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第439話 貴族価格

 感極まって、泣く子続出だ。

 ナレーションのジニーも目が真っ赤。

 わたしたちはよくやった!とみんなで称えあった。

 オスカーがアダムの機転に感謝している。


「みんな、すっごいよかったよ!」


 レニータが泣きながら拍手した。


「どうなるかわからないから、どきどきしてたけど、それもちょっと楽しかった」


「魔物、疲れるぜ」


 しんどそうに言われ同情したものの、みんな泣き笑いになる。


「うん、こういう楽しさもあるんだね」


「だね!」


 初回はみんなの家族で、一緒に成功に導いてくれようというか、好意的な人たちばかりだからうまく行ったところもある。

 軽くみんなで反省会をして、Bグループにそれを伝えてもらうことにする。




 クラスを後にし、急いで着替えて、父さまと合流だ。ロビ兄たちの演武を見にいくんだ。歩きながら質問する。


「父さま、どうだった?」


「ふ、よく考えられた劇だったな。観客を参加させるとは面白い。本当に魔物を退治しているかのようで面白く、楽しかったぞ。みんな一丸となって成功させようと頑張っていた。仲がいいんだな、D組は。リディーが普段からあのクラスで楽しんでいるんだろうなって思えたよ」


 えへへ、その通り! わたしは嬉しくなって父さまに抱きついた。父さまも一度ギュッとしてから、わたしを離して、歩き出す。





 お昼から第二演習場で、多くの体育系クラブがパフォーマンスを見せる。魔導騎士クラブの演武は、音楽クラブのパレードのすぐ後だ。


「これまた、すごい人気だな」


 父さまはもふさまごとわたしを抱きあげる。

 とても助かる。人の波で演技する人たちをひとつも見られそうになかったし、踏みつけられそうだった。下級生から上級生まで女性徒が黄色い声をあげている。

 12時から始まっていたのでパレードは見られなかったが、ちょうど音楽クラブが終わったところだったようで、ついてすぐにロビ兄たちの上演が始まった。

 始まりの笛の合図で、少年たちが声をあげながら走り出す。

 そして、各々の場所にたどり着くと、そこで長い棒を縦に持ったまま、腰を落とした。


「ピッピッピ」


 短く笛が3回吹かれると、

「アイヤー」と、ど迫力な掛け声をかけ、円陣を組んだ。


 その円陣の中に半分の人が入っていき、円陣が小さくなったと思っていると、肩を組んだ円陣の中からその人たちがむくりと顔を出して、外側に向かって円陣を組んでいる子たちの肩に手を置いて首を下に向ける。さらに中心から人が登っていき……人の塔が立っていく。そこをのぼる? いつか見たことのある組体操さながらに一人が上に登っていき、棒を上に掲げた。


 誰かの拍手で気づき、パチパチ手を叩くと、会場が拍手に包まれる。


 棒を下の人が受け取る。

 そして拍手の音をかき消すぐらいの大きな「ハッ」という掛け声とともに、一番上の人の足元の誰かの肩が揺れ、高いところからその人は後ろ向きに宙返りした!


 さらに激しい拍手!


 上の人がひとつ下に降り、その段の人たちもひとつ下に降りと塔が低くなっていく。そして円陣が花が開くように、クルクルと回りながらおきあがり、花びらが散るように離れていく。


 各々棒を振り回しても当たらないような位置まで移動していって、そこから棍棒を使った演舞が舞われた。


 キャキャー声がいっそう激しくなる。

 気持ちはわかる。揃っているし、しなやかでかっこいいもの。

 しかもずっと動きっぱなしなのに、息切れしてないの凄すぎる。

 演舞をしながら、また集まり始める。


 動きが止まったと思うと、エンミュが現れた。それにみんなが乗った。エンミュを走らせて、円を描く。みんなの方を見て、エンミュに乗ったまま棍棒で演技した。これもまたかっこいい。

 あんな長い棒をエンミュに乗ったまま動かせるのもすごいし、自分にもエンミュに当てないのもすごい。

 最後はエンミュの上で宙返りをした。棍棒を空高く飛ばして。

 そして着地の後、落ちてきた棍棒を掴む。


「ハッ」


 と言って、その棍棒を地面に立てると、割れんばかりの拍手。


 いや、凄かった。本当にすごいパフォーマンスだった!

