第47話 大きい村⑥降り注ぐ土産
本日投稿する2/2話目です。
帰り道の町でも歓迎を受けた。町にも畑はあり、その4分の1はレアワームの住処となっていた。小さい村に少し遅れて、町の畑にも貝を撒くように指示したので、町の土も生き返っていた。父さまにみんなが感謝して頭を下げた。
家っていうのは、ほっとするね。小さい村も楽しかったし、大きい村のテントも面白かったけど。
帰り道でヤスのお父さんが後で行きますねって父さまに言ってたんだけど、わたしたちが帰り着いたバッチリのタイミングで馬車にいっぱいの木材を持ってきた。
父さまはわたしたちに好きな部屋を選ぶようにいった。まとめて子供部屋だったのは、ベッドが揃うまでの措置だったようだ。木材はベッドの部品だった。あとは組み立てるだけになっているみたいだ。
兄さまたちは2階を選んだ。わたしはもちろん1階だ。階段の上り下りは疲れるから、絶対にごめんだ。
部屋を決め、邪魔をしない約束で職人さんがベッドを組み立てるのを見ていた。ひとつひとつはそう大きくない部品が、凹凸を合わせると見知った形になっていくのが不思議で面白く見入っていると、もふさまが急に顔をあげた。
『あのバカか?』
すっごい勢いで階段を降り、庭に走っていく。わたしたちは追いかけた。
『出てくるな!』
もふさまに言われて、慌てて兄さまたちの服を引っ張る。
でも手は2つしかないから、ロビ兄を引き止められなかった。
ボタボタボタボタボタ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
大きなものが空から降り注ぐ。
ロビ兄は、3歩家から出たけれど、抜群の反射神経で避けてひとつも当たらず戻ってきた。
庭が何かに埋め尽くされる。ビチビチッと地面を叩いたりしているんですけど。
『あんの、大バカ者が』
「……もふさま」
『詫びの品のようだ。高いところから落として。ぶつかったら人なんか死んでしまうぞ』
もふさまが憤慨しているけど。
やはり、これは、見間違いなく、海の幸が山になり、庭を埋め尽くしている。というより、一番低いところで30センチぐらい積もっている。
「リディー、これは……」
父さまと母さまが呆然としている。
あー、シードラゴンのこと話さなくちゃね。でもその前に。
「新鮮なうち、拾わないと!」
わたしはわたしのバッグに。家宝のバッグも持ち出して、中にとにかく入れていく。高いところから落とされたのに、全く傷がない。たった今海から掬い上げたみたいにきれいだ。
手を怪我するから手拭いで手を覆って拾った。ホタテに、サザエに、カキに、アワビか? 嘘、ウニだ。
あ。拾うのが面倒になってきて、バッグに吸収させようと思ったら、2階から職人さんたちが口をあんぐりと開けて庭を見ていた。
ああ、見られてる。うわー、この事態をなんと説明するかも考えないとだね。シードラゴンが落としていったの見てるもんね。
うわ、昆布! シードラゴン、グッジョブ!
まぐろにアジにカツオにタイ。あと名前知らないけど、お魚いっぱい。イカ、タコ。墨出されたらイヤだから、バッグのとば口を広げて、なるべく近くに寄せて、吸い込んでもらう。いやだ、カニが、超デカイんですけど。嬉しい。これは醤油があったらお刺身いけるのになー。お醤油なかったらお刺身、厳しいよな。新鮮なんだもん、火を通すのもったいない! ワカメ、海ぶどう? アオサ?? テングサ? ヒジキ? もずくじゃん! きゃー、テンションあがるぅー!
だんだんひとつずつ拾うのはめんどくさくなって、桶で掬うようにしてバッグに入れ込んだ。みんなもそうしている。
職人さんたちは何があったのか尋ねようとして下に降りてきたんだと思うんだけど、とりあえず一緒に魚を拾ってくれた。
なんとか拾い終えると、ヤスのお父さんが疑問を口にした。
「これは一体……?」
「ドラゴンが、魚を?」
「私にも何が起こったのか、わからない」
父さまが事実を告げた。
「あのドラゴン、森で海のもの食べるの好き? 森の貝、ドラゴンのお土産かも」
正しくは、食べ終えた貝だけどね。
職人さんたちが顔を合わせる。
「森に貝なんて変だと思ったんだ。ドラゴンが海のものを持ち込んでいたのか!」
「でも、なんだって、今日はここに?」
それには首を傾げる。
みんなも首を傾げた。
「父さま、ドラゴンさま、恵。みんなで、いただく!」
父さまは職人さんたちにわからないように、わたしに向かいメッと一瞬眉を怒らせる。なんかわたしのせいって思ってる? 違うよ!
