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第444話 ファースト

『リディア、我はここにいる。中にはフランツとふたりで行くが良い』


 え?


『何もないと思うが、何かあった時は聖樹さまの中へ飛べ、良いな?』


「う、うん」


「どうしたの?」


「もふさまがね……」


 わたしはもふさまの言葉を兄さまに伝えた。

 中庭に作られた大きな迷路は、順番待ちの生徒で列をなしている。


「リディー、大丈夫。何かあっても私がいるし、主人さまはふたりにしてくれたんじゃないかな?」


 もふさまはわたしに伝えた後、のそのそと校舎の方へ歩いて行く。

 通りすがりの生徒たちに「お遣いさまだ」と、時には祈られたりしてる。

 なんで祈る??


「迷路の必勝法って知ってる?」


「ああ、片手をつけとくとってやつ?」


 わたしが思い出しながら言うと、兄さまは頷いた。

 遠回りにはなるけど、片手を壁にずっとつけていけば、絶対出口に出られるという。


「でも、ここは魔法を使っているから、それはできないだろうけどね」


「あ、そっか」


 スタートの位置で、左手にリボンを結ばれる。魔具がついていて、同じ場所に5分以上いるとスタッフが駆けつけるそうだ。

 迷って出られない人がいたら困るものね。

 並んでいたぐらいなのに、中に入ると人は見当たらない。


「どっちに行く?」


 兄さまに尋ねられて、わたしは左の道を選んだ。


 手を繋いでゆっくり歩く。2メートル以上ある土の壁は圧迫感はあるけど、道幅がとられているからか、そこまで抜け出せない感はなかった。


「クレープ屋も、D組の劇も評判いいね」


「本当?」


「カフェで噂されてたよ。講堂でやるときに見に行くからね」


 兄さまに妖精の衣装を見せていないことを思い出して、一瞬固まる。

 父さまが過剰反応なんだ、きっとそう。自分に言い聞かせる。

 通路が分かれていたので、右に曲がる。


「あ、朗読は何時からだっけ?」


「10時から」


 兄さまは明日わたしが出演するものを見にきてくれる予定で、そのため、今日ウエイターの時間が長かったそうだ。


「ありがとう」


 そうだったのか、お礼を言うと神々しいスマイルをくれる。

 右に折れる通路があったので曲がってみた。


「ラストレッド殿下とはどこで会ったの?」


「アラ兄の魔具クラブ。魔具、すっごい進化してた。驚いちゃった」


「アランは、本当に自由に魔法を使える世の中にしてくれそうだ」


 兄さまの言葉にわたしは頷いた。

 左に曲がる。


「ラストレッド殿下は、魔具に並々ならぬ思いがあるみたいだね」


「ウチの魔具が凄いのは魔使いの家だったからかって、ウチに招待してくれって言われたよ」


 驚いたように兄さまがわたしを見る。


「いつ?」


「さっき」


「リディーに?」


「え? うん」


「……そう。エンター君とはどう? 大丈夫?」


 兄さまにも、心配をかけてたみたいだ。


「父さまにも言ったけど、エンターさまは大丈夫みたい。ご本人と、王妃さまが出てきたらわからないけどね」


 手を強く握られる。


 行き止まりだった。

 壁にメッセージが貼ってあった。

【まだまだ先は長い】

 まだ歩き出したばかりだもん。


 来た道を引き返す。折れた道を左に行ってみる。


「兄さまはどう? メロディーさまとは会われたの?」


「護衛を終え、労ってもらったよ」


「それだけ?」


「……ああ、元々、それだけの関係だから」


 しばらく黙ったまままっすぐ歩き、右に折れた。壁に花を這わせてある。きれいな道だ。



 耳鳴り!

 耳というか頭がというか、不快で痛くて気持ち悪い。


 急に響いてわたしは耳を押さえた。


「リディー?」


 サイレンが鳴った。


《学園に侵入者あり、侵入者あり。警備員以外は近くにいる者同士でかたまり待機》


 非常ベルみたいのが鳴り響いている。

 兄さまは、わたしを守るように抱きしめた。


 学園祭だもん、生徒以外にもいっぱい人がいる。こういう時は非常ベルは切られるって聞いたけど。侵入者ってわかるレベルの、害をなす存在が入り込んだってこと?


《侵入者確保、侵入者確保》


 非常ベルは止み、サイレンが再び鳴る。


《危険は去りました。引き続き、学園祭をお楽しみください》


 ええっ??? 情報、それだけ?

 それだけで、気持ちを切り替えられるもの??


