第359話 子供だけでお出かけ③プラスの失敗
「ポポ族って言ったでちね」
「アオ、知ってるの?」
「人族に近い空の眷族に属する者でち。争いが嫌いで温厚、羽がきれいで高く売れると乱獲されたでち。300年ぐらい前にはすでに絶滅の危機って言われてたでち。空の主人さまが眷族に戻って空で暮らすかって聞いたでちけど、地上が好きだって、人族でいることを選んだでち。今も残っていてよかったでち」
「……見たまんま〝人〟だったけど?」
「ああ。羽を持ってるし、飛べるでちよ」
「羽あるの?」
「隠しているでちから、自分から種族を言ったのは覚悟がいったと思うでち」
そうなんだ。
「兄さまたちは最初からわかってたの?」
「種族は知らないよ。ただつけられているのは知ってたけど」
「宿屋で夜に奇襲をかけられるよりは、明るいうちにあちらの出方を見ようと思ってね」
わかってなかったの、わたしだけ?
「リー、わかったね? オレたち領地の外にいてもシュタイン家の者って認識されるぐらいにはなってる。商品を前売りされたし、類似商品を作ろうとか、そういう人も出てくると思う」
アラ兄が淡々と怖い話を続ける。
「ハウスさんの護りが届く家と領地、それから聖樹さまの護りが強くなった学園、そこから出る時は今まで以上に気をつけて。誰が何を考えているか、わからないから」
ゴクリと生唾を飲む。
「そろそろ出ようか。あまり遅いと宿が取れなくなるかもしれないからね」
兄さまの掛け声で、わたしたちはそれぞれ、馬と馬車に乗り込んだ。
もふさまともふもふ軍団は幌スペースでジャレアイを始めた。揺れによって倒れたり転がったりしているけど、新しい遊びぐらいに思っている。タフだ。
「兄さま」
「ん?」
「マップの探索ではリポロさんは赤い点じゃなかったの。前にもそういうことがあって。壊れちゃったのかな?」
「……それは〝定義〟の違いじゃないかな?」
「定義の違い?」
「リディーは敵は赤って設定したけど、探索の敵の定義は、リディーに悪意があり身体を傷つけることも視野に入れている者、そういう人を敵と認識していると前から思ってた。だからリディーに対して直接の悪意はなかったり、暴力を振るう気でない人は敵とみなされないんじゃないかな?」
確かにそうかも。
「そっか……」
「……私だったら、鑑定のレベルをあげて、探索マップに鑑定をつける」
「え?」
「リディーは人も名前ぐらいなら出るようになったって言ってたよね? だったら、その点に名前が出るようになるはずだ。初めて会う人で名乗った時に、その名前でなかったら、その人は嘘をついていることになる。とかね。もし融合させられるのなら、より安全になるんじゃないかな?」
兄さまは少しだけ進行方向から目を離して、わたしに微笑む。
なるほど!
よし、プラスしてみよう!
「ステータス、オープン。マップモード」
いつもの探索マップが目の前に展開される。
「マップに鑑定をプラス!」
一瞬、画面が揺れた。
あ、魔力がごそっと取られた。ヘニョっとなりそうになり、飛んできたもふさまに支えられる。慌てて兄さまが馬車を止めた。
「リディー、大丈夫?」
「あ、ごめん、平気。もふさま、ありがと。わりと魔力取られた」
馬車を止めたからだろう、アラ兄とロビ兄が馬を寄せてくる。
「どうした?」
「リディーがギフトを使って魔力を持っていかれたみたいだ」
「ごめん、もう平気。なんでもないよ」
「でも、顔色が悪い」
アラ兄が指摘すると、兄さまもロビ兄も頷いた。
なし崩し的に幌スペースに移り、横になることになる。
ステータスでは魔力が半分になったくらい。魔力量はずいぶんアップしたからこれぐらいなんでもないはずなんだけど。
あれ、え? 魔力が減り続けてる。凄い勢いで。
なんで?
『リディア、マップを閉じろ』
もふさまに言われて、慌てて閉じる。
な、なんだ、今のは?
心臓がバクバクしてる。
『リディア、鑑定にはいつもどれくらい 魔力を使うんだ?』
「えっと、物によって違う。1とか2の時もあるし、人だと30から50使うときもあるかな」
『ここが町中でなくてよかったな』
もふさまが安心したように言って、その可能性に気づいた。
な、なんて恐ろしいことをしてしまったんだ、わたし!
もし近くに50人の人がいたら、それだけで2500魔力が取られる。そして一度鑑定した物を覚えていてそのままならいいけど、もし1秒毎に更新されたら? 鑑定するのは人だけじゃない。どれだけの魔力が使用されるかわからない。
『鑑定の機能を取り外すことはできないのか?』
「それはやったことない。でも、鑑定に制限をつけてみる」
『ちょっと、待て。それは魔力が回復してからにしろ』
「あ、そうだね」
『少し休め』
危ない、危ない。焦るとろくなことはない。マップを閉じていれば魔力は食わないみたいだから、魔力が戻るまでしばらく何もしない方がいいね。
大きくなってくれたもふさまにしなだれかかって、わたしは目を閉じた。
いつの間にか眠っていたようだ。目が覚めた時にはスクワランに着いていた。馬屋に馬を返し、宿も問題なく取れたようだ。アラ兄とロビ兄が幌の中にいた。
お馬さんたちに挨拶しなかった。彼らはウチの野菜の味を覚えてしまったみたいで、最後にマルサトウをあげるとついていくと言わんばかりにヒヒーンと鳴いたそうだ。
メカクシザメの牙の粉を無事買って、宿へと赴く。みんなでひとつの部屋だ。