第568話 記念パーティー②祝福
「なんてかわいらしいのかしら!」
「ドレスも優雅だわ! レースを重ねてますの?」
「きらきらと輝いていますわ」
「なんて初々しいおふたりなのでしょう」
真冬にこの真っ白さは、少々寒々しいのではと思ったけれど、そんなことはなく受け入れられているみたい。暖色系が多いこともあり、わたしと兄さまは完全に目立っている。もしかしたらパーティには白い装いは避けてって、ドレスコードがあったのかもしれない。
家族はどこかに白を取り入れている。
エリンとノエルはわたしたちを見上げて、目を大きくした。それから笑顔になって「きれい」と口が動いた。
アラ兄とロビ兄がこちらに気付いて足を止めると、真っ白なマントもそれにならった。ロビ兄はわたしに向かい、親指を立てて突き出した。
父さまと母さまは、嬉しそうにわたしを見あげている。
下に近づくにつれて、人々がわたしたちに注目し出した。
会場自体も広いけど、この人数も半端ない。ほんの内輪のものって言ってなかったっけ? そのお集まりくださった皆さまが、わたしたちを見上げる。
すっごい見られてる〜っ。
ただ階段を下りるだけなのに、足が震えそうになると、兄さまに軽く手を押さえられ。
え?
兄さまにお姫さま抱っこされた。
「に、兄さま!」
小さい声で抗議する。
小さい子じゃあるまいし、これはさすがに恥ずかしすぎる。
生温かい目で見られてるっ。
「下までだよ。大切なリディーが滑りでもしたら大変だからね」
1階に着き、拍手で迎えられ、そしておろしてもらう。
ライラックおじいさまが声を張り上げる。
「本日は我が一族の中で新しい芸術の門を開きました、若い芸術家のためにこうしてお集まりいただき、ありがとうございます。まだ社交界には出ておりませんので、記念パーティーという形でご挨拶させていただきます」
おじいさまに促される。
わたしは皆さまの前でカーテシーを決めた。
「リディア・シュタインでございます。本日は、わたしのためにお時間を作っていただいたこと、大変ありがたく思います」
と言ったと思う。
きちんとご挨拶したつもりだったけど、言えていたかどうかわからない。
なんか頭が沸騰中というか、もう訳がわからない。
けれど、盛大にそして温かい拍手をもらった。
フォークリング社の人の挨拶や、親戚の方々からの言葉もあった。
聞いていたはずなんだけど、笑顔を貼り付けることで精一杯で……覚えていない。完全にテンパっていた。
ボーイさんたちがグラスを持ってきて、みんな受け取っていく。
そこで乾杯の音頭が取られた。
「リディア・シュタインの新しい才能の開花に、乾杯!」
「乾杯!」
うわー、こっぱずかしい!!!!!!!!!!!
そのあとはご来場の方々に挨拶してまわった。それぞれの招待客へ、親戚の皆さまが案内してくださる。兄さまともふさまが一緒だったので、なんとか乗り切れた。
ライラック家は本当に芸術の重鎮であるようで、わたしが知っているような作品の作り手さんがわんさか来てくださっていて、それらを評価する人たちも来ていて、何から何まで上品だった。
クジャク家の伝手の方たちは、年配の方が多くて、どうやら国の重鎮で引退した方が多いようだった。
アラ兄が感動していた。
グリフィス家の伝手の方たちは、どこかよそよそしいというか冷たい感じ。別に嫌われている感じはしなかったけど、……そういうスタンスなのかもしれない。
ウッド家の方々は親しみやすかった。商人って感じで、わたしの本も世界中で売ってくれるという。本当にそうしてくれそうで、なんか笑ってしまった。
前辺境伯であるおじいさま、現辺境伯のシヴァも来てくれた。シヴァにはおめでとうございますと抱っこしてもらった。えへへ、久しぶり。なんか癒されるというか、和むんだよね。
フォンタナ家の人々は安心する。いつだって、どこだって、楽しめる人たちだ。所々、〝脳筋〟が顔を出すけど。ダンスを楽しみ、食事を純粋に楽しんでくれている。
最後は友達だ。
ロサには一番に挨拶に行く。なんたって王子殿下、だからね。
みんな素敵な装いだった。
皆様からもプレゼントをもらっているんだ。まだ中身を見ていないんだけど。
わたしはお礼を言いつつ、今日来てくれたことに本当に感謝した。
ロサもすっごいかっこいい装いだ。羽がいっぱいついてる。今度こういうの兄さまに着せたいね。
ダニエルは、派手ではないけれど、自分の良さがわかっている感じ。
ブライは、騎士の服を模したような作りのもので、それもまたカッコ良かった。
イザークは髪をおろしていた。暗い色でまとめて、シックだ。
ルシオは神官服だった。丁寧にお祝いをしてくれた。
アイボリーさまは短めの真っ赤なカクテルドレス。ドレス裾の黒のレースで足を隠していた。色気が半端ない。
マーヤさまは控え目でいて質のいいドレスを身に纏っていた。
みんな最初のお茶会で朗読を聞いた時に、物語に引き込まれたから、これからもたくさんの人たちを君の世界に引き込んでいくんだろうと言われた。
本になる物語も聞いてくださっていたり、手に入れているみたいで、感想を言ってくれた。
部長のタルマ先輩からはおめでとうと花束をいただいた。
ユキ先輩の可憐なドレス姿にノックアウトされているのが丸わかりだ。
そんな二人を年下のエッジ先輩が引率していた。
創作同好会から本を出版する快挙も素晴らしいと言ってもらった。でも3人ともあの物語の感想を熱く語ってくれて、それが何より嬉しかった。
セローリア嬢、ヤーガンさま、エリーとユリアさま。アイリス嬢。
皆さま素敵な装いだった。
顔面偏差値の高いお嬢さまたちは、自由奔放に会話をされていた。
アイリス嬢がかっ飛んだことを言い、それにユリアさまが目くじらを立てている。最初は年上だからと我慢していたようだけど、こんなんで聖女候補で大丈夫なの?と思ったかはわからないけれど、性格が合わないのは感じられる。
ヤーガンさまはその全く隠さないアイリス嬢とユリアさまを面白いと思ったようで、本人その気はないんだろうけど、火に油を注ぐようなことを言っていて、顔を青くするセローリア嬢に、エリーが、大丈夫よ気にすることないわと話していた。
それでもわたしが来てくれたお礼をいえば、おめでとうございますと心から喜んだ声をくれた。
わたしは女性陣に、今日のデザートのオススメを告げる。
一通りご挨拶が終わると、兄さまにダンスを申し込まれた。
わたしは受ける。
池の隣で演奏する楽隊が、軽やかな音を響かせていた。
わたしたちは手を繋いで、ホールの中央に向かった。




