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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
12章 人間模様、恋模様
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第494話 禍根⑤57回目の大逆転

 2回目の脱出はもう手慣れたものだ。


 悔しいけど、ホーキンスさんの予言通り、わたしは舞台を見に行くことにした。……特に他にやりたいことが見つからなかったからだ。

 団員数が少ないのか、チケット売りを今日も主役がやっている。

 ホーキンスさんはわたしを見ると、「来てくれてありがとう」とわたしの頭を撫でた。


「今日は、気合入れて見てくれよな?」


「はい」


 わたしは素直に返事をした。3500ギル奢ってもらっちゃってるしね。

 昨日と違って満員御礼だ。

 わたしに用意してくれた席は、2階から真っ直ぐに舞台が見える特等席だ。これ、3500ギルどころじゃないね。

 実際2階に来てみると、個室というか、横に薄い仕切りを立てて、個室に見立てているものだった。

 わたしの左隣は高貴な人みたいで、後ろに控えているのは護衛だろう、鎧アーマーのぶつかるカチャカチャという音が聞こえた。



 本当に56回、振る方も振られる方も感情が違うのか、わたしはそこをチェックするために見にきた。それだけのために。

 ホーキンスさん演じるマークは、一生懸命さが空回りしてしまうちょっと残念な人。落ち込んでいる時に、花屋のリリーに優しくされて恋に落ちてしまう。

 マークは果敢にリリーにアタック。一方、リリーはこの街に来る前に酷い振られ方をしたことから男性不信。

 あまりにオープンに告白してくることから、ふざけているんだと思って、断り続ける。


 最初は胡散臭いから。

 その髪型が嫌。

 他の女の子と楽しそうに話していたから。

 友達に理不尽なことを言われても言い返さなかったから。

 服装がだらしなかった。


 振る言葉はそれらだけど、気持ちはだんだん内面に向かっていって、信じたいけど、信じるのが難しいと言っているような、ふたりの演技は素晴らしかった。

 本当にどれをとっても、奥に潜む気持ちが違っていた。

 途中、20連発で目に余るところを言った時は、早口言葉かと思ったけど。


 57回目にやっとOKが出たときには思わず頬が緩んだ。……そして救われた気がした。

 思いが通じたマークは嬉しそうに空を仰ぎ、その時、ホーキンスさんと目が合った。


 幕が降りた時は割れんばかりの拍手が巻き起こる。

 カーテンコールでも、わたしは精一杯の拍手を贈った。

 マークの告白は、振られるまでがセットで、街の名物になっていく。よくやるとかめげないとか、愚か者だと嘲笑されていたりもした。けれど、人の心に何かを残し続けた。

 なんだかわからないけれど、わたしは確かにマークの行動に、想いに、励まされていた。

 それにしても、左側は静かに観ていたけれど、右側はマナーがなっていなかった。何を話しているのかまではわからなかったけれど、観劇中にずっと話しているなんてマナー違反だ。

 ウチのもふもふ軍団は2回目だからか、みんな揃って眠っていたので、集中してお芝居をみることができた。


 階段を降りて劇場を出ようとして、わたしは信じられないものを見た。

 回れ右をして、トイレに駆け込む。

 び、び、びっくりした。

 前を歩いていた、恐らく左隣の個室で観賞していた人たち。護衛の合間から、前を歩く男女の横顔が見えた。 

 ロサだった! あと知らないお嬢さま。装飾品からかなり身分が高そうだった。

 授業どうしたのよ。自分のことはさておき、わたしはそう思った。

 トイレに篭り、胸を鎮める。

 もう行ったかな?

 そっとドアを開けて外を覗き込むと、ドアが引かれて、わたしは体勢を崩した。


「お嬢ちゃん、大丈夫かい? 具合が悪くなった?」


 心配そうに言ってくれたのは、ホーキンスさんだった。






 どうやらトイレに駆け込むところを、劇団員さんに見られ、招待したホーキンスさんに話が行ったみたいだ。

 恥ずかしすぎて「大丈夫です」の言葉も小さい声になる。

 家まで送ろうと言われ、わたしは丁重に断った。


「あの、マークさんもリリーさんもとても素敵なふたりでした。ひとつずつ欠点を直しながら、揺れる気持ちが、本当に素敵でした!」


 本当に感動したのだからそのまま伝えればいいのに、改まるとどの言葉も当て嵌まらなかったり滑稽な気がして、とても拙い言葉の羅列になってしまう。


「今日は楽しんでもらえたようだね、よかった」


 そう笑った顔はとても素敵で、昨日と意見を180度変えて、全女性がこの人に惚れるって話はあながち嘘ではないのだなと思った。


「……悩んでいたことは解決した?」


 わたしはホーキンスさんを見上げた。


「悩んでいるし、ずっと悩み続けると思います。でも、決めました。わたしはわたしの57回目を信じたいと思います」


「君の57回目?」


「はい。マークさんはあきらめずに想いを持ち続けていたから、57回目の機会がやってきました。機会はいつ訪れるかわかりませんけれど、わたしにも訪れると、そう信じたいと思います」


 実際、告白されて断っても断ってもあきらめないでいられたら、恐怖しかないと思う。でもね、マークさんがめげなかったのは、リリーさんの揺れている想いを見逃さなかったからだと思うんだよね。それが当て外れだった場合、どうしようもなく恐ろしいけどさ。


 わたしは心について専門家じゃない。だからわたしが判断を下すのは危ないことってわかっている。だからね、わたしからは近寄って行ったりしない。

 けれどね、先輩が歩み寄ってくれることがあったなら、わたしはいつものわたしで挑もうと思う。体当たりしようと思う。だって何が良くて、何が悪くなるのかわからないんだもの。わたしのその時の一番いいと思うことを精一杯でぶつかるしかない。結果は56回傷つけるかもしれない。いや、それ以上のこともあるかもしれない。でも、そうではない57回目が訪れることを信じて待ちたいと思う。


 わたしが同じ寮にいることで、わたしの行動で先輩をまた傷つけるかもしれない。何がどう傷つけるかわからないから、とても怖い。

 でも、先輩が弱くある時があっても、ずっと弱いわけじゃないと信じたい。

 わたしがD組にいたい気持ちを正当化しようとしているだけだとも思うけど、でも決してそれだけじゃない。

 わたしの56個の行動が傷つけたとしても、57個目は傷つかない何かかもしれないから。

 未来はわからない。正解はまだない。後から結果が出てくるのだ、だからガムシャラにやるしかない。


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― 新着の感想 ―
[一言] わたしの57回目、いい言葉ですね。 ガネット先輩とのやり取りだけでなく、リディアに舞い込むトラブルすべてが最後には報われると信じています。
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