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第434話 始まりの儀

 当日、委員などは6時から、一般生徒は7時から登園が許されている。

 8時40分から講堂で開演の挨拶があり、9時に一般客を受け入れる門が開く。

 食堂も今日はレノアが6時から開けてくれた。夜ご飯を手伝ってくれている、おじいちゃんとおばあちゃんが今日だけ朝ごはんを手伝ってくれたので、生徒の手伝いはいらなくて寝ていられたし、メニューもいつもより豪勢だった。

 朝ごはんをいただき、部屋に戻ろうとすると。


「リディア、ちょっと、いらっしゃい」


 オシャレ番長のラエリンに呼び止められる。


「あなた、まさかその髪型で劇に出るんじゃないでしょうね?」


 ラエリンが怖い。


「ほら、見なさい。ダリアはちゃんとできてるわよ、なんなの、このたるんだ結び方は!」


「そ、そんなこと言ったって」


 わたしは不器用なんだよ。妖精ということで、髪型はダリアとポニーテールに決めた。わたしだってギュッとかわいい感じのポニテにしたかったけど、あまり高い位置でない、それもあんまり締りのないポニテになってしまった。


「やっぱり、リディアは貴族のお嬢さまだったのね。髪の毛はメイドさんにやってもらってたんでしょ? いつも下の方で2つに結んでたのも、あれが唯一できる結び方だったのね!」


 食堂でのことだったので、先輩たちからの視線も突き刺さる。


「フルル、ちょっとやってあげなよ」


「え、私、貴族さまの髪を結うなんて……」


「ほら、フルルの好きなリボンが!」


 マイナ先輩がわたしのポニテのリボンを指で摘んだ。


「か、かわいい! レースだわ。素敵なリボンなのに、な、なんでそんな結び方を」


 2年生のフルル先輩は大人しい先輩だ。自分から話すこともあまりしない人だと思ったが、目の色が変わった。


「リボンへの冒涜だわ!」


 冒涜、言われたっ。

 わたしの後ろに立って、リボンを解く。紐も解いた。髪がパサっと広がる。

 クシ? どっから出した?

 フルル先輩がわたしの髪にクシを通す。


「手触りがいいわ」


 フリル先輩は多分、左右横の毛を編み込んでいった。そして後ろでひとつにして高い位置で結ぶ。そしてリボンでギュッとしてくれた。


「凄い、かわいい!」


「フルル先輩、めちゃくちゃうまい!」


「お嬢さまに見えるよ、リディア」


 フルル先輩は問答無用で、ダリアの髪もわたしとお揃いにした。


「ダリアもかわいい!」


「うん、二人とも妖精だ!」


 サイドを変則的な編み込みにし髪をまとめ、高い位置でひとつに結んでいた。鏡がないからわからないけど、お揃いと言われたダリアを見て頬が緩んだ。わたしとダリアはお互いを褒めあって、フルル先輩にお礼を言った。


「妹の髪をよくいじっていたから」


 先輩は、はにかむ。

 いや、すっごい技術だよ。





 制服に着替えて、支度が整った人から三三五五(さんさんごご)に登園した。

 朝早いにも関わらず、すでに多くの生徒がわらわらといる。

 ちょうど門の飾りつけが終わったところだったようで、学園祭と書かれた大きな看板が掲げられ、上には〝welcome〟と書かれた幕がアーチとなっていた。生花?がいっぱい飾られている。とてもきれいだ。


 聖樹さまの波動?を感じた。うきうきしている感じ。伝わってきて、なんだかわたしも心躍ってしまう。


『人族とは実に面白い! 学び舎でこんな祭りをするとは』


 もふさまも楽しそう。尻尾が左右に揺れている。





 教室では舞台の最後の見直しをしていた。

 キャストが集まったところで、まずAグループの通しの劇をする。

 続いてBグループだ。同じ筋書きなのに、雰囲気が違っていて面白い。

 そんなことをしているうちに開会式の時間になったので、慌てて講堂へと行った。


 え?

 ええ?

 いつもの講堂だよね?

 体育館ぐらいの大きさの講堂がその3倍ぐらい広がった、広い広い空間に見えたのだ。


「ほわぁ」


 誰かは口を開けて天井を仰ぎ見ている。

 天井も高い!

 くすくす笑い声があがっていて、笑っているのは上級生だった。


「全員入れるように大きくなるの、この講堂」


 誰かの解説で、なるほど!と頷く。そんな仕掛けが!

