第369話 子供だけでお出かけ⑬属性の歌
父さまはカンパインの警備隊は信用できないといって、スクワランにみんなで移動することになった。
父さまは馬車で来ていた。護衛に駆り出されたフォンタナ家の人たちはそれぞれの馬で。
ケインにはアラ兄とロビ兄が乗り、馬車にはわたしと兄さまが乗った。
襲撃されるとは夢にも思ってなかったけど、こちらの箱型の馬車でなく幌の方で来てよかった。快適さを求め、工夫を重ねた馬車が大破していたら、泣いても泣ききれない。
馬車の中で、わたしたちに起きたことを全部、父さまに話した。
スクワランではすぐに警備隊まで赴き、被害を訴え、アニキたち9人を引き渡した。魔具で録音しておいた告白も一緒にね。
父さまはニアの働きに感謝をし、護衛の代金に色をつけた。そこでお別れになると思ったけど、シュタイン領で警備の仕事を少しの間しようかなと、父さまに許可をもらっていた。うちの領に興味が沸いたようだ。
リポロさんには土下座をされた。ポリさんも一緒に。
父さまはこちらが巻き込んだようなものだと言ったけれど、ポリさんを連れ出したことをとても感謝された。そして彼らもシュタイン領に行きたいと言われ、父さまは了承した。
そして知った。隠蔽は主に人族に効くもので、他種族になると効果はないらしい。わたしの魔力量が凄いと言ったり、属性のことを言われたので、本当に驚いた。他の人たちが一緒の時じゃなくてマジでよかった。それで、魔力量や属性のことは秘密にして欲しいってお願いしたんだ。わたしだけじゃなくて、家族みんなも複数あって隠蔽しているし、それからもふさまのことも黙っていて欲しいのだと。ふたりは頷いてくれた。
スクワランの町でみんなの宿を取った。わたしたち家族はひと部屋だ。そうしているうちに父さまに伝達魔法が来た。なんとロサからだった。
ロサ殿下はわたしたちが領地へ向かったのと入れ違いにスクワランへと来たそうだ。タイミングが合わなかったなと思ったそうだが、わたしたちは戻ってきて、警備隊に訴えごとをしていた。宿にも泊まるみたいだし、それなら明日の午前中にわたしたちと会う時間をもらえないだろうかと、父さまに手紙が送られてきたのだ。午後いちで出発することにしてロサの誘いを受けた。
父さまが用事をするのに出ていって、部屋には子供たちともふさまともふもふ軍団だけになった。
部屋でレオを労いながらもお説教だ。
「レオ、あんなことは二度としちゃダメだからね」
「何がダメなんだ?」
「囮になろうとしたでしょ?」
レオはまん丸の目をパチクリとした。
「リディアは私が人族に負けると思うのか?」
「負けるとは思わないよ。でも何が起こるかわからないでしょ? わたしはレオが痛い思いをしたら嫌なの」
レオは真っ黒の瞳をくるっくるっとさせた。
「同じことを、リディーに言いたい」
兄さまに手を取られる。
「リー、囮になろうとしたの?」
愕然とした表情で言ったのはアラ兄。
「嘘だろ?」
茫然と言ったのはロビ兄。
「そんな大そうなものではなくて、ただ、わたしを売りたいってことにすれば、人売りのところに連れていってもらえるんじゃないかと思って……」
『いいですか、アリ、クイ。リディアは人族の中で魔法を使わなければとても弱いです。自分の強さを推し量れずただ突っ込んでいくのを〝無謀〟というのです』
『リーはムボウ』
『リーはムボー』
ベアが〝よくできました〟と言っている。
言いたい放題だ。
「レオにあんなことをしちゃいけないって言ってるけど、リディーはレオと同じことをしようとしていたんだよ?」
うっ。3人の視線が突き刺さる。もふもふたちの視線も突き刺さる。
「約束をして欲しい。今後、絶対に自分を囮にするようなことはしないでくれ」
『そうだぞ。勇ましいのはいいが、リディアは不器用なところがあるから、事態がどう転がっていくかわからないからな』
『主人さま、そう言ってやるなよ。リディアは自分が強いと思っているんだ。いいじゃないか、私はそういうの、好きだぞ』
………………………………。
「……はい」
「リーは返事はいいんだけどな」
「うん、感情のまま突っ走るからな」
「リディー、リディーが自分を大切にできないなら私が大切にするしかない。私は誰もリディーを害せないようにリディーを閉じ込めてしまうかもしれないよ」
なぜか、アラ兄とロビ兄は、揃って俊敏な動きで兄さまを見た。わたしも兄さまを見た。
「ハハ、なんか兄さまがいうとすっごく本気に聞こえるよな」
「うん、リーを躊躇いなく閉じ込めそう」
ちょっとロビ兄もアラ兄も何言ってるの?
「ああ、本気だよ」
「に、兄さま……」
「属性の歌を知ってる?」
「「「属性の歌?」」」
「火属性の人は、怒りの感情を爆発させるまでの時間が、とても短いって言われている。水の人は怒りを流すことができるけれど、いつまでも同じことを考えているのが苦手。性格っていうか、そういう気持ちだからそういう属性になるのか、その属性を持っているからそう思うようになるのかはわからないけれど、あてはまるって言われていて、そんな歌があるんだ」
『人は面白いことを考えるのだな』
「面白いでち」
兄さまはわたしを見て切なげに笑う。
「数少ない光属性の持ち主は、人の痛みに敏感で、誰かの痛みを自分のことのように感じる。それで、人が痛みを受けるより、自分が痛みを受ける方がいいって考えやすいって言われているんだ」
「へー」
双子が感心したように頷く。
「土は何?」
兄さまが双子に教えてあげた。
ドアがノックされ、護衛の人が顔を出した。
双子が父さまに呼ばれて、部屋を出て行った。
「本当は歌なの?」
尋ねると兄さまは頷いた。
「聞きたい、歌って」
「歌は苦手なんだ」
「わたし、兄さまの歌(誕生日の合唱でしか)聞いたことない!」
「ええ?」
「聞きたい!」
だって、誰かさんには歌ってあげたことあるじゃん。
兄さまは息をつく。
「わかったよ」
兄さまは静かに祈りを重ねるような、光の属性を持つ人を称える歌を歌ってくれた。誰かを救おうを一生懸命になりすぎて自らの命を減らすことも厭わない人のために、私があなたの命をつなぎ留めたいのです、という優しさの溢れる歌だった。
兄さまの歌は素敵だった。何を苦手としているのかわからない。
とても素敵だと感想を言うと、兄さまは照れた。
わたしはもうひとつお願いごとをした。この歌だけはわたし以外に歌わないことと。
兄さまは、はにかみながらも約束すると言ってくれた。