第408話 オババさまの占い⑥占いの報告
ん? 空気の流れがなんか。あたりを見回す。
『結界を張った』
「結界?」
『音が外に漏れることはない。リディア、泣いていいぞ』
「別に泣くようなことは……」
『怖いだろう? 今までよく心配をかけまいと、泣かずに我慢した!』
わたしは大丈夫だと笑おうとした。
『先に泣かしてやれず、我の愚痴を聞かせ……。我はリディアに甘えていたようだ。我は泣かれるのが嫌いだ。だから、泣けと許すのは〝レア?〟ぞ。存分に泣くがいい』
大きなもふさまが、わたしの頬を舐める。
それだけで、呼水になったかのように、目の端から熱いものがしたっていく。
もふさまの毛並みに突進して、顔をつけてしまう。
『怖かったな。我がいる。我がいるからな』
わたしはしばらく、もふさまに顔をくっつけていた。
ステータスに出ないくらいの残像のような呪い。でもオババさまにはわかるくらいには存在している。
落ち着いてきて、もふさまにお礼を言う。
今だけじゃない。聖獣であるもふさまがいてくれたから、今まで呪いが大きくなったり発動せずに済んだ。オババさまも言ってたけど、わたしめちゃくちゃ運がいい。それに最終的に願いは叶うっていうし。いろいろあるだろうけど、未来は明るい! わたしは自分を盛りあげた。
心配事は、家族がわたしを助けようと無茶するのではないかと思えること。特に呪術は禁止されたことだから、呪術師を探していたら、それだけでアウトになりそうだ。法を侵すようなことは絶対しないでと伝えなくちゃ。……それは当事者のわたしだけでいい。
明日からはもう学園だ。その前に話すには、今日の夜しかない。気が昂っている今、ちゃんと話せるかな?
気をつけることは、絶対母さまに内緒なことと、無理をして捕まるようなことはしてほしくないこと。後は出たとこ勝負だ。
『兄たちが帰ってきたみたいだぞ』
わたしは、お帰りなさいを言うために部屋を出た。
兄さまたちを迎入れると、占いはどうだった?と興味津々に言われた。
わたしは後で話すと言って、アルノルトに、父さまにひとりで、食事の後、王都の家にきて欲しいと伝えるようお願いした。
お茶を用意して、居間のテーブルに置いた。アリに出してもらって、収納ポケットに入れておいた氷入りだ。
兄さまたちとお茶を飲み始めると、父さまがやってきた。
「占いの報告か?」
と尋ねられたので、わたしは頷く。
「リディー、何があったか聞こうか」
手放しにいい報告でないのは、みんな予想しているようだ。
「オババさまはどんな方だった?」
話しやすくするためか、兄さまが尋ねてくれる。
「小さいおばあちゃんでどこか不思議な感じのする方だった。目が不自由だそうだけど、それで感覚が増したって言ってた。大盤振る舞いにいっぱいのことを教えてくれたよ。
先日教え子だったカプチーノ先生と会って、相談されたことがあって、わたしの生まれた日と出生地を聞いて、その相談されたことがわたしのことだって気づいたみたい。カプチーノ先生を知っているか聞かれて、学園の先生だって言ったの。そして相談されたことはわたしのことだと思うって言ったの。星の加護がなさすぎるけれどと励まされたから。
そしたらオババさまが教え子が間違ったことを教えたようだって謝ってくれて、わたしの生まれは確かに変わっているけれど、干渉を受けてないわけではく、逆に恐ろしいまでの干渉を受けているから、ご破算になって何事にもとらわれていないように見えるだけだって教えてくれた」
みんな口を挟まないと約束したかのように、ただ頷くだけだ。
「オババさまは言ったの。わたしたちは何度も死んでは生きて〝生〟を繰り返している。その生の記憶を星々に還しているんだって。記憶を手放し空いたところに星々が祝福をしてくれるそう。わたしは異界からきて初めての生まれ変わりだったのだろうって。初めてだと記憶の〝形〟が違って、だから記憶が星に還されず〝生〟の記憶を持ったまま生まれ変わったって。前の記憶を還さなかった人がテンジモノって呼ばれるんですって。星は記憶を還した、その空いたところに祝福をくれるそうよ。わたしはその前に祝福をいくつももらっていて入りきらなかったみたいだけど、わたしも祝福をもらっているって。わかりやすいものとして五感がそうなんだって」
みんなそれぞれに聞きたいことがありそうな表情をしていたけれど、わたしがしゃべり終えるまで話を遮らないことにしているようで我慢している。
「わたしのネイタルチャートでテンジモノとわかったわけではなく、オババさまの経験からあまりに変わっているからそうかもと思ったみたい。オババさまはわたしを見てすぐに、魔力が多いことも、光属性があることもわかっていたし、もふさまが聖なる者ってこともわかっていた。だからわたしは素直に話した」
みんな息を呑んだ。
「それからね、星見をしてもらって、わたしは最終的に願いを叶えるって」
みんなほっとした表情になったものの、どこか不安げだ。
「それは良かった! だが……それだけ……か?」
父さまはわたしを探るように見た。
心配をさせくない。なるべく明るく、でも無理に、はしゃいでいるとは見えないように。
「最初に聞かれたの。呪術と関わったか?って」
「「じゅ、呪術?」」
アラ兄とロビ兄の声がピタリと重なる。
「それで?」
父さまに促される。
「呪術の呪いは呪術でしか返せないものなんだって。呪術が禁止される前は、光属性を持つ人は呪術を学んだそうよ。呪術は瘴気を術式で組んだもので、これを解除したり浄化するには呪術で解除しないとなんですって。光魔法で浄化すると光の使い手に瘴気が残ってしまうの。呪術を教わらないようになったから、光の使い手が……早くに命を落としたり、生まれてこなくなったって言ってた」
『我のせいだ。我は呪いも光魔法で浄化できると思っていた』
「だから、もふさまは悪くないってば。あのね、母さまはきちんと呪いを浄化できているの! だから、母さまは大丈夫だから!」
父さまが席を立った。
ゆっくりわたしに向かって歩いてきて、わたしを抱きしめ、問われた。
「それはリディーの中に、呪いが息づいているということか?」