 向かって左から1年A組、B組と列で並ぶようだ。プラカードに組が書かれていた。

 こういう時は背の順で一列なので、わたしが一番前になった。ちっ。


 レニータたち実行委員は、並ぶ場所が違うらしい。

 各種部長というか、出し物のリーダーもそうで、また違うところに並んでいる。リーダーたちは校章の下にリボンをつけている。クラスの出し物のリーダーはオスカーで、ドーン女子寮のリーダーはガネット先輩だ。クラブのリーダーは部長そのまま。


 あ、兄さまたち。生徒会勢揃いだ。まだ暑いというのにマントを羽織っている人がいる。あれが生徒会長だろう。

 5年生で、明るめの金髪に青い目をしていた。



 突然、シャランと幾重もの鈴を震わせたような音がした。


「只今より、第313回学園祭、開始の儀を始めます」


 舞台横でアナウンスに立っているのはアイボリーさまだ。澄んだ声が耳に届く。

 舞台の上から、するすると何かが降りてきた。

 あ、ユオブリアの旗だ。ユオブリアのマーク。葉っぱと星と枝がモチーフとして使われている。


「一同、礼」


 先輩たちを真似て、簡略化の礼をとる。女子も胸に手を当て、片足を下げるのみだ。


「始まりの儀の一・清め」


 白い装束に身を包んだ5人の女生徒が舞台にあがる。

 おでこを出し、髪を後ろにひとつに結び、同じ格好をしていると見分けがつかない感がある。

 5人は舞台中央で円になり、膝を折った。

 再び立ち上がり、ひとりがシャランと鈴がいっぱいついた棒を鳴らすと、他の4人も鈴を鳴らし出した。鳴らしながら、円が大きくなり、棒を上に放り投げてそれを掴むを繰り返した。そしていつしか、自分の鈴を投げていたのが対角線上の人へと鈴を飛ばして交換を始めた。

 これ拍手するやつ? と思って周りを見てみたけどノーアクションだ。

 そして「ハッ」と声を上げたと思ったら、みんなで鈴を上に掲げ集まる。

 シャラシャラ鳴っていたのがだんだんゆっくりとなり、シャランと最後に響かせ、5人が客席側に向いて跪いて身を縮めた。

 たっぷり時間をとってから、楚々と立ち上がり、舞台から降りていく。



「儀の二・宣誓」


 アナウンスがあると、マント姿の生徒会長が舞台にあがる。

 マントを後ろに翻して、剣を掲げた。剣?

 驚いて二度見しちゃった。


「宣誓。

 我々は、ユオブリアを愛し、先輩たちが創りあげてきた学園を誇りとし、学びを糧とし、精一杯自分の持てる力を出しきり、友と、共に新しい礎を築いていくことを誓います。

 夜明けに希望を持ち、崇高な精神で困難にも立ち向かい、頂点を目指す者たちよ、ここに第313回、学園祭を始める! 我に続け!」


 より一層剣を掲げると


「おお!」


 という声が、上級生側から凄い音量と数であがり、びっくりしてもふさまを強く抱きしめてしまった。

 1年生たちも運動系のクラブの子たちはちゃんと声をあげていて、わたしたちにも促してくるので、か細い声で「おお」と言っておいた。


「儀の三・聖樹さまへの祈り」


 舞台を降りなかった生徒会長が、聖樹さまのある方に体をむけて、ベレー帽を取る。帽子ごと胸に置いて目を瞑った。

 上級生たちが一斉に聖樹さまの方向へ向き直ったので、わたしたちも真似をする。そして目を瞑って祈る。


 聖樹さま、いつもありがとうございます。今日から学園祭です。どうぞよろしくお願いします。お守りください。


 胸の奥で緑色の何かが光った気がした。聖樹さまの葉ずれの音が聞こえた気もした。

 それから学園祭の簡単な説明や、注意事項があり、9時には一般客にも門が開かれるとアナウンスがあった。

 知らなかったんだけど、この2日間は学園の図書室が開放される。持ち出しは禁止だけど、中で読むことができるんだって。それが目当てで遠くから学園祭に来る人たちもいるそうだ。


 へーっと思っていると、締めのアナウンスが流れた。


「これにて、開始の儀をは終了です。解散!」


 ええっ??

 先輩たちが我先にと走り出していく。取り残されているのは1年生だ。後から、これが伝統というか、慣しだと聞いた。

 わたしたちは顔を見合わせて、出遅れたと、なぜか走って講堂から脱出した。


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