第32話 プラス
本日投稿する2/3話目です。
朝っぱらから、カシャン、カシャンと何かがぶつかるような音がする。この音で目が覚めたみたいだ。
寝ぼけ眼で音のする方、庭に出てみると、兄さまたちが短刀を模した木で打ち合いをしていた。父さまが指導している。そういえば、おじいさまは辺境伯で、辺境で国を守っている方だっけ。武力の一族でもあったね、そういえば。おじいさまと呼んでいるが、考えるとわたしには曽おじいさまだ。父さまもそこで孫と言うことに甘んじることなく、実力でリーダー的存在だった気がする。
兄さまたちも剣を持つのは初めてではないようだ。ちっこくても体幹がぶれていないこともあって、ヒジョーにかっこいい。
「リディー、夜着で外に出てはだめよ」
母さまにみつかって、家の中に戻される。
「兄さまたち、修行?」
母さまがコロコロ笑い出す。
「修行なんて、面白いことをいうわね。ロビンが冒険者に興味を持ったみたいよ。それで父さまに剣の稽古をつけてくれって。おじいさまのところでは、あんなに嫌がっていたのに」
母さまは成長を喜ぶ母の顔で、嬉しそうに窓から兄さまたちを見遣る。ロビ兄が言い出して、みんな便乗したんだろう。
今日は父さまは仕事をしに町に行く。町長さんと連れ立って話し合いがあるんだって。
わたしも買い物をしに町に行きたかったが、今日はだめだそうだ。
それなので、ギフトを磨くことにする。
アラ兄がこぼしていたのだが、水魔法を使ったとき、わたしより少ない水を出すのでもアラ兄はわたしより多くの魔力を使うらしい。例えばコップ一杯の水を出すのに魔力は一律だと思っていたので、ありがたい発見だ。ということは、人により使う魔力量は違うってことだ。さらにいえば、魔力の使い方を模索していけば、魔力の省エネもできるということだと思うんだよね。
ギフトにもきっと同じことがいえる。昨日はとにかく何ができることなのか試したくて、ただお湯を足すとふんわり設定にしてしまい、ある程度の量が足され魔力を持っていかれたが、試すだけならほんのちょっぴりでいい。使用魔力が抑えられればいくつも検証ができる。
礼儀作法のルーティーンまで終えてから、わたしは庭の木陰に座り込む。お鍋やバッグを持参している。もふさまも何が始まるのかと隣で楽しみにしている。
お鍋に水魔法でお水を入れる。少しだけ。魔力マイナス1。
そこにお水をギフト+でほんのちょっぴり足す。マイナス2。
ギフトも容量などやはり関係している。同じ水なのにギフトのほうが魔力がいる。
お湯を足してみる。マイナス7。
そっか、お湯は水より倍以上に魔力食う複雑な付け足しなんだ。
あ、お風呂のお湯は水魔法と火魔法でやる方が魔力食わないかも。後でやってみよう。今はギフトだ。
次に砂糖を足す。ちっ。何も変わらない。残念。
では、甘い水を足してみる。水量が増えた。ちびっと。マイナス10。
指で掬って舐めてみる。微かな甘み。こちらのあまり甘くないざらっとしたあの砂糖を溶かした水な感じ。でも、これは凄いことだ。
それではと思って、酸っぱい水を足すと念じてみたが、変化なし。
しょっぱい水と思えば、マイナス10でしょっぱくなった。
『何をやっているんだ?』
「ギフト、検証」
『検証して何かわかったのか?』
「量で魔力減り違う。同じカテゴリで足せる。わたしが見知っていることで足せる」
醤油を足す! だめか。残念。記憶ではなくリディアが知っていないとダメなんだ。
そのカテゴリは誰が決めるかって話だが、恐らくわたしの潜在意識なのだと思う。
リディアの知っていることで、足せる……。
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思いついて高まるドキドキを収めようとする。
「もふさま、いっぱい魔物持ってきた。体にポケットある?」
『ぽけっと?』
「体に鞄? 違う空間、荷を置ける?」
もふさまは目をぱちくりさせた。
『……その通りだ。よくそんなことを知っているな。ああ、そういえば人にも収納箱を持つ者がいると聞いたことがあったな』
収納箱、別空間に物を置ける、そういうのだね。
「ふふ、もふさま、ありがと」
『? なんだ?』
「これで、収納箱、わたし、知識、なった」
収納されたものを出すところも、しまうところも〝見た〟しね。
きっと魔力をいっぱい使うから、今日はこれで打ち止めになるだろう。それでもいい。買い物にいく前にこれができれば。ふふ。
さて、よく練り上げなければ。
わたしのバッグに、名付けて〝収納ポケット〟をプラス。
容量は……もふさまが魔物を積み上げていったあれを思い浮かべる。大きければ大きいほど良し! まだ生温かさが残っていて、時間停止なんだなーと思った。それもつけよう。違う空間に繋がる収納ポケット。
読んだ小説を思い出そうとする。マジックバッグ的なものが出てくると胸が躍った。その中で欲しいと思った機能は……。
入っているものがわかるリストアップ機能。それから、所有権があって、それはもちろんわたし。わたしとわたしが許した人しか使えない。許可した以外の人にはただのバッグでしかない。そして盗まれたりなんだりしても、わたしが願えばわたしの手元に戻ってくる。
バッグの上に両手を置いて願う。
「ギフト、プラス! 収納ポケット」
掌から何かが出ていった気がする。
あれ? 魔力持っていかれたりなんだりするかと思ったけど、そうでもなかったぞ。失敗?
