第354話 自信を持つ方法
サブハウスの居間にてお茶を飲む。散歩をしようと言ったのだけど、強い日差しがわたしによくないと、家に入った。
アリに氷を出してもらって、みんなでアイスティーを飲んだ。ワラはちゃっかり兄さまの隣でくつろいでいる。
「リディーはこの8日間、何をしていたの?」
わたしはこの8日間、領地の子たちと存分に遊んだ。エリンとノエルも一緒に。領地でも楽しんでいる。
砂漠フェアも始めた。ホリーさんから聞いたけど、王都でも砂漠フェアで少しは人を呼べたみたいだ。
生産ラインがまだ安定していないのに、フライング気味に売り出した麦わら帽子は大いに売れている。生産が追いつかないほどに。キャップの良さはまだ知られていない。兄さまたちに広告塔になってもらおうと密かに企んでいる。
砂漠フェアと帽子で、風評被害の損害を巻き返すんだから!
化粧水は来週から売り出すんだ。
子供支援団体は、支援団体出身の子たちで成り立っている。顧問のような立ち位置でキートン夫人が見てくださっていて、それらの収支の報告を受け、運営のアドバイスをし、領主である父さまに報告をあげているのが現在はエリンとノエルだ。帳簿を見せてもらったけれど、ふたりともそつなくやっていて安心した。
みんなとダンジョンに行きたい。できたらエリンやノエルとも。でもエリンやノエルと行く場合はちゃんとした手順で、知られているダンジョンに行かなくちゃいけないので行くまでが大変なのよね。でもそろそろもふもふ軍団がダンジョンダンジョンってうるさくなっている。わたしの部屋でぬいぐるみになるか、メインルームで過ごしてもらっているからね。
そこまで思いが脱線して、兄さまに尋ねられてたんだと思い出す。
わたしはアイスティーを置いて答える。
「ミニーとカトレアに報告に行ったり、町の子と遊んだり。砂漠フェアを始めたり。来週から化粧水を売るからその準備もしてた。エリンとノエルと遊んで、父さまと母さまに甘えて……そんな感じ。兄さまたちは?」
「とにかく馬で走ってた。今回は8日かかったけど、季節のいい時ならもっと短縮できるだろう。昼間は暑すぎて馬が可哀想だから、その時間昼寝をしたんだ。その代わり、朝と夕方は時間を伸ばしたけどね」
「わたしには無理そう」
「はは、リディーには馬車で移動してもらうよ。私のお姫さまには安全に移動してもらわないとね」
「でも馬車だと2週間かかっちゃうよ」
「仕方ないさ。リディーはまた、お遣いさまに乗って帰るつもりなの?」
『我は構わんぞ』
「もふさま、ありがと。でも、さすがにお遣いさまを私用で乗りまくるのは良くなさそう」
「帰りのことは心配しなくていいと思うよ」
「どうして?」
「クジャク公爵夫人が、皆さまで遊びに来ると言ってたらしいから」
「そうなの?」
あの身分の高い方々は、なんかものすごく意気投合しちゃったんだよね。母さまとアマンダおばさまとキートン夫人を加えて。
元々お知り合いだったキートン夫人と、たまたまシュタイン領に働きに来ているフォンタナ家の人たちに、ハッパをかけにきたアマンダおばさま。みんな手芸好きだったらしく、キートン夫人のお屋敷で手芸会が開かれた。手作業をしながらキートン夫人の詐欺にあった話になり、みんな言葉をなくした中、アマンダおばさまだけが〝そんなのはけちょんけちょんにやっつけるべきだ〟と心強い助言をし、皆さまアマンダおばさまを崇拝しているらしい。
アマンダおばさまのきっぷの良さというか、はっきりキッパリしていて物怖じしないところをとても気に入ったみたい。今皆さま帽子作りにハマっているらしく、母さまが先生となり指導したって話は聞いていた。
「ちょうどいい! その時に皆さまには化粧水と美白化粧水も渡そうかな」
美白化粧水は売り出し前のものとなるけれど、使い心地と効果のほどのデータは是非欲しい。身分が高い方々だから、変なのに盗まれたりということもないだろう。登録が先かなぁ? ホリーさんに相談しておこう。
「砂漠フェアは始めたんだよね? お菓子は再開しないの?」
「何人かからお菓子は販売しないのかって聞かれたらしくて、来週から作り出して半ば頃から売り出すかもってホリーさんが言ってた」
「そうか。お菓子の販売はしていないのに、帽子の売り上げで賄えそうって聞いたけど、そうなの?」
兄さま、さっきついたばかりなのに……伝達魔法で聞いたのかな? 早耳!