 かっこいい、決まってる。もうなんて言えば言いあらわせるのかわからない!


「父さま、ロビ兄、めちゃくちゃかっこよかったね!」


 父さまはクスッと笑う。



「あ、シュタインちゃん。D組の寮の、おいしかったよ、あ、こんにちは」


 音楽隊の先輩だ。わたしをみつけ話しかけたようだが、途中でわたしの後ろの、手を繋いだ父さまに気づいたみたいで挨拶をする。


「こんにちは」


 父さまも挨拶をする。


「4のCにも来られたら来てね」


「はい!」


 元気よく返事をしておく。でも言ってから、そんな時間あるかなとふと思った。


「父さま、ケラのクラスは串焼きをやるんだって」


 もふさまの尻尾が揺れた。


「食べに行かない?」


「リディーはこの後、自分たちのお店で作る係で、そこで食べるんじゃないのかい?」


「しょっぱいものもあるけど、甘いのが多いから。しっかりお肉を食べておきたくて」


「そうか。なら、ケラのところに行ってみよう」


 手を繋いで父さまと歩き出す。もふさまはわたしたちの前を行ったり後ろに下がったり。


「リディー、妖精の格好だが、あのスカートはもう少し足を隠すようにできないのか?」


「……スカートを短くしたり、透ける素材で覆うのは流行よ。最先端!」


「最先端はいいとして、トランポリンで弾むだろう。弾むだけならいいけれど、リディーは着地のたびに危なっかしい。転んだりしたら足が丸見えになるぞ」


「転ばないから!」


「リディー……」


 話が長くなりそうだ。わたしは手を引っ張った。


「父さま、おいしそうな匂い!」


「……そうだね、いい匂いだ」


「いち姫、おじさんも」


 バッチリなタイミングでケラが登場した。


「ケラ、食べにきたよ」


「やぁ、ケラ、いい匂いだね」


 父さまもわたしと繋いでいない方の手をあげ、ケラに挨拶する。


「正真正銘、魔物の肉だよ! いち姫が収納袋貸してくれたから」


 父さまにちらっと見られたので、ケラの腕をとって教室の中に入る。


「ここに並んでて」


 ケラが行ってしまうと、父さまが声を小さくして言った。


「収納袋を貸したのか?」


「フォンタナ家には宿にもなってもらったし。フォンタナ家の人たちとケラと学園の子たちで魔物を狩りたいって言ってて。わたしも魔物のお肉がおいしいと思うから、誰でも使える回数数限のあるのを貸したの。父さま、王都に近いところにダンジョンがあったなんて知らなかったよ」


「近くはないぞ。それにあそこは強いのが出る。ケラの奴、よく行ったな」


 父さまは嬉しそうに笑っている。


『何? 強い奴がいるのか? 我も行きたいぞ』


「父さま、もふさまも行きたいって」


「そうだな、こっちにいるうちに、ロビンたちの力も把握しておきたいしな」


 やがてわたしたちの番になって、串焼きを3つ買った。

 ひとつ700ギルだ。やっぱり貴族価格だね。これならウチの寮のも暴利とは言われないはず。


 父さまと中庭のベンチに腰掛けた。

 フォンタナ家の〝トンテキ〟の味付けだ。ニンニクと蜂蜜とオイル。下味をつけておいてそれを焼いたものだ。なんの魔物かわからないけど、歯応えがありながら味がいい。


 もふさまもご満悦だ。


「学園祭でレベルが高いな!」


 父さまの言う通りだ。


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