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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
12章 人間模様、恋模様
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第488話 兄の線引き

『リディア、アランだ』


「アラ兄?」


 ジェイお兄さんとチャド・リームと別れ、踵を返したところだ。

 キョロキョロして、アラ兄を見つけた。


「アラ兄!」


 手をあげて駆け寄れば、アラ兄は切羽詰まったような顔をしている。


「アラ兄、どうしたの? 何かあった?」


「何かあった? じゃないよ。純潔じゃないってどういうこと?」


 えっ。何でアラ兄がそんなこと、あ、狐か! あのバカ狐が余計なことを言ったのか。


「相手は兄さま、だよね?」


「あ、アラ兄。兄さまというか、話を聞いて。あのね」


 アラ兄が踵を返す。

 え?

 そして走り出した。

 は?


「アラ兄、待って!」


 どこ行くの?

 追いかけたが、運動神経のいい兄に追いつけるはずはなく、差は開く一方だ。

 あ、兄さま。

 前から兄さまが来た。

 その兄さまをアラ兄が殴った!

 ええっ?

 ちょっと、えええっ?


「も、もふさま、ふたりを止めて!」


 もふさまはわたしを振り返ってから、シュタッと駆け出して、兄さまに馬乗りになっているアラ兄の襟を持って、仲裁に入ってくれた。

 やっと近くまでたどり着いたが息が上がってしまい、話せない。

 ひえーー、兄さまの口横から血が出てる。


「アラン、どういうことだ? 説明してくれ」


 兄さまが息を切らしながら尋ねる。

 血を袖口で拭っている。


「兄さまが、節操ないとは思わなかった」


 兄さまが驚きながら、眉を寄せている。


「兄さまはリーを大切にしてくれると思ったのに!」


 誤解、誤解なのって言いたいけど、息を吸ったら咳き込んだ。


「何の話だ?」


「リーは伯爵令嬢だ! 伯爵家の娘が結婚前に純潔じゃなかったら、貴族社会でどれだけ後ろ指をさされるか!」


 さ、最悪な形で兄さまに伝わった!

 言いにくいのと、報告するなら最初に兄さまにするべきと頭の片隅にあったから。


「結婚前に純潔じゃない?」


 ますます眉を顰める兄さま。


「リディー、アランは何を言ってるのかな?」


 に、兄さまが怖い。怖いオーラが出ている。

 見えるところに人はいない。

 でも、待って、狐に聞かれたら、元の木阿弥。

 わたしはハイハイしたそのまま、兄さまのそばに行き、手で口を塞ぐ。


「せ、説明するから、ふたりとも、今、から、ひとことも、話さないで」





 池のほとりに移動する。

 中庭よりこちらの方が人の来る率が低いからだ。

 ふたりはすっごく悪い雰囲気だ。

 アラ兄は兄さまに、兄さまはわたしに対して黒い何かを出している。


「もふさま、近くに狐いない?」


『狐はいないが、生徒が我の目には見えるぐらいの距離にはいるぞ』


 わたしは路傍の石を発動させた。

 そして、レオに結界を張ってもらう。盗聴防止の魔具は……つけっぱなしだった。


 わたしはまず謝った。

 それから、光魔法はさすがに学園で使うとバレるので、怪我を治せないことも謝った。


「どういうこと? リディーの純潔がどうこうってのは?」


 兄さまに、肩をガシッと掴まれる。指が食い込んで痛い。


「あー、だからね」


 わたしは説明した。バカ狐が誤解してきたのだと。純潔でなければ女王にはなれないっぽかったので、その方が都合がいいから、誤解を解かなかったのだと。


「え?」


 アラ兄がわたしを見て、兄さまを見て、顔を青くする。


「に、兄さま、ご、ごめんなさい。オレを殴って!」


「アランに節操がないと思われていたなんて、衝撃だったよ」


「ご、ごめんなさい」


 アラ兄が頭を下げて、顔を上げられないでいる。


「ふたりとも、本当にごめんなさい。このことは父さまに報告済みで、その報告をするのに、魔具を借りに行ったの。時間が門限ギリギリだったり、わたしもパニクっていたから」


「もう、いいよ、アラン。話はわかったよ、リディー。けれど、どうして、そのバカ狐は最初に誤解してきたの?」


 え。


「そ、それは……」


「それは?」


「ガネット先輩と話している時に……」


「元寮長の先輩と話している時に?」


「バカ狐がやってきて、ふたりで話したいのに、全然行ってくれなくて」


「行ってくれなくて?」


「女の子同士の、男性には聞かれたくない話なんだとまで言ったんだけど」


「それで?」


 くーーーーーーっ。

 わたしは顔をあげた。


「遠回しに言ってもダメそうだから、言ってやったの。婚約者に求められた場合の心構えを、先輩に相談してたんだって!」


 ぶちまけると、兄さまの顔がボンと赤くなる。

 聞いていたアラ兄も真っ赤だ。


 一瞬の間をおいて、兄さまが吹き出した。

 アラ兄も笑い出した。


「な、何よ……」


「バカ狐にそんな誤解をさせるような、元の話は何だって思ったんだけど、リディーは予想外すぎるよ」


「でも、何? 本当にそんなことを相談してたの? そんなことがありそうだったの?」


 アラ兄に尋ねられ、今度はわたしが赤面だ。


「だから、そんなんじゃなくて。ショッキングな話なら狐が引くと思ったの!」


「でも、リーは突飛なことをすぐに思いつく子じゃないよね? そこまでとは言わなくても、連想させるような何かはあったってことだね?」


 アラ兄が疑惑の目を兄さまに向ける。

 兄さまは両手を上げて、ホールドアップした。


「リディーのお兄さま、私はリディーを心から大切にすることだけは誓うよ」


「リーは伯爵令嬢だ。貴族の娘ってことも忘れないで! リーも、なんでも許しちゃダメだよ。結婚するまでは清くね。もふさま、アオ、レオ、アリ、クイ、ベア、ちゃんと見張っててね」


 アラ兄はそう言い捨てて、たったか行ってしまった。


『何を見張るの?』

『ふたりが交尾しないようにだよ』

『フランツとリーが交尾するの?』

『いずれ、ね』

「いずれなんでちか?」


 アオ以外、みんなの声が兄さまに聞こえなくて良かったと本気で思った。


「アランが保守派だったのは想定外だ」


 兄さまが呟く。


「困ったね、君のお兄さんは結婚前は許してくれないみたいだ。私は婚約しているんだから、もう、いつでもいいと思うんだけど。リディーはどう思う?」


 ええっ?


「それは……」


「それは?」


 兄さまは笑い出した。


「ごめん。アランがかっこよくて、ふたりの絆が羨ましかったから意地悪しただけ。ねー、リディー。私は寛大でありたいけど、秘密は作らないでね」


 兄さまが色っぽく笑った。


「うん、もちろん」


 と言いつつ、どこからが〝秘密〟になるんだろうと、わたしは思っていた。

 



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― 新着の感想 ―
[一言] アラ兄鋭い。個人的にはフランツは貴族令嬢しかも13歳相手に手が早すぎ〜と思ってたのでアラン支持派ですね。 しかしこれだけトラブル続きだと連絡を取れる魔具をいちいち借りに行かなきゃいけないの…
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