第549話 魔法戦⑦A組vsD組
オスカーが何か、アダムに耳打ちしている。
アダムがわたしを見た。
走るぞと目が言ってる。わたしとアダムが魔の森から抜け出すってことね。わたしは頷く。
アダムに手を取られて走り出す。
1メートルも走らないうちに、アダムがわたしを抱え込んで地面に転がる。
目の前に火柱が上がっていた。A組の大将の子。彼だ。
彼が突き出していた手を握ると、火柱は消えた。自分の出す炎を消す事もできてる。もうそこまでできるんだ。レベルが違う!
「行かせない、って言ったはずだよ?」
アダムは、わたしを背中に隠すようにして、立ち上がる。
「陣が敷かれてる、隙をつくのは無理だ。総力戦でいく」
アダムの声が響く。
よく見れば、A組はわざと隙を見せた隊列を組んでいた。実力に大きな差があれば問題ないけど、どんぐりの背比べだったら突破は難しい。
「僕の班は攻撃、他はみんなの防御を」
ペアの中でも攻撃と防御に回って、常に補いあうように言ってある。
大将の子がまた手を突き出した。
「風のカーテン!」
防御幕を作り出して弾くと、口の端を吊り上げた。
「じゃあ、これはどうかな?」
D組みんなを火柱で囲む。
もふさまに確かめたわけじゃないけど、1年生ではアダムの次にわたしの魔力は高いはず。負けないはず。
「風!」
わたしは火柱に風をお見舞いする。空気を含んでか一層火が燃え上がる。
倒れた木や何かに火がつきそうになり、彼は慌てて火柱を引っ込めた。
魔法の火は意思で消せるとしても、何かに点火してしまったら、それは水をかけるなりして火を消さないとだ。森のようなところで火事が起こったら本当に大変だ。
わたしを憎々しげに睨む。
「火事になったらどうするんだ?」
「だから、消すしかないでしょう?」
わたしは返す。
彼はわたしを冷静に見る。
「なるほどね、だてに大将のペアではないってことか。運動能力は劣るみたいだけど」
ほっとけ!
それに、大将のペアになったわけでなく、へばったわたしを担いで行動できるのがアダムだけだろうっていう事情だ。
「きゃー」
チェルシーの悲鳴だ。
「アダム、使えることにしている属性は何?」
アダムはハッとしたようにわたしを見る。
「……火と風」
アダムが小さく呟いた。本当は光以外の属性があるだろう、王族とされる人だから。
「何、こそこそ話してる? 作戦会議か? そんなことをしても無駄だ、私たちには圧倒的に力の差がある」
後ろでボロボロ悲鳴があがっている。
「わたしのギフトでその短剣を振るのに合わせて、水魔法が出るよう付け加える」
「え?」
「多分、あの人には物理攻撃もだけど、鼻っ柱を折る方がきく」
「君は付与師か?」
「ちょっと違う。魔力に知ってることを付け加えることができるだけ」
「でも短剣にと?」
言わなかったかと言葉が続くのが想像できる。
「逆。付け加え方でいろいろできるのよ。その靴には土魔法。いい、あんたは水と土の属性を、わたしのギフトで付け加えられたから使えるの」
アダムが水と土を持っていなかったらできないことだけど。そっちの二つを使おうとすれば、剣と靴にチャージされていく。剣と靴が魔具のように水と土の魔法を使用可能だ。
わたしは魔力が少ないということにしているので、それ以上に使ってしまったときに、実は普段から蓄えていたんですと言えるように考えた〝チャージ〟。
付け加え方はわかっている。でもわたしよりもっと魔力の高い人にギフトを加える、改良するというのは、恐らく魔力がかなり必要になると思うんだよね。どれくらい魔力をとられるか分からないので、ずっと永遠に続くものでなく、短時間のものにする。
わたしはアダムの背中に手を置いた。
「ギフト・プラス、水と土のチャージ!」
あ、やっぱり。短時間にしておいてよかった、結構とられた。
アダムは靴の爪先でトントンと地面を叩いた。
「凄い!」
凄いのは、秒で使いこなせてるあんただよ。
「こっちは任せた。わたしはみんなにプラスしてくる!」
「なっ」
後ろに向かって走り出す。
アダムは振り返ってから、またすぐに前を向き直って、A組の大将と戦い始めた。
アダムには、何もプラスしなくても勝てると思うけどね。すっごくお世話になっていることもあって、何かしたかったのだ。
さっき一際大きな叫び声をあげたチェルシー、額から血を流している。
チェルシーの手を引く。
「手当てする」
「なんでもないわ」
そう言いつつ震えている。痛みもあるだろうけど、怖かったんじゃないかと思う。こんな傷になるぐらいの攻撃を受けたのだ。
木陰で濡らしたハンカチを使い傷口を拭く。そして薬を塗った。
「チェルシーは火使いだよね?」
「ええ。でも森の中では使えない。火が燃え広がってしまうかもしれないから」
チェルシーは、魔で出した火を消せるところまで、いってないみたいだ。
「わたしのギフトで、チェルシーにプラスする」
「プラス?」
「付け加える。チェルシーの火魔法に火蜥蜴をプラスする」
わたしは一瞬、水人形を作って見せた。
「チェルシーはこれの火蜥蜴を作れるよ。火蜥蜴はチェルシーの言うとおりに動く。消そうと思えばすぐ消える。だから怖がらないで!」
不安そうにわたしを見たけど、やがて頷く。
「火蜥蜴!」
と大きな声で言えば、炎のちっちゃな蜥蜴が現れた。
彼女は火蜥蜴をA組にけしかけた。
ウォレスが押されていた。ペアのリンジーと一緒に戦っているけど、分が悪い。
「ウォレスの水魔法にプラスする、ホース!」
「ええ?」
後ろから叫んだからか、ウォレスが狼狽えている。
「水魔法、出したい量に調節できるよ」
わたしは掌を大きく開いてそこから水魔法を出した。
「ホース」
と言って、攻撃を手伝う。
そうやって、ギフトをプラスして回った。
押され気味だったのが、巻き返し出した。
「リディア、勝負!」
エリーだ。短剣を振り上げてきたので、短剣で弾いた。
エリーの剣技は重い。弾いたのと同時に、わたしの短剣が飛んだ。
肩に巻きつけておいた布リボンをとって手にする。
リボンでエリーを叩きつける。見た目は布だ。ただ投げかけるとき水を含ませる。
エリーは軽そうな布に見えたのだろう、ずっしりとした衝撃を受け驚いている。
その隙に軸足じゃない方の足に、リボンを巻きつけて上にあげる。
エリーはバランスを崩しながら、風の刃を送ってきた。
わたしは同じ風の刃を刃に当てる。
そのとき横からきた走ってきた男の子に、短剣を突き出された。水をお見舞いして、転がしたけど、その前に手を切りつけられた。
「あなた、横から何するのよ!」
叫び声を上げてから、エリーは目の端を赤くして激昂した。
「援護してやったんだろ!」
転がされた茶色の髪の男の子は、立ち上がりながらエリーに抗議する。
「エイウッド嬢の戦いじゃない、これはクラス対抗の試験だ!」
もっともな発言にエリーが唇を噛み締めた。




