第4話 前世
本日投稿する1/3話目です。
「君、だれ?」
兄さまにきつい目を向けられた。
びっくりした。
「リディーじゃないよね?」
記憶が混在しパニクっていたときも、ずっと優しかった兄さまに冷たい目を向けられて衝撃を受ける。話そうとするのに、声が出ずに口がぱくぱくするだけだ。
「ゆっくりでいいよ。言いたいことを言ってごらん」
父さまに頭を撫でられた。
緊張しながら、みんなを見上げる。
「わたし、リディア。……でも昨日、思いだした」
「思いだした? 何を?」
「前世」
「ぜんせ?」
わたしは頷く。
「ぜんせってなあに?」
アラ兄が父さまに尋ねたけど、わたしが答えた。
「前の人生のこと。みんな生まれて死んでを繰り返す。ふつう次の人生で、前の人生覚えていない。わたしも急に思いだした」
「リーはリーなの?」
「リディアの記憶ある」
「……リーはなんで今日からオレたちのこと兄ってつけて呼んでくれたの?」
アラ兄に聞かれた。
「喋るの疲れる。なるべく短く話してた。呼んでないけど兄とは思ってた」
双子が顔を合わせている。
みんなの様子を窺う。
「気持ち悪い?」
周りの人から見れば、急に違う人格になったように感じられただろう。
リディアは面倒くさがりで、話すのさえ億劫だったし、いろんなことに興味はあるけれど、疲れるのがイヤだった。だから疲れそうにないことしかやろうとしなかった……のだと思う。
わたしはリディアのそんな記憶が微かにあるけれど、みんなからは別人が乗っ取ったように感じたかもしれない。わたし、拒絶される?
でもそれは杞憂で抱きあげられた。
「うちのお姫さま。そんなことあるもんか。うちの娘は賢くて可愛いな」
頬擦りしてくる。相変わらずチクチク痛いが我慢する。
「お、泣かないな」
「チクチク痛いけど、我慢」
「う、痛いのか」
「あ、母さま、リーが魚で手を怪我した」
ロビ兄が言って、母さまが手を見てくれる。
「あら、治さないとね」
手をかざすと温かい光に包まれて傷口がきれいに塞がった。
「しゅごっ。なに、魔法?」
「光魔法を見るのも初めてだったのね?」
母さまが微笑む。
「うん、前の世界、魔法なかった」
父さまと母さまが顔を見合わせている。
そっか、光魔法って灯りをだすんじゃなくて、治癒とかなんだ。
「魔法がなくてどうやって暮らしていたの?」
アラ兄が不思議顔だ。
「科学っていうのが発展してて、とても便利だった」
「生まれ変わったってことは、死んじゃったの?」
ロビ兄に言われる。
「うん。よく覚えてないけど、急に倒れてそのまま、たぶん」
わたしは日本という国でフリーランスで働くアラフォーだった。ありがたいことに、辛いとか苦しいとか死の恐怖みたいな記憶は残っていなかった。
「聞いて、ごめん」
ロビ兄に謝られる。
「だいじょぶだよ?」
もうこうやって転生しちゃってたし。
とりあえず、あからさまな拒絶はなくてほっとする。
「わたし、布洗う」
わたしは父さまからおろしてもらって、魚を包んだ布を洗いに行った。
兄さまが無言で水を汲み、タライに入れてくれた。
袖をまくるがきれいにまくれない。腹がたったので、ただ袖を肘上まで持ち上げる。
アラ兄が気づいて、袖を折り返してくれた。
6歳児にやってもらうってどうなのと思ったが、怠けてやってもらっているわけではなく、本当にうまくできないんだよ。やり方はわかっているのに。
布をタライの中に入れて、ジャブジャブと擦り合わせる。うう、これもやはりうまくはいかない。でもしつこく擦り合わせていたら汚れが落ちた。これくらいでいいかな?
反対の端をアラ兄に持ってもらう。
そして捻っていって水を絞る。まだちびっちゃいし力がないから上手く絞れないので、ふたりがかりで捻りあげる。木と木の枝にロープをかけて、そこに布をひっかけて乾かす。タライも洗って水滴が落ちるよう木陰に干しておく。
持ち帰った実が食べられるものか聞いてみると野菜だった。どれも食べられるというから、数個はお魚のお腹に一緒に詰めよう。お昼は硬いパンを食べて、お魚は夜ご飯だ。
眠くなってきたので、お昼寝をしようと思う。
さっきから一言も口をきかない兄さまの前にいく。
「嫌いになった?」
勇気を出して尋ねてみる。
兄さまは首を横に振った。
「ごめんね。リディーこそ、嫌いになった?」
わたしは首を横に振った。
「兄さま、大好き」
「本当?」
「ほんと」
「オレは?」
「おれは?」
「兄さまたちも大好き!」
わたしたちはベッドによじ登って、4人でお昼寝をした。
目が覚めてからは夕ご飯の支度を手伝った。血抜きした魚の内臓をとってもらって、お腹にビワンの葉と、収穫してきた野菜、メッキャベツとアカナスを一口大に切ったものを詰め込む。塩とオイルをしてオーブンにインだ。付け合わせにお芋を人数分入れておく。お芋だけはいっぱいあったから。
マルネギのスープの仕込みをしてもらったら、母さまには座ってもらうようにする。
やはり、顔色が悪い気がする。でもそうだよね、子供が4人もいて。それで旦那とふたりで引っ越しって大変でしかない。おまけに家電なんか全然ないんだから、全部人の手でやらなければならない。少しでも楽にしてあげなくっちゃ。わたしは心に決めるのだった。
兄さまはわりと魔力があるというので、ビワンの葉をからっからに乾かしてもらい、砕いてお茶の葉にした。母さまが大喜びだ。枇杷も6つ収穫してデザートにする。
夕飯はとってもおいしかった。ベアシャケがとってもいい味で。ビワンが臭みをとって爽やかにして、メッキャベツもアカナスもジューシーになっていておいしかった。メッキャベツは芽キャベツでアカナスはナス……みたいな感じだった。一緒にオーブンで焼いたお芋がおいしくて、パンは食べなくてもお腹がいっぱいになった。
食べるのに時間がかかるし。口の位置だってわかっているし、スプーンやフォークだって知っているのに、口に上手く運べなかったりするのだ。なんで?? そして眠さには絶対勝てない。
それにしても母さまがやはり心配だ。これは絶対にお風呂を作ろう。お風呂で体を休めたら、ちょっとは違うと思う!