第53話 光の使い手
本日投稿する2/2話目です。
「光は女性に遺伝しやすいというから、国は期待していたみたいです」
ドードリーさんが、バラしたウィリアムさんの脇腹に肘を打つ。
「食事までご馳走になって、せめてもの礼儀だよ。私たちはレアワームの依頼と合わせて、国からリディアちゃんが光魔法の属性を持っているか、確かめるように言われてきたのです」
「国が、ですか?」
母さまが青ざめる。
「奥さま、顔色が……」
「すみません、光属性があることで、王家からいろいろと言われてきたので、また私の子にまでと思ったら。申し訳ありませんが、途中で失礼いたします。リディア、一緒に来なさい」
母さまは失礼だとわかっていることをするタイプではないし、体調が悪くなったと言うだけでもいいのだから、説明したのは〝わざと〟だ。王家の意を汲んだ依頼をしにきたあなたたちを不快に思っている、それを伝えたんだと思う。
〝来なさい〟と命令調だったのにも驚いた。母さまらしくない。でも、それくらい突き放したい嫌なことなんだ。
もふさまがわたしから飛び降りて、兄さまの膝に移った。
わたしは椅子から、後ろ向きにおりて、母さまに寄り添った。本当に顔色が青い。家に入り、母さまたちの部屋のベッドに座らせる。
「お水、持ってくる?」
「いいえ、大丈夫よ。ここに座って」
母さまは自分の隣をポンと叩いた。いつもの優しい笑みでほっとする。
ベッドによじ登ろうとすると、抱えあげて座らせてくれた。
「びっくりしたでしょう? ごめんね」
わたしは首を横に振る。
「王家は、光魔法の属性があるものをそばに置きたいみたいなの。光魔法を持つのは女性が多くて、その子供も持つことが多いことから、特に女の子に遺伝しやすいと考えられている。だから、母さまの一族の女性は王家から何かしらの嫌がら……接点を持とうとされていたの」
「……具体的、には?」
「そうね、リディーには話しておいた方がいいわね。〝妃〟にしようとするの。リディーは〝妃〟わかるわよね?」
頷くと、母さまは微笑む。少しだけ顔色が戻ってきた。
「断っても断っても、あの手この手を使って執拗に絡んでくるの。だから周りの男性はみんな逃げていったわ。あたりまえよ。婚約者になるということは最高権力にはむかうことと同じになるんですもの。
最初はお妃候補を選別するお茶会だったわ。母さまは親族の子供たちと一緒にお茶会に行かされた、強制的にね。女の子はお妃候補で男の子はご学友ってやつね。小さいうちから貴族を選抜して周りを味方で固めるためにね。それ自体は悪いと思わない。でも私たちは光魔法の使い手をいいように使う気なのを知っていたから、お妃候補にならないように必死だった。
現れた王子さまは見目は麗しかったけれど、性格がよろしくなくて、挨拶で緊張してどもった子を蹴って、無能な奴は見たくないから帰れと言ったのよ。7歳の子供がね。あんな方が王になるなんておかしいと思ったし、その伴侶になるのも嫌だった。だから、お茶会から帰って、伝手を探して、全員が婚約したの」
「婚約?」
「母さまは7歳だったわ」
「父さまと?」
「いいえ」
母さまは言いにくそうにした。
「母さまの姉さまが、まず目をつけられてしまった。魔力が多くて光魔法も一番高度なことができたから」
懐かしむように微笑む。双子の本当のお母さんのことだ。
「国から逃げようとすれば妨害され、あの手この手で王室に入るように脅かされて……。聖女さまが現れていれば違っていたんでしょうけどね」
「聖女さま?」
「光魔法も及ばない、聖なる力を使える方よ。いつ、どこで、誰に力が発現されるかは誰にもわからない。聖女さまが現れたら〝王〟は正室、王妃にしてきた」
「聖女さまが現れたとき、もう結婚していたら、どうするの?」
「王族だけは世継ぎを残すために奥さんが何人いてもいいの。だから元々王族には王妃さまと側室さまたちがいる。そして聖女さまが現れたら、聖女さまが王妃さまとなり、元王妃さまは側室さまになる」