「きちんと計算してないけど、なんとかいけそう。あ、子供自立支援の帳簿見たんだけど、エリンとノエルでちゃんとできてたよ。もう時折チェックせずに任せて大丈夫そうだし、他のことも任せていいかもしれない」
「エリンとノエルは、本当になんでもそつなくこなすな」
感心したように兄さまが言う。顎を触る仕草も似ているから思わず言ってしまう。
「兄さま、父さまみたい」
「そりゃふたりとは歳が離れているからね。本当に父さまみたいだった?」
「うん、仕草がそっくり。言い方もだけど」
『そっくり』
『そっくり』
アリとクイが嬉しそうに言った。
わたしが笑うと兄さまはとろけるような笑顔になる。
「それなら、嬉しいな」
「嬉しいの?」
予想外だったので、わたしはケタケタ笑った。レオとアオと一緒に笑う。
「うん。だって、父さまはリディーの理想だから」
レオとアオが揃ってわたしを見る。
えーーーーーーーーー。
なんかわからないけど、すっごく恥ずかしくなる。
『リーの理想は父さまなの?』
『リーは父さまになりたいの?』
「いや、父さまになりたいわけじゃないから」
クイに突っ込んでおく。
目をパチクリさせた兄さまに経緯を伝える。兄さまは含み笑い。
「ふたりのことは父さまに相談しよう。父さまに何か考えがあるかもしれないし」
「そうだね。ふたりとも凄いな」
「凄い?」
「あの年でなんでもできちゃう。まぁ、わたし以外はみんなそうだけどさ」
「何言って……」
「ロビ兄は土魔法を使った建築系の事業で成功しているし、アラ兄も水路の事業が大成功、最年少で国からスカウトが来るぐらいだし。兄さまもあのシステム系統作りで引っ張りだこじゃん」
「……システムだって、元はリディーが言ってくれたんだよ、その考えが売れるって。それに私たちの中で一番の稼ぎ頭はリディーが展開しているお菓子と鞄。ライズは利益は出ていないけど、カフェはもう巻き返しているじゃないか。ほとんどのことがリディーのアイデアを元にしているのに」
兄さまが納得いっていない表情で言う。
「リディーはもっと自信を持つべきだ」
少し前にも、誰かにそう言われたことを思い出す。
「……もしね、今度化粧水が売れたら、今度こそわたし、もう少し自信を持てる気がしてるんだ」
確かにアイデアを出したりはしているけれど、足を引っ張ることも多い。
兄さまの言うとおり、わたしは自信がない。
けどね、学園に行って。友達ができて、委員をやったり、音楽隊をやったり。寮長になったり。初の試験で結果を出せたり。……それからケイズさまに好きって言ってもらえたり、アダムに素敵な子って言ってもらったり。そして兄さまに恋してるって言ってもらって、わたしの中に灯った何かがある。
学園に入って、1年の3分の1が過ぎた。驚くほど詰め込みまくりの日々で、怖い思いもしたし、嫌なことも泣いたこともいっぱいあったけど、こうして振り返れば何かを乗り越える礎になっているようだ。
砂漠フェアも帽子もいい線いってると思う。そして絶対うまくいくと思っている化粧水が思い通りに本当にうまくいったら、わたしはきっと自信が持てると思うのだ。