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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
10章 準備が大切、何事も
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第410話 解体実習

 気配がと思った時には、アダムの顔が近くにあった。


「な、何?」


 驚いて少し大きい声になってしまった。


「何かあったの?」


 床に顎までぺたっとつけていたもふさまが、ピクッとしてわたしを見あげる。


「何もないけど、なんで?」


 尋ねながら、自分の顔を触ってほぐした。

 やだ、深刻そうな顔をしてたのかしら?


「ほっぺがやつれてる」


 ほっぺかい!


「ご、ご心配はありがたいですが、なにもありませんので!」


 前の席のニコラスが、突如振り向いた。


「わかった、今日の実習が心配なんでしょ? そうは見えないけど、貴族だもんね」


 3限の薬草学と4限の解体学、これが今日はタッグを組む。

 3限と4限の実習を入れ替えて、解体学で解体した魔物の素材を、薬草学の実習でも使うそうだ。

 解体の実習は初めてだ。

 薬草学実習では、魔物の何かを使ったりもするんだね。そういえば夏休みの宿題でも、メカクシザメの牙の粉を使ったか。


「ニコラスは平気そうね?」


 むしろ楽しそうにさえ見える。


「うん、解体を手伝ったこともあるから」


 その言葉を聞いて、もうひとつ前の席のロレッタが後ろを向く。


「解体したことあるの? 血がすっごく出るよね?」


「まあ、そうだけど。今回は解体をするために血抜き済みだろうから、そこまででもないんじゃないかな?」


 ニコラスはロレッタの方に向き直って、にこっと笑う。

 ……そういう問題なのか?


 実習のことを思い出してゲンナリする。〝解体〟は苦手だ。というかまともにやったことがない。お肉の塊からならなんてことはないんだけど、やはり捌くとなるとグロテスクさと匂いがね。


「エンターさまは、解体をしたことは?」


 尋ねれば、アダムは首を横に振った。


「貴族の坊ちゃんが、したことあるわけないだろう?」


 アダムは当然だと言わんばかりだ。

 残るはイシュメルとアイデラ。同じ班の人が解体初心者ばかりだったらアウトだ。いいなー、ニコラスと同じ班の人。わたしはこっそりため息をついた。




 入れ替えられた3限目の解体学。顔を青くしているのは貴族組といく人かの女の子たちだ。お手伝いの一環で狩りに行くことや、捌くのは一般的らしく、抵抗はないようだ。

 それぞれの班のテーブルに、ひと抱えほどのモグラのような生物が仰向けに置かれていて、席につこうという気持ちが遠のいた。その様子をみたイシュメルが、大きな声を張り上げる。


「なんだよ、貴族がふたりも班にいるなんて、勘弁してくれよ。ほとんど俺がやることになるじゃん」


「あら、イシュメル、私はちゃんとやれるわよ」


 アイデラはすかさず自分を売り込んだ。


「席につけ」


 解体学のホメラ先生が実習室に入ってきた。前世の熊を思い出させる、のっそりした大きな先生だ。

 今日解体するのは〝ゴールドチャリー〟という土に穴を掘って生息するタイプの、ポピュラーな魔物だそうだ。あまり強くはないが素早さで身を守っているらしい。

 至る所で広く生息すること、あまり強くないこと、お肉は食べられるし、肝が毒消しになるとのことで、最初の解体にこの魔物が選ばれたようだ。


 ニコラスの言うとおり、血抜きされた状態で、解体するのに扱いやすくしてあるとのことだ。今日は班で1匹のゴールドチャリーを解体し、肉と肝を解体できるかで点数をつけるという。


 解体のやり方などは1学期に習ってきた。でも実物を目の前にすると……。

 イシュメルがニヤニヤする。


「誰が最初に切る?」


「その前に祈りでしょ」


 わたしが言うと、イシュメルはへーへーと言って口を尖らせた。

 その言葉が聞こえたのか、他の班の子たちも祈りを捧げ出した。


「そうだぞ、感謝の心を忘れるな。人だっていつ狩られる側になるか、わからないのだからな」


「でも先生、悪い魔物でさ、みんなが困ってから倒した魔物だったら? 感謝するって変じゃない?」


「悪い魔物と決めたのは誰だ?」


 先生が尋ねる。


「え? みんなが困るんだから」


「それは人の都合だな」


 エトガルが先生に言われて、あ、という顔をしている。


「我らの糧になってくれるものがあるから、我々は生きられる。それを忘れるな。それを忘れないでいれば、狩る時も畏怖を持つことができる。いつ狩られる側になるかわからないと、心に留めておける。逆に傲った心は、判断を間違える材料になる。いつも真摯であれ。それはこれから行動を起こす時に、絶対に助けとなる」


「……はい」


 エトガルは手を組んで、真剣に祈り始めた。


「じゃあ、最初の一刀は誰が振るう?」


「僕がやろうか?」


 アダムが気軽に請け負った。


「え、大丈夫なの?」


 何が?という感じだけど。

 あんた顔色よくないよ?


「ひっくり返らないでよ?」


 アダムが刃物を手にするから、わたしは念を押した。

 アダムはゴールドチャリーに手を置いて、反対の手で……。



 実習は成功に終わった。わたしはゴールドチャリーに、一度も手を触れることはなかった。そして大騒ぎになったが、Aマルをもらえたことを、先に言っておこう。


 アダムが本当にできるか心配だったのだろう。イシュメルはすぐ横に控えていた。そこに悲劇は起こった。

 アダムは躊躇うことなくゴールドチャリーに刃物を立てて、かっさばいた。

 教科書に載っていた図の通りに手順を踏み、まず、肝をと手を伸ばした時。ゴールドチャリーに食料として摂取された何かがまだ生きていて、飛び出してきたのだ。アダムはなんなくそれを避けたので、イシュメルの顔にその〝何か〟が張り付き、イシュメルはすごい叫び声をあげた。

 当然だ。死んでいる、血抜きもされた魔物の中から何かが飛び出してきて、それが顔に張りついたのだ。わたしだったら気を失ったと思う。実習室は一瞬にして恐怖、驚愕に支配され、悲鳴が続き泣き出す子もいて大変な騒ぎとなった。

 慌てず騒がずだったのはアダムで、イシュメルの顔に張り付いた何かをピラっととりあげ、ソードでぶっ刺した。そいつも動かなくなった。わたしは言葉を発せられなかった。

 先生が稀なことだと豪快に笑って、景気づけにイシュメルの背中を叩いたけれど、かわいそうにトラウマになることだろう。


 アダムは最後までそつなくこなした。驚いたことにアイデラもその補佐をして、ふたりは完璧にやり終えた。

 皮の剥ぎ方も、切り口も、胆も傷つけることなく、お手本として残したいぐらいの出来栄えだそうだ。


 後から本当に初めてなのか尋ねたけれど、本当に初めてらしい。そして信じられないことを言った。一度聞いたり見たり読んだりすれば、大体その通りにできるだろう?と。

 なんなの、その能力の高さ? 妬ましいので、わたしはアダムは、おかしなやつだと思って矛を収めた。


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