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第459話 シンシアダンジョン⑥空虚な悪しきもの

 神官長さまに魔力漏れがバレたこと、それが風の防御ではない守りの何かになっていたこともバレたと、父さまにすぐに報告したかったけれど、子供たちはその後すぐ部屋に連れて行かれた。男子と女子に別れ、城で働く人たちの使うシャワーを借り、部屋に通される。別棟の使用人たちの休憩室だと思われるところ。使用人といっても王宮の使用人のなので、身分はほぼ貴族。だからきらびやかではないが貴族仕様の部屋だ。


 わたしは伯爵令嬢なのでひとり部屋を勧められたが、ラエリンとロレッタと一緒がいいと言って3人と、それから冒険者のお姉さんたち3人とも同じ大部屋にしてもらった。お風呂から出て夜着として貸し出されたのは白いワンピース。部屋には夕食が用意されていた。夜遅かったからか軽めのもので、パンとスープとお肉とサラダをいただき、ベッドの中に入った。わたしはもふさまと一緒に眠る。


 確かではないから家族にも言ってなかったんだけど、わたしの祈りは本当に微かなものだけど、ヴェールのような守りになってくれてるのでは?と思えることがあった。本当に気休め程度のものだ。怪我しないようにって祈っておくと、大怪我に繋がるような場面で、運よく逃れたとか聞いたぐらいで、本当に運がよかったのかもしれないんだけど。神官さまたちの使う〝祝福〟みたいなことができてるのかな?と思ったこともある。まさかね、とも思っていたけど。

 怪我はして欲しくないので、すがる思いで頻繁に祈ってきた。けれど力ある人にはそういうのもバレると思うと恐ろしい。

 そんなことを考えながら、いつの間にか眠っていたようだ。



 カーテンの隙間から光が入り込んで朝を知る。伸びをして起き上がると、メイドさんが入ってくるところだった。挨拶をして、昨日着ていた服をもらう。洗濯してくれてたんだ。着替えを手伝いますか?と言われて大丈夫だと答える。

 カーテンが開けられ、まもなく朝食ですと言われ、みんな起き出した。

 冒険者のお姉さんにも、メイドさんたちにも、もふさまは大人気だ。

 着替えてからご飯を用意してくれているという部屋へと赴いた。



 大人数が入れる部屋に、いくつもテーブルと椅子が用意されていて、ひと所に料理の数々、バイキングスタイルになっていた。

 わぁーと子供たちの目が輝く。冒険者の方々もウキウキしてる。

 父さまやみんなに挨拶する。

 もふさまには大きな塊肉が用意されていた。もふさま目が釘付けだ。

 キャリアかもという点も考慮されてるだろうけれど、格別にいい待遇だ。別棟ではあるけれど、食べ物にしても優遇されている。

 わたしはラエリンたちに断って、父さまと話すことがあるから、父さまと一緒のテーブルにつく旨を話した。


 周りに人はいっぱいいるし、給仕してくれてる人たちが耳をそば立てている。どうしようと思っていると、父さまが抱き上げてくれた。もう学園デビューしたので抱っこは卒業となったのに。

 わたしは父さまに朝のディープ挨拶をするフリで、神官長さまにわたしの魔の残りがみんなについていたとバレたこと、漏れた魔力がみんなを守った?と思っているような話し方だったことを伝えた。父さまはそうだとしてもみんなを守って偉かったと言ってくれた。だから、父さま大好き!


 最後はわりと本気で父さまにギュッとした。

 下ろされると、パオロおじさまが手を広げてきた。


「女の子はいいなぁ。毎朝こんな挨拶ができるのか。いち姫、おじさんとも朝の挨拶を」


 あー、面倒なことになった。

 でもフォンタナ家にはお世話になりっぱなしだからね。

 わたしは愛想よくおじさまに抱きついて、おはようございますの挨拶をした。

 お、おじさま、泣いてる?

 そして並ばれた。……フォンタナ家のみんなとハグして挨拶を交わすことになる。


 イシュメルに驚愕したまま「お前、すげーな」と眉を動かさず言われたのが一番胸にきた。


「愛情表現、濃いね」とはニコラス。

「貴族ってあんな朝を迎えるんだ」とはレズニー。

「あれは、一般的でないよ」とオスカー。

「シュタインさんは愛されてるね」と言ったのはスコット。

 ニヤニヤしながら「リディア、甘えん坊ね」とはラエリンとロレッタ。

「僕にも挨拶してくれていいよ」と腕を広げたのがアダム。ロビ兄に肩をつかまれ、顔をしかめていたけど。

 甘ったれじゃないもん。父さまに伝えるためだったんだもん。



 各自から話を聞きたいとのことだったが、子供たちは数人一緒、特に女の子であるラエリン、ロレッタ、わたしには父さまの保護者つきでの報告にするようにお願いし、それは通った。


 ラエリン、ロレッタが終わり、続いて部屋に入ると、神官長さまと魔法士長さまと真面目そうな記録係がいて、父さまもいた。

 質問者と机を挟んで父さまが座っている。その隣に腰掛けた。


「それでは、お名前から」


「リディア・シュタインです」


「では、赤い目の魔物が現れたところから、覚えていることで構いません。話してください」


 わたしは5階のセーフティースペースで食事をし、雑談していた時のことだと話し始めた。みんながみんな一方向を見たのだと。空気が緊張していて、もふさまがお遣いさまモードになり、フォンタナ家の人々が自身の武器を手に取っていた。

 土埃が見えた。でもここはセーフティースペースだから大丈夫と思っていたのに、魔物が突破して入ってきたのだと。

 それで風の防御幕を張った気がすると伝えた。


「リディア嬢が〝来る〟と叫んだそうですが、覚えていますか?」


 え、ああ。もふさまが備えろって言ったから、みんなにそれを伝えたんだっけ。アダムにはバレたから王宮には伝えられているだろう。わたしは言った。


「お遣いさまの言うことがわかる時があります。お遣いさまが「来る、備えろ」とおっしゃったので、わたしはみんなにそれを伝えました」


「お遣いさまとは意思の疎通ができるのですか?」


「お遣いさまはわたしたちの話していることなど理解されていると思います。お遣いさまがわたしに伝えようとしたことだけ、わたしは受け取れることがあるようです」


 この言い方で大丈夫だよね? 父さまをチラリと見る。父さまはうなずいてくれた。


「お遣いさま、来るとは具体的に何が来るかわかっておられたのですか?」


 魔法士長さまは、わたしの膝の上のもふさまに話しかけた。

 もふさまはわたしから降りて、身を震わせた。お遣いさまモードの虎ぐらいの大きさになる。


『空虚な悪しきものを感じた』


「空虚な悪しきものを感じたそうです」


 わたしはそのまま伝えた。


「これは凄い、お遣いさまと意思の疎通が図れるとは」


「空虚な悪しきもの……」


『リディア、こやつらに教えてやれ。赤い魔石は空虚な悪しきものだと』


「お遣いさまが、赤い魔石が空虚な悪しきものだとおっしゃってます」


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