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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
7章 闘います、勝ち取るまでは
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第298話 視察①本番

 今日は頑張ってとみんなに肩を叩かれ、レノアは奮発して果物をつけてくれた。豪華な朝ごはんでやる気もチャージできた。音楽隊に参加するわたしを含めて5人は、少しモジモジしながら激励を受け取った。今日から世界子供教育支援団体の視察が始まる。音楽で歓待する本番だ。音楽隊と騎乗クラブと独唱者と伴奏者、そして音楽クラブの生徒は授業を受けないけれども出席扱いになる。


 兄さまたちが寮まで迎えに来てくれた。ロビ兄も当事者なのに励ましに来てくれたのだ。わたしもエールをおくる。

 兄さまは演奏中わたしともふさまが離れているのを良くないって思っているんだよね。でもさすがに演奏中は……剣舞のバックミュージックをやっている時は特に動いてるしね。もふさまも〝それくらいの距離なら何かあろうはずがない、フランツは何の心配をしているんだ〟と鼻息を荒くしている。


 生徒会には通達があったそうなのだが、視察団体が来ている間は聖樹さまの護りが緩まるそうだ。外から人が入ってくる時は反対に警戒を強めるものじゃないかって思うんだけど、〝異物〟がテリトリーに入ってくると非常ベルが鳴り響くようなものらしく、大勢のお客さんが入ってくるとずっとベルが鳴り続ける状態になるそうで、あらかじめ外部の人がいっぱいくる時は緩めちゃうんだって。学園祭や参観日や入園式、卒園式みたいな時はね。だから兄さまはちょっと敏感になっている。追跡魔具だって2個も身につけているし、録音式のネックレスもしている。聖樹さまの魔法のバリアがゆるまっているなら、逆に魔法を使ってもわからないだろうから、いざとなったら魔法を使っちゃえばいい気もする。

 でもわたしが気楽に構えるほど、兄さまの心配は重くなっていくみたいだ。そりゃそうか。


 アラ兄も兄さまも昨日のリハーサルを見てくれたそうだ。とても上手にできていたと言ってくれた! もちろんわたしが小石を眺めていても褒めてくれる兄さまたちだから、真に受けて喜んでいるわけではないが……いや、褒められると純粋に嬉しい。先生にもカスタは褒められたことないけど、スズは上手って言ってもらったもん。兄さまは生徒会の仕事で今日の演奏も見てくれるそうだ。もちろんわたしだけじゃなくて、ロビ兄のことも褒めまくりだ。


 朝のホームルームが終わると、またまたみんなにエールをもらい、オスカーと一緒に音楽室に行った。先にいた人たちはレモンイエローのスカーフを首に巻いている。わたしたちも受け取って、スカーフを首に巻く。


「ちょっと、あなた、直すわよ」


 前にいた先輩がわたしに断りを入れてからスカーフの結び目を直してくれる。


「はい、いいわよ」


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


 ひと月近く同じ目的を持ち突き進んできた仲間だ。少しだけ、少しだけだけど歩み寄れた気がする。

 先生たちが音楽室に入ってきた。


「緊張してるかー?」


「してまーす」とお調子者の先輩が答える。


「昨日の演奏はとてもよかった。今日はもう楽しめ。訪れた人たちに〝この国で楽しく過ごしてください、私たちはあなたたちを歓迎します〟という思いを込めて演奏できればそれで上出来だ」


 そっか、そうだね。歓待の演奏なんだもんね。いくぶん気持ちが解れると、案内係がそろそろスタンバるよう伝えにきた。

 各々、楽器を手にして講堂の前でスタンばる。後ろにはロビ兄がいた。目があって頷き合う。

 お客さまが席についたようだ。先生が手をあげてみんなに問題がないかを見渡して表情で聞いている。目が合い問題がないと頷いていけば、最後に先生は力強く頷いた。そしてシンバルのオスカーに合図を送る。

 オスカーは一拍おいてから、始まりの合図、シンバルを鳴らした。お腹に響く音の余韻が残っているうちに、高い音を出す管楽器が小鳥の囀りのようなファンファーレを鳴らした。出番だ。カスタで拍子を取りながら先輩たちと歩き出す。

 ドアが開くと一番前の管楽器部隊が講堂に足を踏み入れた。

 そこから夢中で、楽しむとか、歓待だとか考える余裕はなかった。

 やっぱり本番はどこか違う。雰囲気に押されたのもあったと思う。講堂の中のお客さまは優しい目でわたしたちを拍手で迎えた。

 ステップやら隊列は間違えなかったと思う。リズムも。

 ロビ兄たちの剣舞の見せ所になり、少しだけほっとする。

 やっぱり剣舞はかっこよかった。お客さまたちからもどよめきと拍手が起こる。

 一曲目を終えると割れんばかりの拍手をもらった。


 今度は落ち着いて演奏ができる。所定の場所に移動する。

 生徒会長から、歓待の言葉が述べられた。終わると同時に指揮者が棒を振り、ピアノが鳴り出す。やがていくつかの楽器が参戦して音が膨らむ。ほんの数小節だがハープの独奏がある。セローリア公爵令嬢は頑張り屋だった。最初はほぼ弾けなかったのに、このひと月で曲をマスターした。打って変わっての激しい小節ではスズも参戦だ。荒々しくから、だんだんと緩やかに、優しい音へと変えていく。弦楽器総出で切なさを奏でれば、元気を出してというように管楽器が音を挟んでくる。そこからはすべての楽器の合奏だ。そして夢には終わりがあるようにピアノの音でこの曲は締めくくられる。

 終わった……。

 盛大な拍手が聞こえた。わたしたちは指揮者に合わせてお客さまに礼を尽くした。



 講堂を出ていくときに先生たちが「頑張ったな」「よかったぞ」と声をかけてくれた。音楽室に楽器を戻しにいけば、泣いている子もいて、感極まっていた。

先生たちからお褒めの言葉があり、2日後にはポイントが追加されるから楽しみにしてていいぞと言われ、みんなで笑い合った。

 ふわふわしていたのはそこまでで、授業に戻るように言われる。厳しー。

 少しぐらい余韻を楽しませてくれたっていいのに。



 オスカーと教室に帰ろうと廊下を歩き出すと


「聖女ちゃん、スカーフしたままよ」


 と声をかけられた。

 首に手をやると、あ、したままだったと思い出す。進行方向にいた短めのズボンにサスペンダーをした成人前ぐらいの子がギョッとしたようにこちらを見ていた。

 あ。


「その呼び方やめて下さい。事情を知らない人を驚かせますから」


「あ、ごめんね。つい、呼びやすくて」


 音楽隊では影ではなく、堂々と聖女ちゃん呼びされていたからね、ちょっと慣れてしまった。


「視察団の方ですか?」


 先輩が話しかけると、男の子はそうだと頷いた。


「皆さま、講堂にいらっしゃいますよ、ご案内します」


 迷路のような園内だからね、逸れたら迷子になるよ。

 先輩に案内を任せて、わたしたちは教室へと戻った。

 わたしたちが戻ると、みんな成果を聞きたがって、授業にならなくなった。

 いや、話せることなんて、本当ないに等しいんだけどね。


 でも、拙いながら、講堂内に昨日よりもっと音が響いた気がして、盛大な拍手が鳴り止まなかったことを告げると、みんな自分のことのように喜んでくれた。

 それがとっても嬉しくて胸がいっぱいになる。


『リディア、最初は嫌がっていたが、やってよかったな』


 もふさまの言葉にその通りだと思った。

 わたし、やってよかったよ、うん!

 話しかけられないので、もふさまをギュッと抱きしめた。


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