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第448話 〝友〟の願い

 夕方からBグループの公演はあるけれど、Aグループはラストだった。

 みんなが感極まったのを見て、わたしも泣けてきた。

 Bグループからも見にきてくれていた子もいて、もらい泣きをしている。

 次の公演の邪魔になるので、舞台裏からグズグズ鼻を啜りながら出てきた。


「リー」


 アラ兄だ。父さまもいる!


「アラ兄、父さま!」


「結末がみんな違うんだね。いや、どの回も制覇するべきだった」


 父さまに頭を撫でられる。


「すっごくかわいかったし、よかったよ、リー」


「ありがと!」


 あれ、兄さまは? 一緒じゃなかったのかな? ロビ兄は忙しかったか? 劇は見にきてくれると言ってたんだけど。


 あ、ロビ兄と兄さまだ。ロビ兄の頬に赤い線が入っている。


「ロビ兄、顔、怪我したの?」


「かすり傷だ、なんでもない。リー、よかったぞ!」


 見てくれたみたいだ。えへ。


「素敵な劇だったね」


 えへへ、兄さまからも評価をもらう。


「あのー、リディアのお父さん」


「ちょっ、伯爵さまだよ」


 レニータが父さまに呼びかけて、ジョセフィンに嗜められている。


「あ」


「大丈夫だよ、私はリディアの父親だからね」


「レニータと言います」

「ジョセフィンです」

「キャシーです」

「ダリアです」


 その後ろに女子も男子もいて、みんなで父さまに挨拶してくれてる。


「ああ、娘と仲良くしてくれて、ありがとう」


 父さまは後ろの子も含めたD組の子たちみんなに、声をかける。


「リディアのお父さん、私、リディアが大好きです」


 おっと、レニータ。嬉しいけど、なぜ父さまに?


「私もです!」


 キャシーが大きい声で言った。


「私たち、リディアが大好きだから、これからも一緒に遊んで、勉強して、もっともっと楽しい時間を過ごしたいんです」


 ダリア……。


「そうやって一緒に過ごして、一緒に2年生になって、3年生になって、一緒に卒業したいです」


 ……ジョセフィン 。


「リディアの力になりたいです」

「だから、リディアを辞めさせないでください」


 ライラ、ジニー……。


「「「「「「「「辞めさせないでください」」」」」」」」


 みんな…………。

 父さまがみんなを見て、ゆっくり振り返ってわたしを見た。


 アラ兄が、泣きべそをかいたわたしの顔に、ハンカチをあてる。


 父さまが胸に手をやり、みんなに礼を尽くした。みんな息を飲む。


「娘を愛してくれてありがとう。娘もとてもみんなのこと、そして学園が大好きなようだ。楽しいのはこの二日間でよーくわかった。伝わってきた。ただ、私も娘が大事だから、危険が迫るようなことがあれば、通わせ続けることはできない。が、なるべく娘の意思を尊重したいと思っているし、心強い仲間がいることを覚えておこう。だから約束はできないが、……それでいいかな?」


 みんながそれぞれに頷く。


「ありがとー」


 わたしはレニータたちみんなに突進した。手を広げて、みんなでぎゅうぎゅうに抱きつく。


「お前ら、団子になってると通る人の邪魔になるぞ」


 イシュメルに怒られた。

 でも、そうだよなと顔をあげると、みんな鼻の頭が真っ赤だった。いつもクールに決めようとしているジョセフィンも、いじっぱりなマリンも。

 レニータがパンパンと手を叩いた。


「さ、みんな解散。当番の子行くよ」


 わたしはダリアに劇を頑張ってねと言い、着替えてからクレープの屋台に行くというと、当番表を記憶しているのか、ジョセフィンにリディアは当番じゃないでしょと言われた。


 あ、だからね。変なのと一緒にいなくちゃいけないみたいなので、当番ってことで行こうかなと思ってさ。

 ってこそこそ囁くと、そっかと頷く。

 困ったらおいでと言われ、みんな父さまたちに挨拶をしながら散って行った。


「リーはあの偉そうな銀髪と知り合いなのか?」


 尋ねてきたロビ兄に首を横に振る。会ったことはあるけど。


「妖精、その格好でずっといるのか?」


 後ろからやってきたのは銀髪の少年だ。瞳はダークブラウン。


「ほ、本当に、わたしと過ごすつもりですか?」


 劇の宝を現実に持ち込むなよと、突っ込みたい。


「そうだよ。ジジイからの命令で仲良くなれって言われた聖女候補も、第一王子の婚約者からも断られたからさ。そんならお前みたいな面白いやつとの方が楽しそうだ。利用価値のない平民と一緒にいたって報告行って、ジジイ怒髪天つくだろーな、愉快だ」


 ええ? 聖女候補ってアイリス嬢だよね。

 第一王子の婚約者ってメロディー嬢。おじいさんから仲良くなれって言われた?

 外国の王族か?

 この人、わたしがシュタインってわかってないの? 利用価値のない平民とか、その考えでもう失礼だけど。

 あれ、じゃあ、劇の時、わたしを貴族ってわかってなかったの?


「リー、着替えてこい」


 ロビ兄が低い声で言った。


「あ、リーっていうのか? 俺はガインだ。ガイン・キャンベル・ガゴチ」


 ガゴチ?


「来年度、学園に留学するんだ。ちょうどよく学園祭があったから下見にきた」


「……リディー着替えておいで」


 兄さまに言われる。


「リディー?」


 ガゴチ将軍の孫が聞き覚えがあるというように、首を捻った。


「わたしはシュタイン伯第三子、リディア・シュタインです」


 カーテシーをして、わたしは将軍孫を真っ直ぐに見た。


「リディア・シュタイン? お前が?」


 将軍孫は驚いた顔をした。それからすぐに無表情になり、わたしの家族を次々と見る。わたしが名乗ったことで、みんなのプロフィールは知っているだろうから、擦りあったって感じだ。


「シュタイン伯でしたか。ご挨拶が遅れ失礼しました。ガイン・キャンベル・ガゴチです。お見知り置きを」


「ジュレミー・シュタインです」


 父さまは簡素な礼を尽くす。


「誰だかわかったのなら、リーに付き纏わないでくれます?」


 アラ兄が静かに言った。


「それとこれは別でしょう。妖精の宝だ、そうだよね、妖精さん」


「とにかく、リーは着替えて、〝当番〟に行って」


 父さまにも頷かれてしまったので、アラ兄の護衛でわたしは更衣室に行った。

 ガゴチの将軍の孫が学園へ下見にきた。

 ジジイとは将軍のことだろう。将軍はアイリス嬢やメロディー嬢と孫を繋がりを持たせようとした……。そこにどんな思惑があるんだろう?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ガゴチの将軍の目的 [一言] 銀髪少年はガゴチの将軍の孫でしたか。 それにしても報告行ってと言っているようにもう学園内に密偵とかが入っているんですかね? だとするとガゴチの能力侮れま…
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