うわー何、その法則。王妃さまだったのが側室になるって、それ心情的に恐ろしい。
「光の使い手を王族は欲しがる。お姉さまも、従姉妹も、母さまも、王室の一員に迎えたがっていた」
姉妹と従姉妹が同じ人の奥さん? なかなかえげつないな。
「光の属性を持っているだけでも特別視されてしまい、それに魔力が多かったり、光魔法でできることが多いと、どんなことになるか想像がつかないわ」
そんな縛りがあるのか。光魔法は隠し通そう、うん。
「母さまの従姉妹も可哀想だった。婚約者が3回変わったわ」
相手が変わったその理由を母さまは言わない。
「なんだかんだと王家からの誘いを断り、ついに婚約者になってくれる人がいなくなった時に、子供を産んですぐに奥方が亡くなった侯爵家に嫁いだ。18歳で後妻に入って驚いたけれど、……そこでの生活はとても楽しいようだったわ。でも、それも長くは続かなかった」
兄さまの家族のことだ。
「みんな愛する人と結ばれることができたけれど、若くしてこの世を去ってしまった」
彷徨った手がわたしの頬に触れる。
母さまだって、もふさまから〝呪い〟と聞かずにいたら、若くしてこの世を去った。その考えに至って、鳥肌が立つ。
若くして亡くなったことは悲しいけれど、みんな頑張って生きたと思う。残された側は辛いけどさ。忘形見と一緒に、楽しく暮らそう! いつか王家のワードを聞いても悲しいことが思い浮かばないぐらいに。
「リディーが王族を好きになったり、リディーの幸せなら、何を選んでも構わないの。ただ聖女さまでない限り、聖女さまが現れれば側室になるし、光魔法の使い手は利用価値があると思われていることだけは覚えておいて」
そう言う母さまが哀しそうに見えたので、手を伸ばして母さまの頭を撫でた。
「母さま……」
手を止めて思わず呼びかけた。母さま目から涙が溢れでたから。
「リディーの幸せなら何を選んでもいいとは思っているけれど、王族を選んだら、祝福はできそうにないわ。ごめんね、こんなことは言ってはいけないのに」
ポタポタと涙が落ちる。そりゃ嫌がらせをされてきたなら、王族にいい感情は持てないだろう。
「聖女さまはいらっしゃらないから、第一王子さまのご生母が今の王妃さまなの。王妃さまは気が病んでしまわれて、だから第一王子さまは後ろ盾がいない」
ああ、だから第二王子さまの〝妃〟が〝王妃〟になる可能性か高いのか。
「王妃さまに、母さまたちはよく思われていなかったの。だからもしリディーが王室に近づいたら、病んだ王妃さまの怒りがあなたにむくのではないかと心配なの」
それか! その思いが母さまをこんなに疲弊させているんだ。
「母さま、わたし王室なんて面倒ごと、選ばないよ」
選ぶような状況にもならないだろうけど、と思いながら言っておく。
母さまの娘ってだけで本当に価値がつくのかね?
控えめなノックがあり、兄さまが「大丈夫?」と首を出す。足元にはもふさまだ。
「大丈夫よ」と母さまが告げると、お客さまがお帰りになるという。少し戻ってきたものの母さまの顔色は良くないから、ベッドに寝ていてもらう。わたしはもふさまを抱えて、兄さまと手を繋ぎ庭にでた。
「奥さまは大丈夫ですか?」
「はい、今寝ています」
卒なく兄さまが答える。
このうちの誰かが敵。敵の目的は何なんだろう?
「本当にどの料理もおいしかったよ。ご馳走さまでした」
みんなとても丁寧にお礼を言ってくれる。
ウィリアムさんがわたしの前に跪く。
「小さなレディ、今日はご馳走様でした」
とわたしの手をとり、指先に軽くチュッと口付ける。
うわー、さすが元騎士!
肩を掴まれ後ろに引き寄せられる。
「軽々しく触れないでください」
兄さま、声が冷たい。
双子もわたしの前に出る。
「ああ、これはナイトがいっぱいですね」
ウィリアムさんが苦笑いした。