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第457話 シンシアダンジョン④7階

 階段を上り切った時、すごい爆風に見舞われる。

 もふさまが身体を張ってみんなを守ってくれた。


「もふさま!」


『大丈夫だ』


 真っ白の毛が、黒ずんだ。けれどフルフルと身体を振れば真っ白になったので、みんなから状況も忘れて声があがる。

 なんか、お腹の下の方が気持ち悪い。なんか変な感じがする。


「加勢する」


 父さまたちが、ヘドロを被ったような丸っこい大きな魔物に後ろから攻撃をかける。3人と、元々戦っていたふたりによって、ヘドロな魔物は倒された。これも姿が消えず。


 あ、ふたり組は、入る前に鑑定をかけた外国人だった。


「カンシャ」


 ふたりは片言のユオブリア語でお礼を言った。


「私たちは5階から来た。急に魔物が凶暴化したようだ。こちらはどうだった?」


「魔物、2匹、外デタ」


「外に? どうやって」


「壁ヤブル、塞ガッタ」


 魔物は壁を突き破って2匹ダンジョンの外に出た。そしてその壁は修復されたらしい。

 父さまたちは7階を見て回るが、君たちはどうする?と問いかける。

 彼らは消耗したので戦力になれそうにないから脱出するとのことだ。

 わたしたちはそこで別れた。


 7階では3カ所で冒険者たちが魔物と死闘を繰り広げていた。周りはすでに魔物の死体がゴロゴロしている。

 魔物が外に出ようとして壁に体当たりをしていたので、ロビ兄とアラ兄が土魔法で外壁を強化した。


 わたしたちの班が加勢したのは、4人のパーティーの冒険者で、前衛の戦士が深く傷を負い、難儀していた。兄さまとイシュメルが突撃していく。わたしとアダムは魔法でそれを助けた。あともう少しで倒れそうなのにというところに手が足りないと思っていると、もふさまが絶妙なタイミングで魔物の顔を蹴り上げて、魔物は動かなくなった。


 戦士さんの応急手当をしている間に、どのグループも魔物を倒せたようだ。


「助かりました」


「ありがとうございました」


 わたしたちも7階で、こんなに強い魔物たちを引き止めてくれていた彼らに感謝した。

 冒険者たちに話を聞く。

 状況はいろいろだった。


 魔物と戦闘中に、赤い目の魔物が乱入してきた。同じ種類の魔物と昨日戦ったが、どの魔物も赤い目のものはパワーアップしていた。

 わたしたちと同じようにセーフティースペースにいたのに、魔物に襲われたり。そのうち壁を突き破って外に2匹飛び出した。それに続こうとした魔物を阻止しようと戦っていたのだという。壁はいつの間にかダンジョンの修復機能なのか元通りになっていたとのことだ。


 みんな溢れにしてはちょっとおかしいと思っているようだ。

 溢れというのは、周期はバラバラだが、ダンジョンから魔物が飛び出す現象のことを指す。解明はされていないが、ダンジョン内の魔物のバランスをリセットするためのものではないかと言われている。増えすぎた魔物をダンジョンの外に出すというものだ。


 シンシアダンジョンのいつもの溢れは、どういうものかという情報を、誰も持ってはいなかったが、何やらおかしいとはみんな同意見だった。


 わたしはある方向がとても気になった。

 父さまは他の冒険者と話している状況なので、兄さまたちに相談した。

 何か気になり、何か気持ち悪いのだと。

 兄さまともふさまとわたしで、その方向にそろそろと近づいた。

 不気味な赤い木があった。兄さまぐらいの背の高さだ。


「これだ」


 思わず口に出る。

 これが〝気持ち悪い〟の元だ。

 鑑定をかける。


木:創られたもの


 ん? もふさまと兄さまに鑑定結果を告げる。

 そりゃ木だろうけど。創られたってどういう意味? それをいうならどの木も最初の最初は創られたものだろうけど……。誰にって、神さまに?


「魔力回路」


 アダムが後ろに来ていて、片手を木に向かって突き出した。


「この木、魔力を流してる。このダンジョンに」


 わたしが見上げると


「スキルのひとつです。魔力の流れを見ることができます」


 アダムは静かに言った。


 ダンジョンが木に魔力を与えているんじゃなくて、この木が魔力を与えてる……。

 わたしたちは引き返して父さまたちに相談した。

 この赤さが気になるのは、魔物の胸にある魔石と同じ色だったからだ。

 

 アダムが言った。「気になるなら焼いてしまいましょう」と。

 いやにキッパリした口調だった。


「聖樹さまからお遣いさまを贈られるぐらい、君の〝魔〟は認められているものだ。おまけに元々瘴気が少ない。その君が良くないと感じるものだ。いいもののはずがない」


 アダムはポケットから何かを出して、それを放った。火がついて、赤い木に火花が落ちる。生木ではあったが、赤い不気味な木は簡単に燃えて、気持ち悪い感じは薄れていった。


 魔物が走ってきて、みんなハッとして見たが、赤い目ではなかった。

 8階にも上がってみた。人と会ったときに話を聞いたが、8階ではおかしなことは何も起こっていなかった。


 溢れのメカニズムはわかっていない。魔物が増えすぎたからという理由なら、その魔物は特定されるのか、ダンジョン全体の魔物なのか、とか。つまり、5階から3匹、4階から3匹みたいにエリアごとに選抜されて出てくるものなのか、大量発生しているどこかの階だけから出てくるのかとか、どの階から溢れるのかとか、発症はどこになるのかとか、わかっていないのだ。だけど今回は、恐らくこの一連の魔物の暴走は7階より下で起きたのではないかと思われた。

 7階を隅から隅まで見たけれど、もうおかしなことはなかった。

 ただ魔物が突き破り、修復されたという壁の辺りを調べると、そこは珍しい鉱石だったことが後からわかる。


 この不可思議なダンジョンの溢れを報告した結果、わたしたちは国王陛下に会うまでの珍事に発展した。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 創られた木ですか。 間違いなくこのスタンピートは人為的なものだとわかりましたが誰が行ったのか。 人を狙ったのか場所を狙ったのかも気になりますね。
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