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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
8章 そうしてわたしは恋を知る

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第320話 風評

 魔法戦も実技テストが授業中にあった。といってもまだ個人プレーの段階で、魔力がどれだけ出せるかという試験だったので、楽勝だ。ダンジョンで鍛えているからね。今後はチームプレーを重視していくと話があった。少しずつ、みんなとチーム戦の練習をしていくことにしよう。


 薬草学の実習テストも、ことなきを得た。

 ひとところに薬草が山盛りになっていて、それぞれが割振られた薬を作るというものだった。材料選びから薬を作れるかまでを見るテストだった。

 わたしは火傷の薬30グラムだった。その量に対するパーセンテージを計算して薬草をとりにいくとメーゼが足りなかった。誰かが計算を間違えて多く持っていったみたいだ。けれどカタリをみつけたのでそれを代用することにした。

 慎重にそれぞれを計り、熱するものは熱し、合わせて擦っていった。

 出来上がった薬を持っていくと、おばあちゃん先生って鑑定を持っているのかな、見るだけで点数がついていく。わたしは100点満点中の97点だった、えへん!


 教室への帰り道で、音楽隊の先輩たちと会った。「元気そうだね」「初テスト頑張って」とエールをもらう。何かをすると、そりゃ仲良くなれない場合もあるけど、こうやって仲良くなれる人もいるんだから、参加するってのはいいことだよなと嬉しく思う。なんて嬉しさを噛みしめていると、噂話が聞こえてくる。


 教会を半壊させただけなのに、いつの間にか街を半壊させたことになっている。伝言ゲームですか? 話大きくなってますよ。


 この時代じゃ、こんな噂が広まったら、〝嫁ぎ先がない〟案件に発展するんじゃ。

 ふたりは聖女候補だから、なんとでもなるだろうけど、わたしはアウトだったね。婚約済みだから関係ないけどさ。


 西の屋台食堂で昼ごはんにしようとみんなで話す。もふさまが舌舐めずりをした。あそこの味付け濃いし、もふさまの好きな味つけなんだよね、ふふ。


 前からくる男の子たちの集団を見て、みんなが緊張したような気がした。

 なんだ?

 バッジの色で1年生とわかる。中途半端に身分がある感じ。


「私お手洗いに行きたい、付き合って」


 キャシーにグイッと引っ張られる。

 みんなも団子状になってついてくる。急ぎ足。そんな切羽詰まってたの?


「シュタイン嬢ではありませんか」


 声をかけられて立ち止まる。

 振り返ると、中央にいる、わたしと同じぐらいの背の高さの団子鼻の男の子が話しかけてきたっぽい。

 誰?


「お会いしたことがありまして?」


 音楽隊にもいなかったし、見たことないんだけど。


「ケイズ伯爵ご子息さまだ!」


 と団子鼻の隣の子が声を荒げて教えてくれた。が、知らん。


「ご機嫌よう」


 知らんからいいよねと挨拶だけして、キャシーを促す。


「ま、待て。声をかけてやったのに、その態度はなんだ」


 不思議なんだけど、定期的に変な人って現れるよね。声をかけてくれって誰が頼んだのだろう?


「急いでおりますので、失礼します」


 なんたって切羽詰まっているキャシーを優先だ。


「いいのか、俺にそんな態度を取って」


「自ら名乗りもされない方に挨拶をし、急いでいると理由も告げましたのに、ご不満のようですね?」


 ジロリと睨めば、ビクッとしている。


「俺はただ、お前んちの売れ残りの商品買ってやってもいいと思って、声かけてやったのに」


 うちの売れ残りの商品? 何言ってんだろう?


「今、急いでますの。お話しなら、後からお伺いしますわ」


 わたしはキャシーの腕を掴んで、トイレへと急いだ。


「リディア、いいの? 大丈夫なの?」


「うん、知らない人だし」


 キャシーもみんなも決まりの悪い顔をしている。尋ねると、トイレに特に行きたかったわけではないらしい。さっきの団体は1年B組で、前からわたしに思うことがあるようで、意地悪なことを言っていたんだって。わたしに「気づいてなかったの?」と聞いてくる。うん、知らなかった。

 このところ再ヒートアップしているようで、声高になんか言ってたらしい。みんなわたしが徹底的に無視していると思い、気づいたら道を変えたりなどして鉢合わせしないように気をつけてくれていたそうだ。

 んー、でも探索の点は抑えた赤でもないし。まさか、探索が壊れたりしてるのかな?

 それを調べるためにも話を一度聞いてみるかとさっきの廊下に戻ることにした。


 ちびっこい団体がいたので、後ろ姿だけどあたりをつけた。声をかけようとしたが、彼らはわたしの態度について文句を言うのに大忙しだ。後ろにいるのに気づいてないみたい。


 うーん、やっぱり点は赤くないぞ。もふさまに視線で聞いてみるが、もふさまはわたしを見上げただけだ。テレパシーはやっぱり無理か。


「あんな生意気な者に、ケイズさまが目をかけてやる必要はありませんよ」


「そうですよ。シュタイン家はこれから落ちぶれることでしょう。気にすることなんかありません」


 失礼ね!


「馬鹿な女だ。せっかく商団に口を利いてやろうと思ったのに」


「優しすぎますよ、ケイズさま。砂漠の民に連れ去られ、街を破壊して報復する、そんなのが作った菓子なんかもう誰も食べたがりませんよ」


「どういう意味?」


 尋ねると団体が一斉に振り返った。


「シュタイン嬢……」


「どうって、そのままだ。砂漠の民は気性が荒い毒使いだ。そんなところから生きて帰ってきた、お前がまともであるはずない。そんなのが考えた菓子を口にするのはおぞましい。あんないつも行列ができてた店が潰れそうだって噂だ」


「だから、その菓子を買ってやろうかと思って声をかけたのに」


 父さま、そんなこと言ってなかったけど。言えなかったのかな?

