表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
12章 人間模様、恋模様
466/1135

第466話 火種⑤予測不能

「わたし、水を見ていると落ち着くんです」


「……本当に授業に出ないつもり?」


 ガネット先輩、やっぱり顔色が悪い。


「ひとつ、どうしても聞きたいことが」


「…………………………」


 青白いガネット先輩の表情が固くなる。


「チャド・リームの、どこがいいんですか?」


「なっ」


 ガネット先輩の顔が赤く染まった。

 気を削ぐことに成功した。張り詰めていた雰囲気が、違う方向に爆発したみたいだ。


「リズとのことを、聞くんじゃないの?」


「それは先輩が話したくなったらお願いします。……それより知りたいのはチャド・リームです」


「リームさまは5年生よ、敬意を持って」


「チャド・リームさまのどこがいいんですか?」


 敬意を示して、再び尋ねる。

 ガネット先輩は、池の淵に座る。

 わたしも隣に座った。


「私の住む領地の領主さまのご子息よ。話したでしょ、子供の頃、身分とかわからずに、一緒に遊びまわったの。私ね、不思議と思うことがいっぱいあったの。空はどこまでが空なのか。魔法の意味、魔素の不思議。みんなに聞きたがり屋だって、からかわれた。けれど、答えを教えてくれる人はいなかった。からかったり、ばかにするだけ。そんな中、リームさまだけが調べてくれたの。わからない時は、調べたけどここまでしかわからなかった、とね。私はそんなリームさまを尊敬しているの。だから、変な思いじゃないのよ。勘違いしないで」


 ふーん、そうだったんだ。いいところもあるんだね。


「ガネット先輩は魔法の意味、わかったんですか?」


「リームさまに教わったわ。魔法とは魔の法則を編むことよ」


 その時わたしは衝撃を受けた。雷を受けたぐらいの! って雷を受けたことないんだけど。でも頭にガツンと何かがわたしに突き刺さった。


「……リーム領って王都からどの方向ですか?」


「え? 西よ。王都から5日ね。途中、転移門を使えば1日半よ」


 いいな、西もあるんだ。東もあるって聞いたから、本当に北方面だけないんだね。どんだけ栄えてなかったかがわかるってもんだ。……切実に北側にも転移門を作って欲しい。


「あなたって予測不能だわ」


 ガネット先輩はクスッと笑った。


「ねぇ、もふさま、だったわよね。触らせてもらってもいいかな?」


「もふさま、いい?」


 もふさまは一回しっぽを揺らして、わたしとガネット先輩の間に座り直した。


「いいみたいです」


 告げると、ガネット先輩はそうっともふさまの背中に手を当てた。そしてゆっくりと動かす。


「すっごく柔らかい毛なのね。……体が熱いところは、他の動物と一緒だわ」


 顎の辺りを撫でている。もふもふ上級者だね。


『この娘も迷い子だな』


「ふふふ、気持ちいい?」


 もふさまの声を、喉を鳴らしたと思ったようだ。

 再戦は決まったのに、ガネット先輩は未だ浮上できていない。

 他の先輩たちは寄付金を学園祭で集めると決めてから、ずいぶん落ち着いた。

 再戦の結果も勝負に負けた方がひと月、何もかもを削った生活をするだけだ。

 いつまで続くかわからないとなれば辛いかもしれないけど、期間もひと月と設けてある。一度経験があるだけに、それなら、がむしゃらに勝負すればいいだけと腹をくくったようだった。


 そんなふうにみんなが出来事に決着をつけ、新しい何かに目を向け始めても、ガネット先輩だけはずっと辛そうだった。

 試験という言葉が出るたびに、痛みを覚えるようだ。トップだっただけにみんなに悪くて、その思いから立ち直れなくて、先輩の傷が癒えるには、みんなよりずっと時間がかかってしまうのかと思っていた。でも、それだけじゃないのかもしれない……。

 それがヤーガンさまとの何かなのかな?

 それともチャド・リームに関する? いいや、チャド・リームの話をした時、特別に感情の揺れはないように感じたけど……。


「私、前寮長に、次の寮長になってくれって言われた時、すごく嬉しかった。認められたんだって思って。ガネットガンネが人の上に立てるなんて、誇らしかった。けれど、私は上に立つ器じゃなかった。シュタインさん、あなたみたいな人が上に立つ人なんだわ」


 壊れそうに笑うから、危ういと思った。

 どうしよう。ガネット先輩、変だ。


 でも、わたしはガネット先輩が何を好きで、何をしたら喜ぶのかわからない。


「ガネット先輩の好きなことって何ですか?」


「好きなこと? なんだろう? 小さい頃はあった気がするけど……」


「わたしは食べることが好きです。楽しそうなことが好きです。もふもふが好きです」


「すっごく、わかるわぁ。シュタインさんらしい」


「わたし夏休み前に失敗しちゃったんです」


「失敗?」


 わたしは静けさが降りることを恐れて、脈絡なく思いつくことを話した。


「いっぱいいっぱいになっちゃって、家族に心配をかけながら、いけないことをいくつもやり倒していました。ただ会いたいって、その気持ちだけに突き動かされて」


 ガネット先輩が微かに頷く。


「心配をかけて、いけないことをしたのに、わたし怒られなかったんです。怒られなくてほっとしながら、怒られるより胸が痛かった……」


「……わかるわ」


「じゃあ怒られたかったのかというと、それとも違うんですけど」


「私は怒られたいのかもしれないわ」


 さっき、先輩はみんなに叩かれなくちゃとか言わなかったっけ?

 何があったんだろう?


「あれ、授業はどうしたんだい? サボリかな?」


 音なく近づいてきたのは新人司書のマヌカーニ先生だった。

 もふさまは相変わらず、ガネット先輩に撫でられたままで緊張もしていないから、悪い何かではない、はず。


「授業は自主的に休んでいます」


「それをサボるっていうんじゃないっけ?」


「今、授業より大切な話をしているんです」


「へー、それは興味あるなぁ」


 あっちへ行けと含ませたのに、通じないのか。


「今、恋愛相談中なんです、男性には聞いて欲しくありません」


 しっかりと拒絶した。

 ガネット先輩は瞬きをしている。


「1年生の君が、恋愛相談を?」


「ええ。婚約者に求められた場合の心構えを。同じ歳の方に聞くのも何ですので、寮の先輩に聞いていますの。邪魔なさらないでください」


「こ、婚約者……に、も、求め……。……………………。お邪魔しました」


 やっと回れ右した。

 司書の先生がいなくなってから、ガネット先輩は吹き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