表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
456/1134

第456話 シンシアダンジョン③溢れ

「子供たち、脱出しろ!」


 父さまが魔物と戦いながら叫んだ。


「脱出口まで援護する」


 フォンタナ家の第1隊長のジョインさんとキースさんがわたしたちを見た。

 兄さまの班が一陣だ。次がビクトンの班。そして、アラ兄の班。わたしの班で、ロビ兄の班だ。


 鍾乳洞タイプの5階を現在地のセーフティースペースから、斜めに突っ切ったところが脱出口だ。真ん中には数えるのは鬱陶しい量の魔物がいる。

 溢れだとしたら、これが外に出てしまったらどうなるんだろう。

 町だって近いのに。

 一瞬、思いを巡らせた時に、わたしに向かって何かが飛んできた。


『リディア!』


 もふさまの声でハッとしたが、間に合わない!

 けれど、シールドのおかげで怪我はしなかった。


「いち姫!」


「当たってない!」


 そう言って、地に転がった魔物に剣を突き立てた。

 動かなくなったのに、消えない。


「父さま、倒しても消えない!」


 わたしは大声で言った。


「こっちもだ、消えない!」


 なんで? 溢れであってもダンジョンの中だったら、魔物はダンジョンに還るはずなのに。


「単純な〝溢れ〟じゃない?」


 パオロおじさまの声がした。

 単純じゃない?

 ジョインさんとキースさんたちが魔物と戦闘になった。ラエリンとロレッタを守りながらも兄さまが時々加勢している。

 その魔物を鑑定した。


ビヌーレ:4つ足で走る素早い魔物。剣の攻撃が可能。


 やはり目が赤く……ん? 胸のあたりに魔石みたいのが見えて、それが赤く見える。鑑定を解くと、赤い魔石は見えなくなった。


「もふさま、あの魔物の胸に魔石が見える?」


 小さな声で尋ねると、もふさまは


『魔石は身の中にある。見えるものではないぞ』


 と言われた。

 次々に鑑定をかけていく。


「もふさま、あのちっちゃいの、あの胸を狙ってみて」


 もふさまは走っていって、ちっちゃい魔物の胸に爪を立てた。

 魔物は倒れ、消えた。

 あの赤い魔石を壊せば、消えるようだ。


 わたしたちが脱出口にたどり着く前に、父さまたちは魔物を殲滅した。

 肩で息をしている。


「な、なんだったんだ」


 ジョインさんが呟く。


「他の階もこうなのか?」


 誰かが言った。

 その言葉に被せるように咆哮が響いた。

 いきなり横の壁が崩れて、一軒の家より大きい蜥蜴の親分みたいのが現れた。目は赤い。


 これさ、やっぱりここで倒さないとなんじゃない?

 蜥蜴に近いわたしたちみんな危険だから、そっと誰にも気づかれないよう風で防御幕を張り、そして小さな水人形を出して蜥蜴を足止めする。


 それに気づいた兄さま、ロビ兄が、正面から蜥蜴に飛びかかる。

 そこに大人たちが加勢した。

 蜥蜴が向きを変え、尻尾が動く。

 ラエリンとロレッタのいる方向に。


 風の刃が蜥蜴の尻尾を切った。

 アダムだ。魔力量が半端ない。

 それを皮切りに蜥蜴の近くにいた子供たちが一斉に攻撃をかけた。

 攻撃すればそれはもちろん塵も積もっていくだろうけど……。


「バラバラにやったんじゃ効率が悪い」


 わたしが呟くとアダムがわたしを見た。


「イシュメル右手。オスカー左手。切る時、火魔法できる人、剣に魔法をのせて」


 アダムが言った途端、イシュメルが走った。一拍遅れてオスカーも走る。

 ロビ兄と誰かが火魔法をのせたみたいだ。短剣だとゴツイ皮膚に跡が少しつくぐらいだったが、それより深い傷になったようで、魔物が暴れた。


「風の防御!」


 ふたりを守るカーテンを新たに張る。


 兄さまとロビ兄が同時に走った。蜥蜴の後ろから首のところに飛び上がって剣を突き刺す。一瞬動きが止まったところに、大人たちが剣を突き刺した。

 白目を剥いた蜥蜴が倒れた。


 父さまが手を挙げた。


「普通の〝溢れ〟ではないようだ。他の階でも同じようなことが起こっている可能性がある。それに魔物がダンジョンから出るのを止めたい。だから2班に別れて行動だ。ダンジョンの外に出て、衛兵に伝え、避難を促す班。……もしかしたらすでに外に魔物が出ていて、戦いとなるかもしれない。ダンジョンの中、外、どちらが安全とは言えない」


 父さまはまず子供たちを、外に出る班と、ダンジョンで行動する班を選ばせた。わたしはダンジョン内の班だ。赤い魔石が気になる。

 ラエリンとロレッタ、スコット、レズリー、ニコラス、オスカーは外組。

 残りの兄さま、アラ兄、ロビ兄、ビクトン、イシュメル、アダム、リキはダンジョンに。


 バランスを見てだろう。

 父さまと第1隊長のジョインさん、キースさん、それからジンとガーシさんを残し、あとはダンジョンの外の方にまわってもらった。次期男爵であるパオロおじさまがいれば、対町の避難もうまくいくだろう。

 決まれば、すぐに外班は脱出口に向かう。

 お互いに気をつけてと声をかけ合う。


 いっときも時間を無駄にはできない。わたしたちは上に向かうことになる。

 上に向かいながら、主力で戦うのは、父さま、ジョインさん、キースさんだと言われた。後のみんなで3班に分かれお互い守りながら魔物と対峙することにした。


 ジン組=ビクトン、イシュメル、アラ兄。

 ガーシ組=ロビ兄、リキ、ケラ。

 兄さま組=もふさまとわたし、アダム。


 わたしは父さまに赤い魔石のことを伝えた。鑑定をかけると目が赤い魔物は胸に赤い魔石が見えて、それを傷つけると魔物は消える。魔石を傷つけなければ、残ったままだと。

 父さまは微かに頷いた。

 6階では、恐らく冒険者と魔物が死闘を振り広げていた。


「加勢する!」


 父さまが言って、跳んだ。剣が動いたと思ったと同時にでーんと大きな音と土埃をあげて魔物が倒れる。


「助かりました、ありがとうございます」


 5人組の冒険者だ。あちこちに傷を負っている。

 わたしは魔法の水をかけ傷口を洗って、軟膏を塗った。


「ありがとう」


 脱出するという冒険者たちと分かれて、進んでいく。

 魔物がいっぱい倒れていた。

 亡くなっている冒険者もいた。キースさんが冒険者カードの紐を切り落とした。報告をするのだろう。わたしたちは亡骸に礼を尽くして、さらに奥へと進んだ。大きな魔物の亡骸ばかりだ。この魔物を倒してくれた冒険者たちは、恐らくさらに上に行ったのだろう。被害を最小限に留めるために。でもこれができるってことはすっごく強いってことだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