「これ……海のものなんだよな?」
誰かが喉をならした。内陸部にいたら一生、海を見ないだろうし、海の物も口に入りはしないだろうしね。
「確かに海の恵みのようだ。明日、持っていくから、みんなでいただこうじゃないか。大きい村と小さい村にも届けないとな。町で馬は借りられるか?」
「そういうことなら、アンダーんとこに声かけときますよ。あそこのボウズたちに任せておけば、馬を走らせてあっという間に村に届けてくれるでしょう」
ベッド作りを再開して、各部屋にベッドが揃う。予備というか、お客様がいらした時用のベッドもだ。
町に買い出しに行った時、わたしたちと別れてから買ってくれていた、敷布団と上掛けと枕。それからカーテンを各自渡され、部屋を整えていく。わたしは父さまと母さまにやってもらった。はい、持てたのは枕ぐらいで、あとは潰れたからね。カーテンは薄い桃色。カーテンに引っ掛けるための金具ぐらいは自分でつけようと思ったけれど、これも全然通せなくて癇癪を起こしそうになり、その直前に父さまが変わってやってくれた。
さて。職人さんたちが帰り、お昼ご飯の前に、ドラゴンについて知っていることを話すように促された。
シードラゴンが500年も眠っていたお寝坊さんなこと。シードラゴンが持ち込んだ貝をもふさまと食べてその貝殻が土地を救っただろうこと。ドラゴンの眠っていた洞窟は大きい村と小さい村の近くの森とつながっていたこと。おそらくドラゴンが眠っていたから、獣が森には住み着かなかったこと。ドラゴンはもふさまと貝を食べた後も何度か貝を持ってきて、あの森のどこかで貝を食べていたみたいで、だから小さい村の畑に巣食ったレアワームもあの森に行かなかったのかもしれない推測も述べた。いや、森の方にも行ったレアはいるかもしれない。ただそちらに行ったのは全滅したんだろう。
もふさまがシードラゴンに、眠る時は聖域を貸すから森では眠らないように言った。獣が住めないようだからと理由を告げれば、シードラゴンは謝り、詫びの品を持っていくと言った。もふさまは貝殻がここらの土地を救ったから、詫びはいらないと言葉を返した。けれど……空から降ってきた海の幸は、おそらくシードラゴンの詫びの品だろう。
父さまは表情を引き締める。
「そうでしたか。主人さまが貝を森に置いてくださったんですね。主人さまとシードラゴンさまに感謝しなくては。でも、そうみんなに伝えるとどうやって知ったのだということになってしまうし」
そうなのだ。シードラゴンと森の主さまあってのことなのだと伝えていきたいけれど、もふさまのことが公になったら、一緒にいられなくなる気がする。わたしがもふさまの言葉がわかるのも秘密にしたい。
人ってさ、最初はただ感謝していて、それで十分なのにさ。できるならこうして欲しいとか欲が出る生き物だから。そしてそれが抑えられない業を持つ気がするから。もちろんそれには、わたしも含まれる。だけど、友達でいたいから。森の主人さまじゃなくても、もふさまが大切だから。いつまでも一緒にいたいから、だから、バラしたくない。
『あいつも我も、別段、感謝などいらない。リディアとフランツ、アラン、ロビンから直接礼をもらったから、それで十分だ』
わたしはそのままみんなに伝えた。
みんなで考えた末、わからないで通そうということになった。
事実は、青いドラゴンが、ウチの庭に海の幸を降らせたこと。森にあった貝殻のおかげで、土地が守られていたこと、そのふたつだ。
次の日、お昼前に町の広場にカマドをいくつか作って、土で鉄板ぽいのを作って、バーベキューにすることにした。それだったら下処理して焼いていくだけでいいからね。
マグロが大きすぎて。トネルのお父さんにおろしてもらって、焼きまくったよ。これにすっぱめの果汁を合わせるとおいしかった。カマ焼き、最高!
イカ焼きも、柔らかくて驚いた。
でも一番は海鮮スープだ。これもトネルのお父さんが、小さい魚や貝を使って、おいしいスープにしてくれた。魚介の深い味わいがこれでもかってほど詰め込まれていて、とってもおいしかった。
アンダーさんのところの14、5歳の兄弟は作ったお料理を大きい村と小さい村に届けてくれた。みんなで味わったよ!
もふさまは海の恵みを気に入ったみたい。500年前に食べた貝も不思議な味だと思っていたけれど、焼いたりなんだりしたのはさらにおいしいって! スープは具材と一緒にすっごい食べてた。小さな犬がこんなに食べるなんてと別な意味で感心されてた。
「こんなに食べるのに、全然大きくならないね」
とミニーが不思議そうに言う。
「ロバルテさんのところの子羊は、生まれた時、もふさまより小さい、けど、少ししたら、抱えられないくらいになっていたのよ?」
と教えてもらった。なるほど! 子犬サイズは可愛いが、そんな弊害が……。
大人数で食べてもまだ食べきれなくて、さらにポケットにはまだまだ海の幸が入っているんだけどね! お腹も膨れて、心配事もなくなり、とても楽しい時間を過ごした。
浮かれていたわたしたちは考えなかった。
空というのは遠くからも見えるということを。
わたしたちは知らなかった。
ドラゴンが飛来したり、海の幸をひとところに落としていく、それはもう、ドラゴンはシュタイン領を加護しているに違いないとそう思われたことを。
領地への加護なのか、それとも人に対するものなのか。興味深く、できればその恩恵を受けたい下心込みで、そんな噂が囁かれるようになっていたことも。