 それにしても雑だな。砂漠から帰ってくるとまともじゃないんかい?

 わたしはユオブリアに広がる〝砂漠〟に対する一般認識を知らなかったので、全く意味がわからなかった。

 ……なるほど風評被害ですか。食べ物だけかしら? バッグとかもうちのとバレたのかな?


「別に、今からでも、頼むんだったら、聞いてやってもいいぞ」


 顔をあげると団子鼻が顔を赤くしていた。


「ケイズさま、何言ってるんです?」


 取り巻きが引き留めている。


「ケイズさま、ご親切にありがとうございます。ですが、ご提案は遠慮させていただきます。ケイズ伯爵さまの評判まで落としかねませんもの。教えてくださってありがとうございました。わたし、そんな噂になっていたなんて、全く知りませんでしたの。それでは失礼しますわ」


 兄さまにお願いして伝達魔法を使ってもらって、父さまから事情を聞かなくちゃ。まずは状況を把握しないと。

 わたしは兄さまの教室に行くからと、先に教室に帰っていてと言ってみたが、みんな不安そうにしてついてくるという。わたしを一人にしないようにしてくれてるみたいだ。

 決心が固そうなので、みんなについてきてもらった。


 角を曲がれば上級生の教室に続く廊下だ。差し掛かった時に会話が聞こえてくる。


「だからさ、制服に高値がつくってことだろ?」


「着たものを欲しがる奴がいるのが、わからねーよな」


「聖女候補のだから買うヤツがいるんだろ、お前のなんか売れないって」


「聖女候補の制服、どんだけ高値になるんだろうな?」


「でも、1年生の聖女候補じゃないのも売られたんだろ? オークションにのるところだったらしいぜ、身につけてたもの丸ごと!」


 ヒューっと口笛が鳴った。足が止まる。


「一緒に拐われてんだから、聖女候補のものだと思ったんだろ」


 愕然とする。

 なにそれ。気持ちわるっ。

 普通に考えて、それわたしの話だよね?

 あーーー、父さまたちがあの制服を捨てると言っていた理由がわかった。

 制服は生地がいいから、安く売っていたら違う服へとリメイクするために買う人がいるかもしれないと思うけど、オークションってことは……うん、理由を考えるのはやめよう。どうせ正解はわからないんだし、どう転んでも不愉快な気がする。


 レオに魔力を繋いでもらった追跡の魔具の話は聞いたんだ。街の露店で1食分ぐらいの値で売られていたそうだ。港町で捨てられていたのを、きれいな石がついているアクセサリーに見えたから拾ってきて売っていたらしい。魔具ってこともわかってなかった。それを鑑定で調べてもらったところ、その魔具は〝ダウン〟していたそうだ。わたしの手から離れた時点で、ぷつりと魔力が途絶えた状態だったみたい。これは魔力の高いレオが魔を入れてくれたものだから高性能のはずだった。けど辿れなくなったということは、犯人の魔力が馬鹿高いか、辿れなくするようなスキルなどを持っていたかと思っていたらしい。


 身につけていたもの全てを売ったと言っていたけど、実際は足がつかないように捨てたんだね、きっと。でもそれを拾って売った人たちがいた。まあそれでエレイブ大陸の南に連れ去られたのではという推測がされていたみたいだけどね。


「あなたたち、頭が悪いんですのね」


 見えなくてもきれいな知った声でわかった。

 ヤーガン嬢の声が冷たく響いた。


「なっ、公爵令嬢とはいえ、言葉が過ぎます」


「言葉が過ぎるですって? 学習しないものを、頭が悪いと言ってどこが〝過ぎる〟のかしら?」


「が、学習しない?」


「聖女候補はともかく、シュタイン令嬢は明らかに間違われたのでしょう。〝聖女ちゃん〟なんて呼ばれていたから」


 どこからか息を呑む音が聞こえた。


「どんな考えでそう呼んでいたのかは知りませんけれど、それがシュタイン令嬢誘拐に繋がったのよ? 誘拐の片棒を担いだのと同じですわ。そんなつもりはなくてもちょっとしたことが人を傷つけることがありますの。あなたたちの今話していたことも、誰がどこで聞いていて曲解されてどう受け取られるかわかりませんのよ? それによって令嬢たちの運命が変わるかもしれませんのに。そんなことも想像できませんの? 学習できないものを頭が悪いと言って何が悪いのかしら?」


 曲がり角の向こうの喧騒がシーンとなった。


「不愉快だわ」


「マリーさま」


 ヤーガン嬢を呼び、追いかけていく足音がする。


「公爵家に目つけられたんじゃないか?」


「ったく、ついてねー」


「ほら、いくぞ」


「どうすんだよ」


「浅はかでしたっつって、反省してるのを見せるんだよ。ヤーガン家に睨まれたらどうなるかわかってんだろ?」


 バタバタと足音が聞こえる。


「……リディア、大丈夫?」


「……うん」


「ヤーガンさまって、厳しくもあるけど、かっこいい方なんだね」


 わたしたちは頷きあった。


 それにしても、嫌な思いをするってこういうことを案じられてたわけか。そりゃ好き勝手いうよね、自分に関係なければ。こんな噂ぐらいならへっちゃらだわ、わたし。〝味方〟してくれる人がいるからかもしれないけどさ。

 結局、傷つけられるのも人の態度や言葉だったりするけど、救われるのも人がすることだったりするんだよね。

 わたしのことが好きではないだろうに、今も公正な目で軽口を叩く人たちを諫めてくれた。平民は学園にいるべきでないと言って、そうなるよう実行しちゃう人でもあるけれど。


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