第437話 夜明けの勇者(中編)
騎士たちにはお宝の〝魔石〟を持ってもらう。
魔物が出てくると、〝風〟と言って魔石を投げてとかこっちは水魔法が使えるよと誘導する。みんなで分担して魔法を使い、魔物はやられたふりをする。
勇者さまたちはちょっと楽しそうだ。〝風〟とか〝水〟と言いながら魔石を投げるのは恥ずかしいみたいだけど、投げると本当にその現象が起こり、魔物が倒れるので、面白く感じてもらえたようだ。
順調に魔物を倒し、アオーンが落とした宝が「剣」だった。
イシュメルたちは今までもお宝を騎士たちに渡してきたけれど、今回も「剣」を父さまに渡した。
「振ってみて」
ドムに促され、父さまが剣を振ったところで、わたしは幕から躍り出た。
「うるさいわねー、ちっとも寝れないじゃない!」
プリプリと怒って登場するのが、お助け妖精だ。
「あら、今日は子供だけじゃなくて大人もいるのね?」
とにかく妖精っぽくいつもぴょんぴょん飛んでいろと言われたのだが、着地がいつも危なっかしい。
フワッと抱きあげられた。
え?
父さま?
「これはこれは、ウチの娘と同じぐらいかわいらしい。お嬢さん、お名前は?」
ありゃ、イシュメルとのやりとりを飛ばさないとだね。
「わたしは妖精のリディアよ。あなたは勇者さまね? 祝福の剣を持っているもの!」
「勇者?」
「祝福の剣?」
「一階の試練のアオーンを倒したんですね? だから祝福の剣を持っている」
「妖精って言ったか? ここに住んでいるのか? なぁ、真っ黒の大きな奴に子供が連れて来られなかったか?」
「教えたら、わたしを助けてくれる?」
「お、俺たちはレズリーを助けに来たんだ。頼んでこっちの騎士さまたちに一緒に来てもらった。俺たちが助けられるかはわからない」
「リディアは何に困っているんだい?」
わたしを抱っこしたまま、父さまは甘い声で尋ねてくれる。
父さま、かっこいいなぁ。いや、いかんいかん。
「わたしは3階にいつもいたのに、変なのが入ってきてからこのダンジョンがおかしいことになってしまったんです。変なのをやっつけてくれませんか? そうしたら、わたしの宝物をお渡しします」
「私はこの娘によく似た妖精を助けてやりたいのですが、皆さんはどうですか?」
父さまが振り返る。
「元々、その魔物をやっつける話でしたしな、同じ目的のようですね」
「みんなで力を合わせて倒しましょう!」
今言ったのレニータのお父さんかな、どこか雰囲気が似ている気がする。
「そうですな!」
と話はまとまった。
わたしは3階にいる変なのが昨日子供を連れてきたことを話した。
ダンジョンの妖精がいることで、子供たちも2階に一緒に上がることになった。わたしが魔物をよく知っていて、弱点なども知っていると伝えたからだ。
サクサクと2階を攻略していって、試練もあっさりと。魔物を倒すたびに木刀の剣などを手に入れたから、剣はみんなに行き渡った。水の剣をふれば水が出て、風の剣を振れば風が飛び出した。できる魔法をちょっぴり出して演出しては倒される魔物役。魔法が飛び出す魔石に続きウケていた。
魔物役は次々に出てはやられてを繰り返している。キャストより大変だったかも。
芝居といえども思った通りに魔物を倒していき、そしてまたお宝が出てくるのが楽しくなったようだ。
みんなも魔法を練習通りうまく使えた。音響もバッチリだった。
ちなみに父さまはわたしを下さなかった。小さい声でおろしてと言ってみたが、その服装で危なっかしい足元なのは見ていられないとのことだ。
3階へと上がる。
わたしは姿を見えなくすることができるので、子供と変なのの様子を見てくると、一度退場する。
そして悲鳴をあげた。
「きゃーーーーーーーーーーーーー」
「リディア!」
父さまの本気の声がする。2つ目の幕があがる。
わたしは黒い毛皮を纏ったリキに捕まえられている。足元にはレズリーも転がっている。
「レズリー」
「リディア」
お芝居を超えたみんなの声が重なる。
「おい、魔物! レズリーと妖精を離せ!」
イシュメルが勇敢に前に出る。
魔物役のリキは鼻で笑う。
「お前は〝魔物〟と〝人〟の区別もつかないのか? ……青髪……、そうかお前があの子供だな。いいか、お前らは村の奴らに騙されているんだ」
「騙されてるってなんだよ。魔物だろうが、人だろうが、お前がレズリーと妖精を捕まえているのは事実じゃないか!」
「こいつは俺の息子だ。俺が連れてきて何が悪い? 人の息子を連れたまま、守りの木だかなんだかで他者を排除して、俺を村に入れないようにした村の奴らが悪いんだ!」
「どういうこと?」
子供役が声をあげる。
リキは勇者ご一行様に目をやる。
「その剣の構えは騎士だな。あんたたちもよく聞いといてくれよ。俺たちは10年前、タジオ領で暮らしてた。小さい村だった。領主にあまりにもひどい税をあげられて、死人が何人も出た。これじゃあみんな死んでしまうと、領主のとこに直訴に行った。反乱だと言われ、村は取り潰し、捕らえられそうになったんで、みんなで逃げた。その時、領主の一番大切なものを奪ってやれと、……子供をさらってきた。それがお前だ」
リキが指さしたのはイシュメルだ。
イシュメルは呆然としている。
「それじゃあ、あの村は……」
誰かのお父さんが呟く。
「そうだ、タジオ領の反乱の時の村人の生き残りだ。俺は国に訴えようと言ったのに、そんなことをしても領主の子供をさらった罪で殺されるだけだと、俺だけ追い出され、そして村に守りの木を植えられちまった」
守りの木とは、昔話に学園の聖樹さまポストのような意味合いでよく使われている。守っているものに害なすものは弾かれると言われている。
「イシュメルが、タジオ領主の子供?」
「俺たち、領主さまの子供をさらった村なの?」
子供たちが不安を口にした。
「うっせぇ!」
感情を爆発させたように、イシュメルが吠えた。
「たとえ俺がその領主の子供だろうとなんだろうと関係ない。レズリーは俺の弟だ。返してもらう!」
「お前の弟なんかじゃねー。こいつは俺の子供だ」
イシュメルとリキが睨み合い、緊迫した空気で張り詰める。
「おい、レズリー、お前はどうしたい?」
転がっていたレズリーが起き上がる。
「俺の本当の父ちゃんなの?」
リキは頷く。
「お前のゴワゴワした髪と俺の髪は同じだろ?」
「俺は村が好きなんだ。父ちゃんは村の人たちに何を言ってきたの?」
「お前を返せっていたんだ。断るっていうから、それならここに役人を連れてきてやるって。お前も同罪となるぞって言われて、それは良くねぇと思ったから食べ物を用意しろと言った」
「次は酒で、次はお金だね?」
「そうだ。お前とここから離れるためにな」