魔力マイナス1000。え? そんなもん?
バッグに鍋を入れようとする。
『リディア、それは入らないだろう』
うん、バッグよりお鍋の方が大きいからね。
近づけて入れと思えば、お鍋が消えた。
『! まさか、その鞄を収納箱にしたのか?』
「多分」
わたしはお鍋よ出てこいと願う。
中に水が入ったままのお鍋が出てきた。
「やったー!」
『収納箱になったのか?』
「うん。これで、買い物しほうだい!」
ヒャッホー!
父さまは暗くなってから帰ってきた。話し合いは難航しているみたい。表情が暗い。でも明日はまた町に行くし、連れていってくれるという。
夕ご飯の後でわたしは収納ポケットつきのバッグをお披露目した。
テーブルの上にあるものや、お茶の入ったコップごと入れたり、大きな家具も入れて見せた。持ち上げなくても入れと思えば入っていくから楽チンだ。
みんな放心状態だ。最初に我に返ったのがロビ兄だ。
「いいなー、おれも欲しい!」
「オレも!」
「もちろん、作るよ」
双子に答える。最初からそのつもりだった。
あれ、すごいって言ってくれると思ったのに。
はしゃぐ双子と対照的に、反応のない父さまを不安になって見上げると、頭を撫でられた。
「収納箱を作ったんだな。リディアは空間に関するギフトを授かったのか……」
声が低い。どこか悲しみを帯びているような。
「ギフト、空間、違う。なんで悲しそう?」
「ああ、ごめんよ。悲しいのではなく、心配なんだ。空間ではないとしても、収納箱が新たに作れるとなったら、それはもう……利用されてしまう。軍事方面では喉から手が出るほど欲しいもので、その能力者を手に入れようとし、手に入れられなかったものは脅威になるなら能力者を亡き者にしようとするだろう」
兄さまたちがばっと父さまを見上げる。
軍事、そっか侵略だの戦いなどに利用できそうだね、確かに。そんなのに目をつけられるのも嫌だ。
「父さま、この世界、ダンジョンある?」
「ダンジョン? ああ、あるが」
「冒険者、レベル上げ、ダンジョン入る?」
「ああ、そういう話も聞くな」
「父さま、入ったことない?」
「何回かしかない」
「魔物、ドロップする?」
「どろっぷ?? 魔物はウヨウヨいるぞ、それがダンジョンだ。魔物を倒して魔石を手に入れるためだ」
みんな全ての属性があるわけでもないし、魔力が無限にあるわけでもないから、いろいろな道具が作られている。ウチにはないが、火をつける魔道具とか、水が湧き出すコップみたいなものがあるらしい。それを魔道具、略して魔具と呼んでいて、生活には必需品だ。魔具の源は魔石だ。その魔石は魔物の核で、魔物を倒す冒険者が手に入れてきて売るんだろう。
「ボス部屋ある?」
「ぼす部屋? ああ、そのエリアにひとつずつ存在する試練のことか?」
「その試練突破する、お宝、現れる?」
父さまはそれが聞きたかったのかと苦笑した。
「そうだな、そのエリア内の最強の魔物を倒すと宝箱が現れることもある」
「宝?」
双子が目を輝かせる。
「宝石や金貨が出てくることもあるし、稀に……」
父さまがわたしを見る。
「ダンジョンの宝で出たことにするのか?」
わたしは頷いた。
「黒い布で袋作る。それに回数制限ある収納箱にする。ダンジョンででた言って売る。市場に出回れば希少性薄れる。ギフト、秘密する。目立たないよう使う。だいじょぶ」
「なんていうか、考えているのか、呑気なのか」
父さまが困ったように微笑う。
「楽しいこと、したいことする。ここで」
我慢はしないよ。我慢するより、周りの状況を変えていけばいい。
だって、せっかく神様が授けてくださった贈り物だ。めいいっぱい使いたい。
わたしのギフトは〝+〟だ。みんながちょっと笑顔になるように付け加えることができる素敵な力だ。
わたしは、わたしにも、みんなにも〝ちょっといいこと〟をプラスする!
わたしが生きていく、この世界で!
<1章 ここがわたしの生きる場所・完>