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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
12章 人間模様、恋模様

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第506話 攻撃②お茶とお茶会

「リディア嬢は、本当にここが好きだな。会えてよかった。これを渡したかったんだ」


 ロサは上着のポケットから、小さな封筒のようなものを出した。

 お花が立体的にデコレーションされている、かわいらしいものだ。

 ポケットに忍ばせてよく潰れなかったなと、余計なことを考える。

 メロディー嬢が息を呑んだ。


「ロサさま、それはいけませんわ。今度のお茶会は大切なもの。もう婚約者のいるリディアさまは相応しくありません」


「そんなこと言ったら、コニーもだよ」


 ロサが吹き出している。


「お茶会の招待状だ。来てくれるだろう?」


 不意に真面目な顔になる。


 ーーわかった。信じる。けれど、今度お茶に付き合ってくれ。すべて話してくれるね?ーー


 ウィッグの髪を一房手にとり言われた時の、ロサの真摯な眼差しが同じだ。

 お茶って、お茶会のお茶? 王子のお茶会なんて面倒ごとでしかない。だから今まで関わらないようにしてきたのに。

 それにメロディー嬢の言い方からして、何やら含みのあるお茶会くさい。そんなところに招いて、あの時の話をさせようとするなんて。

 言葉が繋げないでいると、ロサが言う。


「一人が嫌だったら、フランツと一緒でもいいから」


 譲歩だろう。


「いけませんわ、ロサさま。ロサさまの婚約者候補を決める、大事なお茶会ですのよ? リディアさまがいらしたら、リディアさまも候補だと思われますわ」


 え?


「それはコニーの考えすぎだ。リディア嬢はフランツと婚約しているのだから」


 ロサは身を翻す。顔だけ振り返る。そして微笑んだ。


「リディア嬢、待っているよ」


 メロディー嬢が踵を返して、小走りにロサを追いかけた。




 念のため、封筒を開ける。

 まごうことないお茶会のお誘いだ。最悪。


 ふたりの後ろ姿を見送る。

 アダムに調べて欲しい項目が、ひとつ増えてしまった。

 でもメロディー嬢に繋がりがあるとわかったらどうする?

 繋がりがなかったらどうする?

 自問しなくても明白だ。

 それはあまり関係ない。

 似たような商品が出るのは仕方ないことだとしても、元ウチの従業員を引き抜いてという姑息なところが頭にくる。


 最初からウチを狙っていた。

 ペリーの言葉を全て信じたわけじゃないけど、信じたかった。

 真っ当な商売しかしないという心意気を。

 ペリーの意思なのか、違うのかはわからないけど、ウチの領地で店を開く。とことんやるつもりだね。

 ペネロペ商会、受けてたつよ。ウチの領に手を出したことを後悔させてやる。

 すぐには思いつけないけど、許さないから。


 ……メロディー嬢がなにかしら関与していたら、兄さまには言いづらい。

 あ、それにアダムに情報を頼んだこと、あれも言えないし……。

 兄さまに秘密を持つことを言わなくちゃね。この間、思わず秘密は作らないって頷いちゃったから。




 週末の夕食後、家族会議が開かれた。

 サブルームにて、みんなで話し合った。

 みんな同じ気持ちだった。

 秘密を打ち明けることは危険を共有することになる。知っていることで害を及ぼすかもしれない。けれど、わたしたちは、きっと危険でも助けてくれようとする、親戚の皆さまの気持ちに真摯でありたいと思った。

 だから全てを話すことにしたのだ。次の休みに皆さまを王都の家に招くことにした。


 王都の家に戻ってきてから、わたしは兄さまの部屋を尋ねた。

 もふさまやもふもふ軍団も一緒だ。

 部屋に入ると、兄さまの上着を肩にかけてくれる。


「リディー、あったかくしないと。この間も寝込んだばかりなのだから」


「……ありがとう」


 兄さまの部屋の椅子はわたしには高くて、足がプラプラしてしまう。


「あのね、兄さま」


「ん?」


 優しく相槌をうつ。


「兄さま、わたしに秘密は作らないでって言ったでしょ?」


 兄さまは口元だけは微笑んだまま、頷く。


「わたし、あのときは頷いちゃったんだけど、兄さまに秘密ごとを作るわ」


「それは、どういう意味かな?」


「全部明かしてしまったら、兄さま、わたしに興味なくなっちゃうでしょ?」


 3日うんうん考え抜いた言い訳だ。小悪魔的なテーマで攻めてみた。どうよ?と兄さまを見上げる。


 兄さまがわたしの座っている椅子の前で膝をつく。

 そして、膝の上に置いていたわたしの手をとる。


「私がリディーの全てを知ったからと興味を無くしてしまうって、本当に思う?」


 手の甲に口付ける。

 色気がヤバイ。なんかそれだけのことなのに、絶対顔赤くなってる。


「そ、そうなったら困るから、わたし、兄さまに秘密を作るから」


「ふぅん、そういうことにしたいんだ?」


 チロリと目を向けられる。


「それは、ロサ殿下のお茶会に、招かれたことに関係してる?」


 あ、もう知ってた。


「兄さまに頼もうと思ってたんだ。お茶会に一緒に行ってくれる?」


「正式には発表されていないけれど、ロサ殿下は王太子になるだろう。このお茶会は王太子妃候補を選ぶ顔合わせだと言われている。今まで王族のお茶会に見向きもしなかったのに、なぜ今、それも憶測が飛び交うこのお茶会に、行くなんていうんだい?」


「招待状をもらってしまったんだもの。兄さまと一緒でいいっていうし。一度くらい王族のに行ってもいいかなと思ったし」


 兄さまは立ち上がり、椅子の背を持った。

 椅子ドンだ。


「本心は?」


 にこやかな表情だけど、黒い何かが出ている。


「兄さま、わたし喧嘩を売られたの」


「……誰に?」


「ペネロペ商会に」


 もしくはその後ろにいる人物に。


「ホリーさんと、ウッドおじいさまに任せるんだろう?」


「そう思っていたんだけど、わたしも参加するつもり」


「リディー」


「兄さまは止めると思った。でもわたしはやるわ。汚い手を使うこともあるかもしれない。それを兄さまに知られたくないの。だから詳細は話さない。秘密にする。商会のことは、兄さまに口を出して欲しくないの」


 兄さまは、探るようにわたしを見ている。


「お願い。わたし、アールの店のことだけは負けたくないの」


「リディー」


 ノック音があり、兄さまが答えると入ってきたのはアラ兄だった。

 目を細めた。椅子ドンしている兄さまの手を椅子から離し、わたしの手を引いて立たせる。


「もう、遅い時間だから、リーは部屋に戻ろうね」


 ……アラ兄……。


「わかったよ、アラン。リディーもおやすみ」


「おやすみなさい、兄さま」


 そしてなぜか、そこからわたしはアラ兄にお説教をされることになった。

 夕食後は兄さまの部屋に行ってはダメだと、こんこんと諭される。

 怒られついでに、馬鹿狐から何か聞かなかったかを尋ねた。

 退職したというと驚いていた。

 狐から得た情報はないとのことだった。狐はわたしが当てはまらなかったことがショックで、ひたすら嘆いていたそうだ。

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