第384話 家族間大会議①方針
おじいさまもシヴァも驚いたようだ。
恐らく話し合いに来るのは父さまと兄さまだけだと思っていたんだろう。
わたしとアラ兄、ロビ兄も来ていることにびっくりしている。
「おじいさま!」
お約束におじいさまに抱きつく。ここぞとばかりにシヴァにもハグだ。んー落ち着く。
兄さまにチロリと見られてしまった。
「皆に話すのだな」
おじいさまが、兄さまに確認をする。
「はい。迷惑をかけたくないと思い、知らせずにすめばその方がいいと思っていました。でも、私の真意が伝わることなくやっていることで誤解をされるのは嫌だと思い、アラン、ロビン、そしてリディアにも来てもらいました」
兄さまは少し緊張しているけれど、すっきりした顔をしていた。
わたしたちは玄関からサブハウスの居間へと場所を移す。そして座った。
それぞれに状況を説明しているけれど、重複するが、確認の意味でと兄さまは今回行動を起こすきっかけとなったメロディー嬢のことから話し始めた。
メロディー公爵令嬢がバイエルン侯爵子息の婚約者だったこと。
そしてメロディー嬢には自分が元婚約者だと確信を持たれていること。
メロディー嬢は誰かから脅迫を受けていて、その話が落ち着くまでは3日に一度自分は護衛につくことになってしまったこと。
それから、自分ではわからないけれど前バイエルン侯爵に自分が似てきたと言われていること。
どこにも証拠はないが、自分が前バイエルン侯爵子息だと言われ、みんなに迷惑をかけることがあるかもしれないと。
その上で、そこで問題になってくるのはバイエルン侯爵子息は罰せられる立場にあることだと問題を打ち出した。だから、前バイエルン侯爵の冤罪を晴らそうと思うこと。なるべく早く対処できるといいと思っているが、長くても2年後のわたしのデビュタントのときには何も憂いごとなくエスコートできるように整えたく、そのためにみんなの力を貸してほしいと頭を下げた。
おじいさまは冤罪のことはどこまでわかっているんだと問いかけた。
「blackが調べたところ、前バイエルン侯爵を嵌めたのは、キリアン伯爵家だそうです。賄賂を要求していたのを侯爵にみつかり裁判沙汰になりました。それを恨んでのことだと思われます」
「待て、キリアン家は伯爵だ。ましてや裁判沙汰になったのなら、誰も相手にしないはず。それなのに格上である侯爵家を嵌めることができたということは……」
「はい、もっと大物が絡んだものだったと思われます。キリアン家の賄賂事件も上の者から言われてやっていたのかもしれません」
「その者を調べられるのか?」
「バイエルン家が代替わりしてから、キリアン家が親しくしている筋をblackが残らず調べています」
「どのようにするつもりなんだ? フランツが、自分が子息だと名乗り出るのか?」
「いいえ。あくまでも私は表に出ません。子息が生きていたとしても罰を受ける必要がない状態にできればいいのです」
おじいさまたちは顔を合わせた。
「では、フランツは、あくまでフランツでいいのだな?」
「はい」
兄さまはにっこり笑った。
「でもずっと前のことだよ。証拠が残ってなかったら、証明するのは難しいんじゃないの?」
アラ兄に兄さまは頷く。
「まだ調べている段階だから、なんともいえないけれどね」
「前バイエルン侯爵さまは何の罪で捕まえられたの?」
ロビ兄が尋ねた。
「国家機密を外国に漏洩したとされる罪だ」
「バイエルン家は代替わりして続いているんだよね?」
アラ兄が首を傾げる。
「ああ。機密漏洩に対して取り潰されていないなんて、不思議だろう?」
え? ええ? どういうこと?
もふもふ軍団がリュックから飛び出して、言葉が通じるようになる魔具に触れてからテーブルの上に乗ってきた。アオ、君は魔具に触らなくても言葉は通じてるから大丈夫なのに。
「何で取り潰されてないと不思議なんでち?」
アオが兄さまに尋ねる。
「国に対する機密漏洩や反逆は、一族残らず処刑となるぐらい重い罪だからだ」
反逆はわかるけど、機密漏洩もそうなんだ……。
じゃあ、子息が生きていたら受ける罰って?
わたしは強制労働とか?って考えていたんだけど、幽閉でもすまなくて死刑もあり得るってこと?
兄さまがふとわたしの方を見て、テーブルに乗せていた手に、手を重ねる。
「リディーが心配するようなことは起こらないから大丈夫。私は大丈夫だから」
もふもふ軍団がわたしを見上げ、わたしに集まってくる。
「大丈夫か、リディー? 辛いのなら自分の部屋に戻りなさい」
父さまにピシッと言われる。
「大丈夫です」
兄さまはわたしの手をトントンと叩いた。
もふさまが床からジャンプしてわたしの膝の上に乗ってくる。
「……機密が漏洩して、漏らしたのが前バイエルン侯爵だって、どうしてわかったの?」
アラ兄が再び尋ねた。
「前バイエルン侯爵は、エレブ共和国に土地を持っていたんだ。グレーン(ぶどう)農場を。そのグレーンのほとんどはグレーン酒となって売られていた。割と大きな額で収入となっていたようだ。その農場が情報を受け渡す場所の隠れ蓑と断定された」
「エレブ共和国、あそこも7年ぐらい前からきな臭い話が聞こえるようになったところだな」
おじいさまが天井を仰ぐ。
「はい、そうらしいです。侯爵が土地を買った時は、そんなことはなかったようですが」
兄さまは誰に気を使ってか、〝父上〟とは呼ばず始終〝侯爵〟と距離をとった呼び方を貫いた。
共和国となるまでいろいろあったらしいその国では、現在も首都で絶えず戦いが起こっているそうだ。いわば戦いに慣れている者たち。その中には武装集団がいるそうで、彼らは対価により、他国の争い事にも手を貸すことがあるらしい。世界議会はそれを良しとせず、その集団を捕らえる、潰すことも一つの責務だそうだ。
その武装集団の話し合いの場がグレーン農場で、彼らの残していったもののひとつにユオブリアの地図の切れ端があったそうだ。
1年生の3学期に習うことだそうだけど、わたしが今までに目にしてきた書物にある地図は嘘っぱちが多いらしい。それは外国から簡単に攻められないようにするため。簡略化したものしかない。人々は自分の地図に経験を書き込んでいき地図の精度をあげる方式をとる。特に国全体を記したような地図は機密とされるもので、その切れ端は王室にしかないような精度の高いものだったそうだ。