「大丈夫?」


 兄さまが心配顔だ。


「うん、おさまった」


 聖樹さまとの繋がりが強化されたからか、非常ベルが鳴る時、耳鳴りが凄いんだよね。でもこの間の時ほど長くなかったから、頭がガンガンするのもそこまででもない。


「迷路、棄権する?」


 心配そうな兄さまに、わたしは首を横に振った。


「歩ける。大丈夫。でも棄権ってどうやって?」


「5分動かずにいれば、係の人が来るだろうから待つこともできるし。リディーを抱えて壁を飛び越えるのが一番早い。お望みとあらば」


「望みません」


 兄さまは笑った。

 でもそっか、兄さまはわたしというお荷物があっても、この壁を飛び越せちゃうんだ。


 お花の道をしばらく歩いたが、そこも行き止まりだった。

 少し戻って反対側に曲がる。


「何があったんだろう?」


 もふさまが外に残ったのは、何か予感することがあったのかな?


「外に出たら、わかるよ」


 兄さまがいくぶん、のんびり目に言った。

 ま、そだね。


 今度は天井が塞がっている通路で、キラキラ光る石が埋め込まれ、それが発光して、星が瞬くみたいできれいだった。


「きれいだね」


 兄さまが頷いてくれる。


「リディーは楽しい、面白い、きれい、かわいい。いっぱい好きなものがあるよね」


「うん!」


「わたしはこれからも、リディーと一緒にそういった思いを共有できたらと思う。いつも隣で共有していきたいと思う」


「わたしも、に……フランと一緒に同じものを見たい」


 兄さまに引き寄せられる。

 ちょんとおでこにキスされる。

 目があって笑えば、今度は眦にキスが降りてきた。


 今までもこういう顔キスはあった。

 そう、あったんだけど、なんだか無性に恥ずかしくなって。


 兄さまの手がわたしの顔に触れる。その手で上をむかされる。

 見上げると兄さまの瞳が熱を持っていて、ドキンと胸が跳ね上がった。

 頬に兄さまの唇が降りてきた。長く、熱い。少し開いた口の間から漏れる吐息が熱くて、兄さまの胸に置いていた手が思い切り服を掴んでいた。


 顔が離れていき、その手に手を重ねられ、兄さまを見上げる。

 熱っぽい瞳は変わらず、また兄さまの顔が近づいてくる。


 あ……。

 唇が重なって、わたしは思わず息を止めた。

 静かに重ねられた唇は、静かに離れていく。

 兄さまと目が合う。


 押されて壁に背中がぶつかる。頭に回された手で、頭はガードされていたけど。

 再び顔が近づいてきて、唇を食べられる。食い尽くすような勢いで迫られ、頭は壁についているし、顔は手でホールドされているし逃げ道はひとつもなく焦った。ますます探られ、息もしづらいし。

 その焦りもいつしかボーッとしてきて何がなんだかわからなくなる。

 カクッと足に力が入らなくなった時、兄さまに支えられた。

 兄さまの口が離れていく。見上げれば


「……物足りない顔してる」


「してないっ!」


 わたしは自由になった両手で顔を覆った。


「かわいい顔を隠さないで」


 絶対顔赤いし、涙目にもなってる。

 もう知らないと歩き出そうとしたけど、足ががくんとなる。

 もう、やだ!


「ごめん。触れたら、我慢できなくなって」


 うーーーーー。なんか恥ずかしいーーーーーーーーーっ。


「歩ける? ずっとここにいると誰か来ちゃうから」


 うー、それは勘弁。

 仕方なく、兄さまの手を借りて歩き出す。


「……嫌だった?」


 あ。

 そうだ、兄さまだって不安になるよね。

 わたしは首を横に振る。


「嫌じゃない。けど、驚いて」


 兄さまは、いつもわたしに優しい。接し方もそう。わたしが宝物であるかのように、壊れ物であるかのように、そっと優しく扱う。

 それに慣れていたから、それしか知らなかったから。

 急によく知っているはずの兄さまが違うみたいに感じられて、押し切れらた自分にびっくりして、息もつけないほど熱く口を探られて、訳わからなくなってしまった。


「また、していい?」


 そんな天使の顔で、悪魔のささやきをされても!


「し、知らない!」


 いいとは恥ずかしすぎて言えんがな!

 兄さまはクスクス笑っている。


 それにしても、兄さま、ちょっと慣れているんじゃない?

 ……本来今年17だし。どこで、誰と??

 わたしの中で疑惑が生まれた。


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