第548話 魔法戦⑥助けてもらった
アマディスはお父さんが狩人だそうだ。それで、骨をまとめて処分するなんてこともあるそうで、骨を小さく砕くのにベトラジアーゼを塗って使っていたのを見たことがあるそうだ。骨の成分の何かを溶かす働きがあるらしい。
エトガルは家が鉱石を飾り細工にするような仕事をするらしく、鉱石中の成分を取り除く手法なんかでも使うそうで、そのことを思い出したんだって。
薬草学では動物性の素材で飲み薬を作る時に、素材が変化しないように使用した気がする。
「で、リディア持ってるの?」
みんなに期待の目で見られる。
「ベトラジアーゼは持ってないけど、貝とワラと布とメーゼ持ってる。あとチオノスも」
「なんでチオノス持ってるのって聞きたくなるけど、それってベトラジアードは作れるってことね?」
ジョセフィンが言った。
「うん。飲むので使うんじゃないから、ベトラジアードでもいいよね?」
ベトラジアードは液体だ。ベトラジアードから身体に悪いなんだっけ、何か反応させて物質を抜くとベトラジアーゼとなる。
誘拐された時、カタリの花の根の汁が、メーゼの代用品になると知って助かった。あれからわたしは、薬草学で、代用品や、その薬品はどうやって作ることができるのかを先生に聞いた。試験には関係ないんだけど、どこでどう役立つかわからないからだ。自分でそれを最初から調べるより、せっかくの専門家がいるわけだからと、聞きまくっている。面白かったようで、みんなもそれを真似した。
ベトラジアードは貝を砕いたものと、ワラと布の燃えかすとメーゼを混ぜれば代用品ができる。
「貝、持ってるの?」
アダムが惚けた顔で言った。
「うん、砕いたやつあるよ」
500年前の貝を砕いた残りがね。
わたしは火魔法が使える人に藁と布の燃えかすを作ってもらった。
3:1:1:2。
薬草学のノートを出して一応確認すると、そんな物までいつも持ち歩いているのかと笑われた。っていうか、家に収納するもの以外、全て収納ポケットに入っている。
でも、役に立ってるもん。
器に全てを入れて、すりこぎ棒でゴリゴリやる。やがて粘り気が出てきたので、同量のチオノスを注いだ。このチオノスは代用品がないって聞いて、買っておいた物だ。けれどギリギリの量だった。
少しかき混ぜて放っておけばベトラジアードの完成だ。
アイデラが胸の前で手を組む。
目を瞑り……ドラゴンが、ん? と首をもたげた。
足の下に隠したはずのものを確認した。
知能高い。あ、あるじゃんって理解して、他のには見向きせずダメかと思ったけど。
ドラゴンはやはり、少し先にある白い物が気になったようで、体を伸ばした。
起き上がり、口で引き寄せようとすると、遠くにコロコロと転がった。
ドラゴンは一歩出て、今度は足で引き寄せようとしたが、それはさらに遠くへ行った。
ドラゴンが近づくと、それは逃げる。
さ、今のうちだ!
骨の細いところに、ベトラジアードをベタっと塗った。
あ、真っ白だったところが灰色がかったり、くすんだりした。
色が変わったところで、アダムが短剣をあてると、ただ短剣を当てた時よりは手応えがあったみたい。けれど、それを折ることはできなかった。
もう一度ベトラジアードを同じところに塗りつける。
アダムが短剣を下ろすタイミングで風を込めた。
あ。5センチくらいだけど、一部を落とすことができた。
やった!
みんなガッツポーズをしたり、小さな喜びのアクションをした。
みんなが地上に戻るぞと移動しだす。
わたしは大元の骨に水をかけて薬品を落とした。そしてそっと浄化する。
これでよし。
ごめんね、一部を切っちゃって。
立ち上がるとアダムと目があった。
「ん?」
「君……」
「みんな早く上へ」
ベンの低い声が焦りを帯びて聞こえる。
みんな走って穴の下へと急いだ。
幻影部隊に合図を送ると、アイデラはその白いのを逆方向へと転がらせていく。ドラゴンは追いかけて、本物の白い骨にたどり着く。
よかった。
ん? 白い骨にたどり着いたが、ドラゴンは穴の下、つまりわたしたちの方を見た。見ている。
「い、急げ」
その様子に気づいたリキが声をあげた。
リキのペアのダリアを風で上にあげようとして、下からの出た風と相まってダリアが高いところへ放られ、その勢いままに下に落ちてくる。
もう一回、風!
風を出す前に、横から来たドラゴンがパクリとダリアを咥えた。
「いやーーーーーーー」
叫んだら口をアダムに押さえられた。
ドラゴンはそのままぴょんと飛び上がって、地上に出る。
! 上に行けるの?
下に残っていた子たちも、慌てて上にあがる。
わたしもスケボーで上にあがった。
ドラゴンがダリアをペッとした。
キャシーがダリアに駆け寄る。
ダリアが起き上がる。怪我とかしてなさそうだ。噛まれた感じもない。
胸を撫で下ろす。
けど、ドラゴン。目の前にドラゴンがいる!
ドラゴンが息を吸い込んだ。
「風、来る!」
D組だけじゃない人の気配、というかマップの点。わたしは大きい声で告げた。
みんな地面に伏せた。ドラゴンが口から風を出すと、風の刃でいっぱい立ち並んでいた木が倒されていた。
破壊力、ヤバイ。
まさか地上にあがってくるとは思わなかった。
その時
「D組、こっちに走れ!」
あれはA組の男子だ。
手を上にあげ、グルグル振っている。
ドラゴンに追いかけられているわたしたちは、その声に従って素直に走った。
わたしたちが通り抜けると、そこにA組の5人が出てきて、ドラゴンに向かって手を突き出す。
魔法だ!
ドラゴンの胸でそれは光った。
多分、火と風を標的に合わせたんだ。
ドラゴンが後ろ向きに倒れて、穴の中に落ちた。
わたしたちはほっと地面に座り込んだ。
「ありがたかったが、なぜここにいて、僕たちを助けた?」
みんなの疑問を代表したように、アダムが尋ねる。
「出遅れたようでね。それなら、君たちが手にしたものを、いただこうと思ったんだ」
「きったねーぞ!」
イシュメルが叫んだのを皮切りに、みんな口々に侮蔑の言葉を投げかけた。
「そうなんだ。だから少し心苦しかったけど、今助けたから、これで貸し借りなしになると思ってね?」
「比重が合わねーだろ」
「でも、窮地だったろ?」
確かに。そして学園側が奪い合いを禁止していないのだ。
「大将とペアは行けよ、ここは俺らが!」
「そうはさせないよ?」
A組の子たちが次々と姿を現した。
木がなぎ倒されたスペースは、対戦するのにちょうど良さそうだった。




