第367話 子供だけでお出かけ⑪応援部隊
ふと抱きこまれた。
ポリさんだ。
「ボス、まだ子供です。合法ならいきりたつことないじゃありませんか、許してあげてください」
そんなポリさんの顔をボスが叩いた。
!
「新人が俺に意見すんじゃねー。とりあえずポリも一緒に放り込んでおけ」
そう言い捨てて、周りのお客さんたちに謝っている。
ポリさんを見上げると大丈夫だというように微笑んだ。
手を引っ張られて連れて行かれそうになると、垂れ目のお金持ち風の人が止めた。
「この子も店に出すのか? 変わった趣向だな。私は新しいものに目がなくてねー」
とわたしに向かって手を伸ばしてきた。
払ってやろうと思ったとき、ムアッとした熱気が下の方からわきあがってきて、見えない何かに気を取られる。
手を伸ばした男がすごい勢いで飛ばされ、天井に打ちあたり、その勢いのまま地面に落ちた。兄さまが風を使ったんだ。風で吹っ飛ばした!
「な、お前、ウスロさまになんてことを!」
ボスと部下が吹っ飛んだ男に駆け寄る。白目を剥いてる。
「リディー、行くよ」
兄さまに言われて、わたしはポリさんの手を強く握る。
「私は……」
「助けてくれてありがと。一緒に行こう」
部下に道を塞がれたけれど、もふさま、兄さまの敵じゃない。けれど部屋を出たところで、集まってきた部下たちに囲まれ、わたしたちは目を見合わせ、捕まることを選んだ。元々そのつもりだったしね。
〝応援〟が踏み込んできたとき、中にわたしたちがいれば捕まえてもらえるから。
『リディア、領主やアラン、ロビンが来たようだ。レオの気配もある。用心棒もな』
グッドタイミング! お店なのに牢屋があることに驚いたけど、そこに3人で入れられすぐに〝応援〟がやってきた。
周りがうるさくなった。
でも地下だもんな。父さまたち場所がわかるかな。
地下に牢屋があるって気づかなかったらどうしよう。
少し不安に思った時、もふさまが吠えた。
なるほど! 父さまたちはすぐにわかってくれるだろう。
解決だね。
しばらくすると、部屋の前で物音がした。見張りが倒されたようだ。
入ってきたのはニアだった。
「無事か?」
「ニア!」
見張りから取ったのだろう鍵で開けてくれた。
ニアはシャツを脱いで、ポリさんにかぶせる。
武装した人たちが入ってきた。
「部屋には敵無し。制圧」
統制の取れた様子で伝達していく。
「人質、保護!」
父さま、ロビ兄、アラ兄が入ってくる。
父さまに抱きかかえられる。ロビ兄とアラ兄は兄さまと健闘を称え、グーにした手をコツンと合わせていた。
父さまは兄さまもギュッとして、ポリさんに軽く礼をした。
「リポロ氏の妹御ですか?」
ポリさんは驚いた様子ながら、頷いた。
「私はシュタイン領、領主のジュレミー・シュタインです。シュタイン領の問題に巻き込んだようで申し訳ありません。リポロ氏が心配しています。外にいます」
ロビ兄を引っ張ってレオは?と尋ねると、ポケットから顔を出した。
ほっとする。
外に出ていくときに、暴れるボスが押さえつけられているのを見た。
「俺が何したっつーんですか? ウチは合法ですよ」
「貴族のご子息とご息女を監禁した罪だ」
「貴族の子を、何を馬鹿な……」
さまよう視線と目が合う。
「ま、まさかあいつらが?」
ゴンと騎士に頭を叩かれている。
「貴族さまに向かって失礼だぞ!」
「さ、いくぞ」
父さまにうんっと頷く。
「リディーはどうぶっ潰すつもりなんだ?」
父さまに尋ねられる。
「……あの時頭に血がのぼっていて、怒りに任せて言ったの。だから方法とか考えてなかった」
父さまが歩みを止めて振り向いた。
「時間はかかるだろうが、父さまのやり方でぶっ潰す。それでいいか?」
淡々と言っているけれど、父さまが心底怒りを抱えているのがわかった。それを表に出さないようにしていることも。
だけど我慢して、父さまは手順を踏んで、法に則った罰を下す気なんだ。
「手伝う」
父さまは微かに笑って、わたしの頭を撫でる。
手伝う時に、物理的にちょっとばかし思いを込めてもいいよね?
「今からクレソン商会に乗り込むぞ」
店から出れば、リポロさんとポリさんが手を取り、無事を確かめ合う再会シーンを見ることもできた。
父さまはわたしたちを襲ったゴロツキの頭を連れてきた。両手首は縄でぐるぐる巻きにされている。
「ゴロツキ以外の証拠は出てませんよね?」
兄さまが少し不安そうに言った。
不安になるのはもっともだ。だって、ゴロツキに襲えって指示したでしょ?と言っても知らないと言われたらそれまでだもの。
「証拠はない。けど、派手にいくぞ」
父さまは知らしめるつもりなんだ。証拠がなかろうとやり返す姿勢を。
もう二度と誰かに、ウチがなめられないように。