第552話 魔法戦⑩判定
「遅かったね。卑怯なやり方で横取りして僕たちよりずっと前に戻ったはずなのに、どこで寄り道していたの?」
アダムがパンチの効いた皮肉をお見舞いする。彼は憎々しげにアダムを睨む。
ダダっと駆け寄ってきたのは、エリーとユリアさまだ。
「リディア、腕、大丈夫?」
「あなた、顔、真っ白でしてよ?」
「治療していただいたから、大丈夫」
ふたりは心配してくれて思わず走り寄ってしまったようだけど、卑怯なことをしたと思っているからか、なんとも言えない雰囲気になる。
ほとんどのA組の子がそうみたいだ。戻ってきたものの、少しも嬉しそうじゃない。
「早く戻ってきても、白い像はないよな? 俺に渡したんだもんな?」
ビルダはなおアダムに詰め寄る。
先生が簡易テーブルの上においた、ふくろうの像と白い骨の欠片を見て息を呑む。
「お前、偽物渡したのか?」
はぁ?
どこまで頭が腐ってるんだ。
「あの後、ドラゴンの寝ぐらに戻って、とってきたんだよ、もう一度ね」
「嘘だ! 適当な白いものを持ってきたんだろう? 先生たちにはそれがドラゴンの守っていたものかわからないと思って!」
「それは、君たちだろ?」
A組の子たちの顔色が悪くなる。
と、また団体が現れた。D組だ。
荒い息をしながら、……全員いる。時間内に戻ってきた!
そのとき腕輪が点滅した。
「試験終了」
先生が声を張り上げる。
みんながこちらに駆け寄ってきた。
「ちょっと、リディア、顔色白い!」
「大丈夫、治療受けたから」
「シュタインはそのままでいい、みんな並べ」
先生はクラスごとに並ばせた。
「A組、棄権者8名、大将とペアが白いものを持ち帰った。条件クリアだ」
A組の子がほっとした顔をする。
「D組、棄権者なし、大将とペアが白いものを持ち帰った。条件クリアだ。そして、D組が先に持ち帰った、よって……」
「先生おかしいです!」
声をあげたのはビルダだ。
「何がおかしいんだ?」
「D組の白い像はドラゴンの守っていたものではありません。わからないだろうと思って適当な白いものを持ってきたんです」
まあ、当たっているといえば当たってるけど。
「D組、大将、答えろ。あの像はドラゴンの守りし像か?」
「はい、そうです」
アダムはしれっと言った。
アダムが大将でよかったね、他の子はみんな顔に出ちゃうから。
「逆に聞きますが、A組の白いものはドラゴンの守りしものなんですか?」
アダムは冷静に問いかける。
ビルダは嫌な笑いを浮かべた。
「禁止されているのは、息の根を止めるような危険行為だけですよね?」
ビルダは先生に確認する。
「……そうだ」
「私たちはD組がドラゴンに追いかけられているのを助けました。それから戦って、D組が手にしていた白いものを得ました。だから私たちが持ち帰ったものがドラゴンの守っていたものなのです。D組は私たちにとられてしまったから、適当な白いものを持ち帰っただけです」
「……と言っているが、どうだ、D組?」
「A組はドラゴンの穴に降りてない、だから知らないんです。ドラゴンが何を守っていたのかを」
先生が口の端をあげた。
あれは面白がってるな。
「A組、穴には降りてないのか?」
「降りてません」
ニヴァ公爵子息が答えた。
「なぜ降りなかった?」
ニヴァ公爵子息は黙る。
「ドラゴンがいて危険だからです。恐らく持ち帰るものはD組と同じだと思いました。待てるだけ待ってみて、D組が降りた様子を見ることにしました」
わたしを短剣で傷つけた子だ。
「じゃあA組が持ち帰ったものが、ドラゴンの守っていたものだとはわからないのだな?」
「D組が持ち帰ろうとしていたんです、これがドラゴンの守っていたものです!」
ビルダは声を張り上げた。
「さて、D組。A組の持ち帰ったものはドラゴンの守っていたものか?」
そっか。下に行ったのはわたしたちだけ。だからあれがドラゴンの守ってないっとも言える。もし、ふくろうがドラゴンが守っていたものじゃないって見抜かれた場合、そっちのだって違うじゃんと引き分けになるかもしれない。
アダムがなんて答えるかと、固唾をのむ。
「それもドラゴンが守っていたものです」
正直にアダムは答えた。
「お前たちが持ち帰ったものは?」
「こちらもドラゴンが守っていたものです。イシュメル」
アダムがイシュメルを呼ぶ。イシュメルは録画の魔具を先生に渡した。
「これは?」
「ドラゴンが守っていた証拠です」
先生がボタンを押すと、映像が空間に映し出される。壁とかに映すのが一番見やすいんだけど。
大きなドラゴンが白いふくろうの像を抱きかかえて眠っている様子が映し出される。
ビルダの拳が震えている。癇癪を起こしそうな子供みたいだ。
「嘘だ! でっち上げだろう」
正解。でもあんたたちが先に汚い手を使ったんだ。こっちもそのレベルに合わせるよ。
「では、A組対D組の魔法戦対抗試合の、試験の結果を発表する。
どちらの持ち帰ったものもドラゴンの守りしものだと承認する」
承認??
「よって先に持ち帰ったD組の勝利とする」
「そんなぁ!」
ビルダから悲壮な声があがった。
「わーーーーー!」
対照的なD組の歓声。マリンは泣き出した。自分と引き換えに白いものを渡してしまっただけに、不安だったんだろう。




