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第461話 シンシアダンジョン⑧おかえり

 王都の家に帰って来てほっとした。

 父さまはまだ城にいる。子供たちと報告が終わった人だけ帰された。

 ダンジョンへ行っただけなのに、なんだか大変なことになってしまった。

 楽しかった学園祭が、遠い出来事のような気がしてくる。


 お風呂に入り、着替えてから、兄さまとアラ兄、ロビ兄とダンジョンのことを話し合った。鑑定したことなど、父さまにしか言えてなかったので、そこらへんを細かくね。


「赤い木……もし仕掛けられたのだとしたら、なんなのだろうね?」


 アラ兄は口に親指をあて、考え込んでいる。

 そう、もし仕掛けられたのだとしたら、目的があるはずなのだ。

 人々を混乱させるその先に……。


「ダンジョンで凶暴な魔物を作り出した……」


 ロビ兄が言った。

 あ、そうか。凶暴な魔物を作る実験ということも考えられる。


「今まではバラバラだったみたいだけど、同時期にダンジョンから溢れが起こったら、ユオブリアは大混乱だ」


 アラ兄がそれを受けて、遠い目をする。


「そう、大混乱の隙に、王都を襲撃」


 そう言ったロビ兄を、みんなが見る。


「あまりやりすぎると警戒されてしまう。だから違った地でコトを起こしているってところか」


 兄さまが腕を組んだ。


「魔物を仕掛けるのは、恥ずべきことなんだよね?」


 大昔に聞いた気がする。魔物は対象を選ばないから。もしそこで討伐できなかったとしたら、近くの町や国などだって被害を受けるかもしれないのだ。


「魔物を仕掛けるということは、大陸違いってことだな」


 ……ああ、そうか。大陸までは渡れないだろうと考えているか、その凶暴な魔物も倒せる自信があるか。


「魔物を仕掛けているのだとしたら、……凶暴な魔物の手綱を取れる……とか」


 アラ兄の発言に場がシーンとする。


「……リーだって、聖獣、高位の魔物と話ができるわけだから、魔物を手懐ける奴がいてもおかしくはないな」


 ロビ兄が呟く。


「テイマー……隠蔽で魔力を少なく申告しているテイマーがいる可能性だってある」


 不安要素がどんどこ膨れ上がってくる。

 仮定話なのに、こんなに恐ろしい可能性が、なんだって山ほどあるの?


「時は常に流れてる。人だって、時代背景だって、何もかも変わっていく。だから不平や不満は常に出てきて、それが発散されないと、大きな吹き溜りをあげることになるんだ」


 兄さまが噛みしめるように言った。


「魔法の質を下げるようなことをして。それに気づいた人も数多くいるはずだ。だから世間には言わないようにして、独自の発展を遂げていたら? 国は魔力の使い手を手中に収めているつもりでいるけれど、もう手の届かないところまで魔法を扱える人たちもいて、虎視淡々と狙っているのかもしれない。自由に魔法を使え、自分が頂点になれる世の中にするために……。そしてそれは魔法だけではなく、テイマーであり得るかもしれないし、……呪術師であるかもしれない……」


 兄さまがビクッとして、父さまが兄さまの肩に手を置いたのだと気づく。

 話に集中していたみたいで、父さまが帰ってきて部屋に入ってきたのに、全く気づかなかった。


「お帰りなさい」


 アラ兄が言う。


「興味深い話をしていたな」


 父さまが兄さまの頭を撫でた。


「父さま、王宮はどんな結論を出したの?」


「結論は出ないな。まだ情報を集めているところだ。国内のダンジョン、赤い木を見かけたらすぐに燃やすように指示を出す手配をした」


「でもそれだと、赤い木がなんなのか、わからないままだね」


「そうだな。魔法士たちも派遣して、できれば生け捕りというか赤い木をそのまま隔離したいところだが、魔力を与えるとなると、危険だからな」


 確かに。


「報告の後、〝ダンジョンの周期以外の溢れ〟の会議に参加したのだが、概ねお前たちの言っていたような意見は出ていた」


 父さま、どこから聞いていたんだろう?


