第50話 レッツクッキング
本日投稿する1/2話目です。
大人の話をするので、部屋から出てはいけませんと言われた。
部屋に篭っているぐらいなら、外で好きなようにしていたいと言ってみたのだが却下された。
少し考えてから、父さまはわたしたちに言った。
「お前たちには、はっきり伝えたほうが各自考えて行動すると思うので言うことにする」
父さまはそう前置きをした。
「昨日、護衛してくれた冒険者が家にやってくる。レアワームについて知りたいとのことだが、ウチを探りにくるのは間違いない」
「ウチを探りに?」
「どうして?」
双子が父さまに尋ねる。
「どうしてかはわからないが、レアワームの解決法をみつけたのは昔からの伝承だったと伝えているのを信じられないのかもしれない。そういった解決法をみつけられるギフトがあると思ったのかもしれないし」
父さまはそこで一息ついた。
「青いドラゴンが2度も領地に飛来した。それも一回は恵みをくださった。人は疑い深い生き物だから、関連づけて考えたがる。意味があると思えば納得できるからだ。領地に青いドラゴンの加護がある。もしくは誰か人にと思ったのかもしれない」
「加護があるとどうなるの? 恵みをいっぱいもらえるの?」
アラ兄が質問した。
「悪いことが起こりにくくなる。地に加護があれば、実りが増えるし、人に加護があれば護りが入り、加護されし者によくないことを考えた者には逆に罰が下るだろう」
「それなら、加護があると思えば、手出しをしようと思わないってことだね?」
兄さま、頭いい!
父さまは、少し哀しそうに笑う。
「そうだといいんだが、中には狡猾、もっと悪いことを考える奴もいるんだ。どこで知るのか、加護を与える者の制約を知り、その隙間をつく。直接加護のある地や人ではなく、狙いを少しずらして、罰は受けずに甘い汁だけ啜ろうと考えたりするんだ」
わたしがチラリと、もふさまを見ると頷く。
『聖獣や高位の魔物には、それぞれに種族や役目により制約がある』
制約か……そういうものなんだ……。
「ドラゴンがやってきたのは、領主が変わってからだ。しかも領主がいない時に物盗りに目をつけられながら、母さまと子供だけで捕まえている。その時に森の鳥たちが飛び立つ異変もあったしな。これは誰かに、何かがあると思わずにはいられないんだろう」
みんながわたしを見ている。それを探りにくるってこと?
「わかった、大人しくしてる」
とりあえず、みんなを安心させる。
「でも、部屋こもるじゃなくて、ご飯作ってていい?」
「炊事場か……。まあ、炊事場なら。教会で言われた以外の魔法やギフトは使わないこと」
「はぁい」
イダボアの町で買った、小さな男の子が着る服を着て、髪は髪紐でひとつにくくった。ズボンなら多少動きやすい。スカートをひっかけて転ぶなんてこともなさそうだ。
手をよく洗い、兄さまたちにも強要する。
『今日は何を作るんだ?』
もふさまの尻尾が揺れる。
「ジョウユを使った、お肉の丼」
みんなちまきが大丈夫だったから、最初はお肉の丼でいこうと思って。本当はお刺身、お寿司に行きたいけれど、生モノだから抵抗あるかもだもんね。
甘辛い醤油丼ものなら間違いはないだろう。
最初は白米でいこう。丁寧にお米を研ぐ。研いだお米は水を切っておいて、乾いてきたら水に浸透させる。そうすると水をグイグイ吸い込むんだ。
昆布をからっからに乾かしたものを、お水に入れておく。今度カツオを燻ってみよう。鰹節に似たものができたらいいな。
昆布だしでお味噌汁作るよ。それから肉じゃが。
それぞれのカメから大きめの瓶に詰め直してもらって、そこから使っていくようにする。
芋とニンジの皮を剥き一口大に切る。乱切りだね。マルネギはくし切りに。
