第388話 家族間大会議⑤ジェネラル
「リディアは何をもって信じたのだ?」
おじいさまに尋ねられる。
え?
「いくら嘘をつく利点がないからと言って、未来を見たと言われ、お前がそのまま信じたのは不思議に思える」
「それに、アイリス嬢はお嬢に忠告しにきたのですよね? 何を言いに? お嬢が聖女になる未来をみたとでもですか?」
「アイリス嬢がギフトを授かって初めて見たもの、それはわたしもみることができたの」
「未来を見たのか?」
「アイリス嬢の視点で、小さい頃から大きくなるまでをね。その未来では試練は訪れるけど、全て乗り越えて幸せになれたの。アイリス嬢が小さい時、ウチに来たのを覚えている?」
わたしは兄さまたちに問いかけた。
「ああ、兄さまに会いにきたって言ってたよな?」
大人たちに向き直る。
「アイリス嬢は一人でウチに来たの。そして兄さまとわたしとロビ兄の名前を正確に呼んだ。そしてわたしには、なんで火傷をしていないのかって、なんで大切にされているのかって言ったの。わたしはわたしが火傷を負っていて、大切にされていないと思っていたアイリス嬢が怖かった。映像を見て、その謎が解けた。
アイリス嬢がその未来で見たわたしは……前世を思い出してないわたしなんだと思う」
それぞれに考えているようだった。
「だからわたしは、家族とだけ接して外に出ようともしない、砦にいた頃と同じわたしなの。部屋に籠っているだけで、もふさまにも会えなかったんじゃないかと思う。……その見た未来では母さまが……母さまがあのまま命を落としてた」
みんなが息を呑む。
「その未来では、母さまがいなくなり、シュタイン家は荒れたみたい。そしてわたしは火傷をしたことにして、家から出ないよう、閉じこもったんだと思う」
「閉じこもった?」
実際、映像で〝わたし〟を見たわけではない。兄さまの言葉だけでしかウチの様子は窺い知れないのだと話す。でも、火傷も嘘なんじゃないかと確信に近く思う。口実じゃないかと。部屋に籠もって何もしないわたしが、火傷をするシチュエーションを思いつけない。だから、そういうことにして、大手を振って〝閉じこもる〟ようにしたんじゃないかとわたしは考えた。
「未来ってひとつのことが解決して、ああ、クリアできたと思っても、違うことに移行して同じようなことが起こるんですって。失敗をしてある人から無能だと言われる。失敗しないように気をつけてそこはクリアしても、その人から褒められたと思ったら、他の人に〝褒められて、いい気になるのは無能だからに他ならない〟って言われるとかね。だからアイリス嬢は心配したみたい。
母さまが生きているから、その流れで火傷をするような何かは起こらなかったようだけど、それはいずれ形を変えて起こることだと。火傷を負ったり、わたしは家族から閉じ込められるようなことになるとね。だから、そう自覚するべきだと彼女は伝えに来たの」
「なるほどな。未来の映像をリディアも見て、未来のひとつだと思い、そしてレギーナの誰も知らない件を見せられたことで、本当に未来が見えていると思ったのだな?」
そういうことになるかと、わたしは考えを咀嚼して頷いた。
「でもさー、それだと、例えばその5年後以降のことじゃなくても、陛下に何かがあったら瘴気がばら撒かれるってこと?」
ロビ兄が眉を八の字にしている。
「陛下の魔力がなくなるだけで傾くことはないだろう。恐らく戦いの中、地形の魔法陣も破壊されたんだ、きっと。……でもロビンの言うことは正しい。陛下の魔力は莫大らしいから、陛下に頼っている部分は大きいだろうからな。けれどそれぞれだけに頼ることなく、封印する力をもっと分散させておかないと危険だな」
おじいさまと父さまが頷きあった。
静けさが舞い降り、父さまが息をついた。
「未来が見える、か……」
低い声で言って、そして顔をあげる。
「実はみんなに話そうと思っていたんだが。エリンとノエルと話をしてわかったことがある。あの子たちのスキルだ。それにとんでもないものがあってだな……」
父さまはふぅと息をついた。
「とんでもないスキル?」
兄さまがおっかなびっくりに聞いた。
「ああ、エリンは未来視、ノエルは転移だ。未来視はアイリス嬢のものより、簡素な印象を受けるがな」
ええっ。
あの子たちってば魔力は高いし、規格外なだけじゃなく、そんな希少で利用価値のありそうなスキルを……。
みんな同じことを考えたのか、頭か目を手で押さえていた。
「それって、バレたら囲われるか、保護されるレベルだよね?」
思わず確かめると、父さまは頷いた。
「特に外国にはバレたくないな。それじゃなくても、ふたりには外国から縁談が来ている。どの国にだっていい者悪い者はいるが、得体のしれない者にふたりが目をつけられたらと怖い」
隠蔽をつけておいてよかった! 本当によかった。
「ふたりは危険性をわかっている?」
兄さまが父さまに尋ねる。
「ああ、理解している。魔力が高いことへの懸念をずっと言ってきたからな。ふたりはまだスキルは安定していないようで、使いこなせるようになったらいうつもりだったそうだ」
そうだったんだ。
「よかった。すごいスキルだって、褒めてやらなきゃな」
ロビ兄がピッカピカの笑顔で言った。
そうだね。希少すぎて心配になっちゃったけど、どちらも素敵なスキルだ。おめでとうと言ってあげたい。
ロビ兄の眉が急に下がる。
ん?
「あのさー、おれたちも話があるんだ。今、話していい?」
「……ああ、もちろんだ」
重々しく父さまが頷き、……でもそれは予感していたことのように見えた。
「おれたち、おれたちを産んだ母上のことで、微かに覚えていることがあるんだ」
双子から産みのお母さんのことを聞くのは、従兄妹だって知った時以来な気がする。
「父上のことを、名前とそして時々ジェネラルって呼んでた。フォルガード語で〝将軍〟だよね?」
その後をアラ兄が引き継いだ。
「ガゴチの初代将軍、ジェイ。その人がオレたちの血の繋がった、父上じゃないかと思うんだ」
「誰に何を言われた?」
父さまが鋭く尋ねる。
「確かジェットって母上は呼んでいて、傭兵だったって言ってた。不法滞在だから戸籍が作れなかったとも。小さい頃は何を言ってるのかは理解できてなかったけど。……リーが誘拐されて、ガゴチが関わったかもとわかり調べた。いろいろ符合すると思うんだ。クララが言った時は何を言ってるんだって思ったけど」
ガゴチの初代将軍、ジェイ。生死のわからないカリスマの人。今でも彼をリーダーにと望む声は多い。そのジェイ将軍がアラ兄とロビ兄のお父さん?
「ニアに探している人と太刀筋が似ているって言われた。魔法の使い方とかも。それでニアはガゴチの人なんでしょ?」
ふたりは確信しているようだ。
「それで、お前たちはどうしたいと思ったんだ?」
父さまは低い声で聞いた。