「やっぱり、外国?」


「ユオブリアへの攻撃?」


「仕掛けてきた人たちは魔物を〝凶暴化〟させる〝木〟を作れたってことだよね?」


 みんなが次々に聞くと、父さまは頷いた。


「そうだな。凶暴化した魔物を討伐できる腕があるかもしれない。でもそれをやったのはダンジョンで、複数の場所でやっている。誰かが混乱に陥れるためにやっているのだとしても、実験的な意味合いが大きいのではないかとみている。

 今まで赤い木の報告はなかった。シンシアダンジョンが赤い木だったのかもしれないし、他のところはそれとは別の何かで凶暴化させたのかもしれない。

 特定できるほど情報が集まっていないので、結論は出せない。

 だが、ダンジョンで凶暴化した魔物は選んでいるようには見えなかった。ということはどんな魔物でもよくて、どの魔物を凶暴化させるまではできていない。でもいずれそうできるようにと考えているだろうとが、今推察されることだ」


 いずれそうできるように……とは当たり前にいきつく思考ではあるが、感慨深い。


「父さま、凶暴化した〝人〟は、今までにいた?」


 父さまはわたしの前に来て、椅子ごとわたしを抱きしめる。


「今のところ、そんな報告はない」


「人も凶暴化するってこと?」


 ロビ兄が声をあげる。


「魔使いが〝魔〟があれば人も操れると言った。それが真理なら、そういう魔力の使い方もできるだろうね」


 アラ兄が解説する。


「魔力を発生させる〝生き物〟を作り出したということだ。人まで操れるようになっているのなら、そうしているはずだ。そう考えれば、まだ魔物の段階だし、今回のことでわかったから対策が立てられる。悪いことではない。王室にはそれしか情報がないから、外からの攻撃か内に巣食っているものか答えは出せていない。

 けれど私たちには情報がある。未来視を信じればこれは国外からの攻撃だろう。まぁ、外国ではなく、これから外国に与する国内の者かもしれないがな。けれどそれ以上のことはわからない。

 王室は考えられるあらゆる角度から調べていくだろう。シンシアダンジョンの赤い目の魔物を見た者の中に外国人もいた。彼らも解放されたが、調べると言っていた」


 ああ、あの2人組ね。泳がせて様子を見るんだろう。


「王室でそれぞれの専門家が顔を並べても、そこまでしかわかっていないんだ。私たちが考えてもわかることはない。だからできることをしていこう。今できることは睡眠をとり、しっかりと体を休めること。そしてお前たちは学園でしっかり学ぶことだ、わかるな」


 父さまは順番にわたしたちの頭を撫でる。





 父さまはわたしに、ご飯を作ってくれと言った。

 兄さまたちに手伝ってもらいながら、食事を作ることにした。


「そういえばさ、魔導騎士クラブの先輩から面白いことを聞いたんだ」


 内容にちょっと驚いて手を止めてしまった。

 それを受けてアラ兄も


「魔具クラブの先輩から聞いたことなんだけど……」


 みんな学園祭で慌ただしかったのに、情報にも耳を傾けてくれていたんだと思うと頭が下がる。

 わたしは神話と歴代聖女のこと、それから呪術に繋がることを調べるはずだったのに、学園祭の準備で手つかずだった。


「兄さまは? 何か侯爵家のことでわかったことある?」


 ロビ兄がチラチラと兄さまを見ながら聞いた。


「以前のことはわかっていないんだ。blackから報告があったんだけど、現在侯爵家にキリアン家が接触しているみたいだ」


 えー、侯爵家を嵌めた人が、現侯爵に?

 ご飯を作り終え、テーブルに並べた。


 もふさまが顔をあげた。

 それに気を取られていると、部屋にどさっと何かが落ちてきた。


『いい匂い!』

『リーだ!』

「みんないるでち!」

『ここに来るとお腹が空いた気がするのだから不思議です』

『アオは着地が雑じゃないか?』


 !!!!!!!!

 みんなぁ!


 クイがわたしの胸に飛び込んできた。続いてアリも。

 ベアがわたしの首に巻きつき、アオはぴょんぴょんジャンプしている。

 レオがわたしの目の前でちっちゃな翼を広げて飛んでいる。

 ぶあぁと涙が溢れ出た。わたしはみんなをかき抱いた。

 怪我もしてない。みんな無事だ。


『リー、泣き虫』


「お、帰ってきたようだな」


 お風呂上がりのさっぱりした父さまが、部屋に入ってくる。

 ああ、ご飯を作ってって、そういう意味だったのか。父さまはもふもふ軍団が帰ってくることを、知っていたんだ。


『リー、食べていい?』


 もちろんだと、わたしは収納ポケットから、いない間も作っていたもふもふ軍団のご飯を取り出す。


「わー、角煮でち!」


 アオが喜ぶ。それぞれの好物を並べていく。


「元気になったか?」


 父さまが言った。わたしは頷く。

 少し前まで、不安要素が大きくて怖かった。解決づいたわけでもなく、何も変わってはいない。なのに、おいしそうにパクつく姿を見ると、みんなが元気だと、なぜか踏ん張れる気がする。

 わたしは大事なことを言っていないのを思い出した。


「みんな、おかえり!」


 テーブルの上で、どんだけはらぺこだったんだ?の勢いで、お皿に顔を突っ込んでいたもふもふ軍団は顔をあげ、お互いに顔を見合わせる。そして同時に言った。


「『『『『ただいま!』』』』」



<11章 学園祭・完>

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