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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
9章 夏休みとシアター
355/1135

第355話 表舞台

「リディーはいつ表舞台に立つの?」


 兄さまに問われる。


「表舞台?」


 兄さまが頷いた。


「鞄の店も、化粧水も、〝アールの店〟はリディアの店だって、いつ世間に知らしめるつもりなの?」


 兄さまのタイミングがバッチリすぎる。

 夏休み前はまだ決めてなかった。この8日間で思いが形づいてきたことだ。


「……2年後。わたしのデビュタントに合わせて、情報を開示しようかと思ってる。まだ父さまやホリーさんには相談してないけど」


「確か、〝化粧〟の広告塔になるんだよね? その時に合わせてってこと?」


 わたしはその通りだと頷いた。

 元々そのデビューの時に広告塔になることは決めていた。でもただそれだけだった。ウチの事業商品のモデルとなろうと思っていただけだ。

 けれど、わたしも力をつけなければと思った。簡単にここから潰せると思われないように。シュタイン家のアキレス腱にならないように。


「そうか。では、私もその2年後までに終わらせる」


「え?」


「おじいさま、シヴァ兄上、父さまに何をどう相談するか考えていたんだけど。バイエルン侯爵の冤罪を晴らすのが一番いいと思うんだ」


 心臓をギュッと掴まれたような気がする。もふさまがわたしを見た。一呼吸する。


「……晴らして、バイエルン家に戻るってこと?」


 兄さまは首を横に振った。


「いや、それはない。私はフランツ・シュタイン・ランディラカだ。怪しまれてもそう通す。そこで問題になってくるのはバイエルン侯爵子息が生きているなら罰を逃れていることになる点だ。だからその罪自体をなくせばいいと思う」


 兄さまは吹っ切れたように笑った。


「私は死亡届も出しているし、関わらなければ、もう侯爵家との関係は終わっていると思っていたんだけれど、こんなふうに降りかかってくることもあるんだね。父上の無念を晴らすとか、復讐のためでなく、きちんと終わらせるために、正しくあるべき事実を証明しようと思う」


「危険だったりするんじゃないの? それに……冤罪を晴らそうとするってことはってやっぱり兄さまが子息だったとバレちゃうんじゃない?」


「危険というなら、今までのリディーの方がよっぽど危険な目に遭ってるよ。もちろんフランツとしては表に出ないよ。しっかり策を立てて2年の間に決着をつける。リディーのデビュタントの時に、憂いごとなく隣に並んで堂々とエスコートしたいから。その前までにきっちり終わらせる」


 兄さまの目は決意に満ちていた。


 静かだなと思ったら、ワラとアリとクイはおネムモードになっていて、寄り添ってむにゃむにゃしてる。ベアも大きなあくびをして、レオとアオは寝そべったもふさまを背中にして何かふたりで話している。もふさまは目を閉じていた。耳が立っているから、こちらの会話は聞いていると思う。


「でね、リディー。もっと先の話までしていい?」


「もっと先の話?」


「うん。私は侯爵家に戻る気はない。あくまでフランツ・シュタイン・ランディラカだ。未来はどうなるか〝絶対〟ということはないけれど、私は辺境伯の道は進まない。リディーは辺境伯の奥さんがいい?」


 え、えっ? 奥さん? 

 あ、いや、婚約しているんだから、いずれはそうなんだけど。

 兄さまが返事を待っている。


「か、考えたことなかった」


 兄さまは苦笑いしている。


「ま、そうだよね。前の休みに辺境に行った時、すごく感じたんだ。シヴァ兄上が頂点の辺境伯の体制になっているって。ま、当たり前なんだけど」


 兄さまは続けた。


「次代の辺境伯を決めるのはおじいさまやシヴァ兄上だ。けれど、兄上が結婚に踏み切れないのは、そのことが絡んでいると思う。リディーが辺境伯夫人を望んでいるなら考えるけど、その方向性がないなら、その気はないって伝えたほうがいいと思うんだ」


「シヴァ、結婚するの!?」


 驚いた声をあげると、おネムモードの子たちも起こしてしまった。

 兄さまは目をパチクリとしてから、わたしにちろんと目を向ける。


「リディーはシヴァ兄上を、本当に好きだよね?」


「え、あ、うん。もちろん大好きだよ。……フランとはまた違う意味合いでだけど」


 後半を言うと、兄さまの表情が普通に戻った。


「兄上は辺境伯だ。結婚したら、お相手は自分たちの子供が辺境伯になるって考えると思うんだ」


 あー、確かに。ずっと砦にいた人なら、元々は兄さまに引き継ぐまでという話があったことを知っているけれど、シヴァの体制になってからやってきた人たちは知らないだろうし、今の辺境の長はシヴァなんだから、後継者はシヴァの子供と考えてもおかしくない。


「兄上は父さまより1つ下で母さまと同い年。今までのらりくらりとはぐらかしていたのは、そこがはっきりしないからじゃないかと思えてさ。私は特に辺境伯になりたいという意志があるわけでもないし、もしリディーに思い入れがないのなら、その旨をおじいさまたちに言ってみようと思うんだ。……どう思う?」


「兄さまが先のことまで考えていて驚いたっていうのが正直なところ。わたしはまだ自分がデビュタントの時までに力をつけたいって思い始めたところだったし。でも、そうだね。シヴァは複雑な立ち位置だったんだね。シヴァにも幸せでいて欲しいから、わたしは賛成。おじいさまがどうしてもわたしたちに辺境を任せたいとか、何か考えがあるなら別だけど……」


「そうだね、それを踏まえて近いうちに伝えよう」


 うん、とわたしは頷いた。


「……リディーは結婚したらどこに住みたいとか、何をしたいとか、考えていることはある?」


「えっ?」


「まだ早いけど、いずれ私たちは大人になる。……シュタイン領はエリンかノエルが継ぐことになるだろう」


 え?


 驚いたわたしに、兄さまはニコッと笑った。


「リディーという手もあるけど」


「え、アラ兄かロビ兄が継ぐでしょ? あ、兄さまは今まで辺境を継ぐから領地の後継者と考えてなかったけど」


「いや、ノエルが継ぐのが一番いいと思う」


 え。


「アランとロビンも多分そう思ってる。話したことはないけどね。この頃ふたりで深刻に話していることがあるから、今後のことを考えているんじゃないかな?」


「そ、それは……兄さまやアラ兄、ロビ兄が、父さまと母さまの本当の子ではないから?」


「リディー、ごめん。そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ」


 兄さまに引き寄せられる。


「誤解しないで。本当の子ではないけれど、私たちは家族だ。アランとロビンも同じ気持ちだと断言できる。そして末っ子たちのことが大好きだ。だから、末の子に大切な領地を託したいんだ」

 

 衝撃的すぎて、言葉が繋げない。

 だって領地を継ぐのでないなら……領地で暮らさないということもあるわけで……。

 もふさまが立ち上がって、わたしの足元に来た。

 もふもふ軍団がわたしと兄さまの間に入ってくる。

 ワラもわたしの膝の上にジャンプしてきた。


「ごめん、リディー。まだ早かったね。……そうなると決まったわけじゃない。ただの私の考えだ」


 兄さまはそう言ってギュッとしてくれたけれど。なぜだかわからないけれど、胸の中に不安が巻き起こる。急にみんながどこかに行ってしまうような気がして……。

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