今まで兄さまたちに魔法でやれと簡単に言ってきたが、やってみて反省する。器用さがいる。具が大きすぎてしまう。兄さまたちが笑いを堪えている。笑われたので肉はナイフで切る。なかなか切れなくてこちらも大変だった。包丁が欲しい。
丼のお肉や野菜は兄さまたちが切ってくれた。素早く、切り口もきれい。ちっ。
さて。お鍋にライズとお水を入れて、ご飯を炊き始める。
隣のコンロでわたしが作ったいびつな形の木のしゃもじを使って、油を引いた鍋でお肉を炒める。椅子に乗って火をかけたお鍋に接近するのは危ないので、しゃもじを風で動かす。しゃもじは立てているだけで、肉を風で転がしているが正しいかも。色が変わってきたら、野菜を入れるよ。油が野菜の表面をコーティングしたら、もう一息頑張って炒める。昆布をつけておいたお水とジョウユと砂糖を適当に。コクを出すのに蜜をちょっぴり。沸騰させて灰汁をとり、マルハラの葉を落とし蓋代わりにして、煮詰めるだけ。
ご飯も炊けたみたいだから、火を止めて蒸らす。
空いたコンロで、お味噌汁! 具材はワカメ。海藻、食べたかった。
昆布水を煮立たせて、洗って茎部分をとり一口大に切ってもらったものを投入! ワカメの色が変わったら、ミソンをとけば出来上がり。
メインのお肉と野菜を焼こうかね。
前世では夏の野菜だった、アカナスとピーマンだ。
鉄板欲しいなー。お鍋に油をひいて水につけておいたアカナスとピーマンを炒める。先にちょっと塩をすると時間短縮になる気がする。肉を入れていく。肉から焼くのが良いのだけどね。一回肉をお皿に移しておくって工程がめんどーなので、火が入る時間軸に合わせて焼いていく。9割方、火が入ったところで、砂糖、醤油と昆布だし水を少々。辛ミソンを気持ち足して、チョイ辛に。味がしみ込んだらオッケー。出来上がったものはバッグに収納する。ご飯もの専用の先祖から受け継がれてきた袋に入れていく。
ドアが開いて緑色の髪の人が入ってきた。父さまか母さまと思ったのでビックリだ。
確か名前はカーブルさん。男たちを引き渡しに行った人だ。
「うわー、すごいな。君たちがご飯の用意しているの?」
さりげなく兄さまがみんなの前に出る。
「はい、みんな料理が好きなんです。ここは炊事場でお客様を通すところではありません。手洗いにご案内しましょうか?」
間違えて迷い込んだことに話をもっていっている。兄さま、よく思いつくな。
「ずいぶん、しっかりしてるな。悪いね。いい匂いに釣られて勝手に入ってきて」
ああ、匂いか。うん、このお醤油と砂糖を煮詰めた匂いって、たまらん、よね。
ギュルっとカーブルさんのお腹がなった。
アラ兄がお鍋のお肉とアカナスとピーマンを小皿に取った。フォークと一緒に渡す。
「よかったら味見をどうぞ」
カーブルさんは目を和ませて嬉しそうにお礼を言う。
「ありがとう。とってもうまそうだ!」
そしてお肉を早速口に入れて、目を大きくしたかと思うと、お皿に口をつけるようにしてかっこんだ。
「すっごい、うまいよ! この味付けは何? 黒っぽいけど」
「ジョウユと砂糖です」
ロビ兄が答える。
「ジョウユ、聞いたことないけど、すっごいうまい! お店を開いて欲しいぐらいだよ」
目がもっと食べたいと言っている。
初めての人がお米大丈夫かな? それに家畜の餌でもあると知って怒ったりされてもなー。
「おチビちゃんも、お料理するのかい?」
「できること、あまりない」
野菜を魔法で切ってもあのザマだし。お肉も厚さがてんでバラバラだから、火を通すのにも一苦労だ。
「そんなことないよ。リーはよくできてるよ」
「リーが頑張った〝肉じゃが〟? もウマそうだ!」
ウチの兄さまたちはわたしに甘い。
「へー。おチビちゃんが頑張ったその肉じゃがってのも食べてみたいな」
「父にお出ししてもいいか、聞いてみますね。どうぞ」
そのまま父さまのところにカーブルさんを連れていくみたいだ。