばからステップを間違えたけれど、兄さまが抱き上げてくるっとわたしを回した。一回わからなくなると、取り戻せなくてグダグダになってしまったのに、ほぼ兄さまのリードでことなきを得た。
主役だから注目されていて、踊り終えれば温かい拍手をもらった。
それからロビ兄とアラ兄と、ノエルと、父さまと。それからおじいさまたちと。次々に踊った。皆、わたしに踊らせるのは最初のワンステップで、あとはほぼ抱えられていた状態だ。だからそんないっぱいの方と踊ってもまだ動けたんだけどね、あはは。ふーー。
喉が渇いたのでドリンクをもらっていると、ロサに手を出される。
「リディア嬢、一曲、踊っていただけませんか?」
わたしは声を潜めた。
「わかってると思うけど、わたしダンス下手だよ。足、踏むかもよ?」
ロサはそんなことで激怒はしないと思うけど、念のため告げておく。
「踏まれないよう、気をつけよう」
それじゃあ、とグラスをテーブルに置いて、ロサとホールの中央に向かう。
ロサもやっぱりダンスはうまかった。下手なわたしを完全にカバーだ。というか、みんな相手を抱えた状態でよくダンスできるもんだ。やはりロサにもほぼ抱えてもらった状態でダンスを終える。
「ロサもダンス上手いのね」
というと、ロサは笑った。
「君の前では一国の王子も形なしだな」
「え? あ、深い意味はなくて。一緒にいると王子ってこと忘れちゃうっていうか。あ、忘れてるわけではないんだけど」
慌てて弁解すると、ロサは豪快に笑い出した。
動いたらお腹が空いたので、みんなにオススメを言って、バイキング形式の物を食べてもらう。
「あ、これもおいしい!」
「この肉、スッゲー美味い! なんの肉?」
ブライが目を輝かせている。
「魔物の肉、おいしいでしょ?」
「へー、こんな美味いのもあるんだな!」
ブライは騎士の遠征に、荷物持ちとして行ったことがあるそうだ。
そこで支給されるのは、魔物の干し肉。それから途中で倒した魔物の肉など食べたこともあるけど、硬いわ、臭いわで食べられたものではなかったという。
世間一般で売ってる干し肉、あれ辛いもんね。定期的に干し肉を作っては、シヴァたちの砦に届けている。あれが保存食じゃ辛すぎるからね。保存食も時々入れ替えないとだから、古いものを遠征の時に配って食べることにしているそうだけど、ウチの保存食はこれなら普通に食べるのと変わらないと喜ばれていると聞いた。
国を守る騎士さんたちの保存食が辛いのは可哀そうだな。流通ラインに乗せられるか見積もって、できることなら流通させてもいいかもね。でも今干し肉で生計を立てている人たちも調べないとだから……、時間がかかりそうだ。
ふと視線を落とし、もふさまのリュックがぺしゃんこなことに気づいた。
わたしはそっとバイキングスペースから離れて、もふさまを撫でながら尋ねる。
「リュックがぺしゃんこに見えるんだけど?」
『我はやめろと言ったんだが……探検に行った』
あーーー。
『大丈夫だろう、気配には敏感だ』
「魔力が多い方もいっぱい来てるんだけどっ」
『もしもの時はぬいぐるみになるから、問題ないと言ってたぞ』
そういう問題では……。
こそこそともふもふ軍団を探していると、シヴァに声をかけられた。
ダンスを申し込まれ、一緒に踊る。
シヴァは最初から最後までわたしを地面に下さなかった。
「シヴァもダンス上手だね」
「お嬢は……、とてもきれいですよ」
ダンスに関しては言葉を濁す気だね。
「何か、気にかかることが?」
どうしても視線が下に行ってしまうからか、ドリンクスペースに戻る時シヴァに聞かれる。
もふもふ軍団が行方不明なんだといえば、ぷっと吹き出す。
けれど、彼らは賢いから大丈夫ですよと、なぜかわたしの頭を撫でた。
ん?
出入口が騒がしい。
何かあった?と思ったら、フォンタナ家のジン、ガーシ、ティガがわたしの周りについた。そのほか、ロサの護衛の人たちがロサを守る。
な、何事?
ライラックのおじいさまが、出入口に移動している。
門番をしていたフォンタナ家の人がおじいさまに耳打ちした。
おじいさまの眉が上がる。
何があったんだろう?




