第52話 探り合い
本日投稿する1/2話目です。
「冒険者とは魔物と戦うのだと思っていました。土の調査など、国からの頼まれごとをするときもあるのですか?」
兄さまが無邪気を装って割と限定して突っ込んで聞く。
「そうだね、魔物と戦うことが多いけれど、ギルドは困りごとを引き受けるし、依頼があれば請け負うよ。なかには今日みたいに、レアワームに打ち勝った畑の裏付け調査なんてのもある」
ウィリアムさんは兄さまにウインクを決めた。
「レアワームがいなくなるのはいいことですよね? いいことを報告したのに、どうして裏付け調査なんかされなくてはいけないのでしょう?」
「フランツ」
父さまに呼ばれて、兄さまはピクッとする。
「ごめんなさい。でも、報告書を提出したのに調べに来るのは不思議で」
「フランツ君が不思議がるのも、もっともだね。ただ、何事も裏付け調査は大切なんだ。ひと方向からしか物事を見ないと見落としがあるかもしれないからね。重要な案件は多角的にいろんな人の目を通して検討するんだ。
今回のレアワームの退治法についていうと、報告書の真偽から、それがこの土地に対しての特別なものなのか、それとも全土を通して言えることなのか、そこに勘違いや捏造はないか確かめる。その後に土壌、農業に詳しい技術者や研究者が調べる。
それには莫大なお金と時間がかかる。そのお金は税金から賄われるものだ。お金をかけて調べるのに値することか、まずは調べる必要がある。私たちはそのために来たんだ」
ウィリアムさんは丁寧に説明してくれる。
「そうなんですね。教えてくださって、ありがとうございます」
兄さまが天使の笑顔で微笑む。
「いやいや、疑われているみたいで嫌だよね。昨日領主さまがおっしゃったように、町と村で話を聞く方が合理的ではあるんですが、領主さまのお人柄と、ご家族を我々の目で見る必要があったので」
父さまがテーブルに肘をつき、手を組んだ上に顎を乗せる。そして微笑みを携えたまま尋ねた。
「それでどうだね、君たちの目から見て、私が嘘の報告書をあげるように見えたかね?」
「報告書から垣間見える通り、誠実なお人柄に見えました。お子さんたちにも、優秀なところが受け継がれているようですね。レアワームの視察にもお子さんたちも連れていかれたし、今回のことに一役かったようだ」
昨日この領地に着いてわたしたちと食事した。辺りは暗くなっていたその後から、今日の午前中のここに来るまでのわずかな間に、町で聞き込みをしたみたいだ。裏付け以上に探られている感じがするのは、微妙な敵がいると思っているからなのかな?
もふさまはご飯を終えて、わたしの膝にジャンプしてきた。
小さい声でお腹いっぱいになったか尋ねると、いっぱいになり、とてもうまかった、とのことだ。もふさまはちょっと辛いのも好きみたいだ。よかった!
もふさまは気にしないというけれど、お客様がいたので、もふさまは同じテーブルではなく、大きな椅子の上でひとりで食べたんだ。ごめんねと思いながら頭を撫でる。
「皆さんが使われているその二本の棒は、なんなのですか?」
弓の使い手というカークさんが父さまに尋ねる。
みんなわたしを真似て箸遣いが上手くなったなぁ。
「ハシといいます。ライズを主食にする国ではこれを使って食事をするようです」
父さまが答えた。米がライズと呼ばれているとわかったので、ライズを調べたら、ライズを主食とする国がいくつかあって、そこではお箸も使われているのが書いてあったのだ。
「リディアちゃんの抱えているのは、犬かい?」
ウィリアムさんに聞かれた。
『違う!』
もふさまが吠える。言葉がわからないと返事しているみたいでかわいいだけだろう。
「うーうん、もふさま」
「もふさま?」
「うん、もふもふのもふさま」
もふもふに顔を埋める。
秘技・幼女の〝決めつけ〟だ。種族名を聞かれようが犬種を聞かれようが、わたしの認識はもふさまで、もふさま以外の何者でもないのだ。
「リディアちゃんは5歳になったのなら、魔力は通ったよね?」
尋ねてきたガーブルさんに頷く。
「お兄さんたちは上手に土魔法を使っていたけれど、リディアちゃんは何が使えるの?」
教会には聞いてないよアピールかなと深読みしてしまう。いけない。わたしは5歳。
「水と風。うまくない」
「リー、そんなことないよ。リーはちょっと繊細なことをするのに向いてないだけだよ」
「細かいことは好きじゃないだけだよなー」
双子が庇ってくれるけど、余計に虚しくなるのはなぜだろう?
「ドラゴンが来たんだろ? 見た?」
「見た。おっきい。青い!」
村の子供たちをお手本に興奮した演技をする。
「ドラゴンを見てどう思った?」
「仲良くなれたらいい!」
カーブルさんは一瞬だけ驚いて、ニッと笑う。
「そっか、仲良くなれたら、か。リディアちゃんは動物が好きなんだね」
「うん」
「リディー」
母さまから名を呼ばれて言い直す。
「はい、もふもふが好きです」
「ドラゴンは〝もふもふ〟してないだろ?」
「ツルピカも、かわいければ好きです」
「……ドラゴンはツルピカだった?」
あ。
「陽が当たってキラキラしてた」
「そっかー」
まずっ。それにしてもわたしに質問が集まるってことは、やはりわたしに何か疑いがあるのかな? わたしのギフトが何か利用価値があるものかもって思われているのかな?
だとしたら、それっぽい何かで決定的には価値がない、そんなギフトだってのを打ち出しておかないとだね。あとで父さまたちに相談しよう。
「アラン君とロビン君は土魔法、見事だね。あとは何を使えるの?」
ウィリアムさんが尋ねる。
「水です」
「おれは火」
「ロビン?」
母さまチェックでロビ兄が言い直す。
「火です」
みんな含み笑い。
「フランツ君は?」
「火と風です」
「光は継がれなかったのですね」
あまり会話に加わらず静かだった、体の一番大きなドードリーさんが残念そうな声をあげた。
「私は光魔法でできることも少ないですし、魔力もそう多くありませんから、子供たちには継がれなかったのでしょう」
母さまが落ち着いた声で言った。




