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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
7章 闘います、勝ち取るまでは
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第285話 音を楽しむ

 4限と5限は芸術だ。音楽と美術を週で交互にやっていき、来年はどちらかを選択することになるようだ。


 最初に習ったのは校歌、ん? 学園だから園歌? とにかく学園の歌だった。音階の表記やらは似通っているので気楽にのぞめる。わたしは前世で習った記憶がある。学校で習い、エレクトンの教室にも通っていたし、それらを合わせて10年以上親しんできたから、楽譜も読めたりするけれど、こちらは一回さらっとさらうだけだ。こちらの子供たちの能力が凄すぎる!



「このクラスの中で楽器を習ったことがある人はいますか?」


 2回ほど通して歌った後に、お嬢さまと呼ぶよう言われても納得できる、年若い先生が優しく質問をした。


 誰も手をあげない。もふさまがわたしを見上げたが、わたしは目を逸らした。

 げっ。逸らした先で偽アダムと目が合う。


 音楽室でも教室と同じように席に着くように言われたので、わたしの隣は偽アダムなのだ。彼はニヤリとした。


「シュタイン嬢は習ったことあるんじゃないの?」


 また余計なことを。バッチリ聞こえたようだ。

 人の良さそうなお嬢さん先生は、わたしに視線を定めた。

 期待に満ちた目だ。


「珍しい楽器を少し触らせてもらったことがあるぐらいで……」


「まぁ!」


 先生は胸の前で手を合わせる。純粋に音楽に親しんだことがある子を見つけ喜んでいる感じだ。


「なんの楽器かしら?」


 あーーー。気持ち的にはガクンと項垂れるわたし。


「ハープです」


「まぁまぁ!」


 先生の目が輝く。


「ハープを弾ける方がいるなんて素晴らしいわ」


 弾けるとは一言も言ってない! 触らせてもらったって予防線を張ったのに。


「皆さん、ハープを知っていますか? こういった枠にいくつもの弦を張った楽器で、とてもきれいな音が出るのです」


 先生はハープの形を黒板に描いた。


「きれいな音?」


 先生は頷く。


「学園にはハープがあります。シュタインさんに演奏してもらいましょうか」


 と、とんでもないことを言い出した。わたしは手をあげた。


「先生、触ったことがあるぐらいで、弾けるというには達してません」


「そうなのですね。ええと、音階をなぞるのでもいいわ。お友達が楽器を触っているのを見ると、親しみ深くなると思うの」


 そうかな? ハープは確かにきれいな音だけど、親しみ深いというより、どっちかというと敷居が高いと思うんだけど。絶対ピアノのほうが需要があるはずだ。


「先生、僕も聞いてみたいです。よろしければ魔法でハープを運びましょうか?」


 先生は偽アダムの提案に目を大きくした。


「そうしてくださる?」


 えーーーー。心の中でブーイングを送るがふたりには届かない。


「はい、でもハープとわかるか自信がないので、シュタイン嬢も一緒に来てくれるかな?」


 後半はわたしに向かって言った。絶対、嘘だ。絶対、こいつは知ってるはずだ。


「エンターさまはハープがどこにあるか、ご存知なんですか?」


 尋ねると偽アダムは、嘘くさい笑顔で言った。


「楽器は音楽準備室にあるだろうね」


「その通りよ。では、ふたりにお願いしていいかしら?」


「はい、先生」


 偽アダムは調子良く返事をする。準備室の鍵を受け取り、音楽室を出た。

 校内地図を見ると、音楽室と準備室はえらく離れていた。

 ため息をつくと


「楽器をいい状態で保つために、温度差のないそこに準備室は作られたんだ」


「へー、よくご存知ですね」


「留年してるからね」


 嫌味を言えば、そんな返しをされた。

 そうだった。ちっともそうは見えないけれど、体が弱くて留年したんだっけ。

 体が弱いからきっと出席日数が足らずもう一度1年生をやることになった。わたしたちより学園に詳しいのは当然だし、そんな理由のある人に意地の悪いことを言ってしまった。少し反省してちろりと見上げれば、何も気にしてないように呑気に歩いているように見える。


「……わたし聞きたかったんだけど」


「何?」


「あの時、どうしてわたしを王都に連れてきたの?」


 偽アダムはふっと笑った。そこには計算も何もない笑みのように見えて、なぜかどきっとする。


「君が行きたがっていたからだよ、王都に。そして僕にはそうすることができる伝手があった。だから少しばかり手伝ったんだ」


 え? 確かにあの時わたしは兄さまたちが心配で、王都に行きたくてたまらなかった。でも行かないことが最善なのもわかっていたから我慢していた。

 その願いを叶えてくれた?


「それにしても6年もの間、理由はなんだろうって考えていたのかい?」


 偽アダムは含み笑いだ。


「奇抜だったけど……実際、王都に行けてありがたかったの。だから、どうもありがとう」


 アダムは驚いていた。

 なんでわたしのお礼で驚くかな?


「はっ、君には驚かされてばかりだ」


「なんでお礼を言うと驚くのよ?」


「君の言う通り〝奇抜さ〟に目がいけば、お礼を言うようなことじゃないからさ。騙したと烈火の如く怒って口も利いてくれないと思ったよ」


「騙されたのは気分が悪いわ。それに本当のアダムさまの叔母さまの家を無断で使って」


 と言いつつ、外国から戻ってきた当の〝叔母さま〟は訴えたりもしなかった。盗まれたり壊されたりした物もなく、騒ぐことではないと終わらせた。それを知って大人たちは心当たりがあるんだろうと結論づけていた。


「それは使用料を届けたよ、ちゃんと」


 そういうことではないと睨むと、偽アダムは肩を竦めた。



 準備室にたどり着き、ハープを見つけ出した。いろんな楽器が置かれていて面白い。ほとんどはわたしが知っているのと似た形だったけれど、全く未知のものもあった。

 風魔法なのか、アダムはカバーの掛かった重たいハープを魔法で持ち上げて音楽室に戻った。昔、もふさまが魔力がすごいって言ってたから、手伝わなかった。準備室の場所も知っていて、その距離をわかっていて自分で運ぶって言ったわけだから、難なくできることなんだと判断した。


 教室に戻ると、先生はわたしたちにお礼を言い、カバーを取ればハープが顔を出した。歓声があがる。


「この弦を押さえたり弾いて音を出します。このペダルも使います」


 先生が音を出すとまたまた歓声が上がる。


「リディア、何か弾いてよ」


 ええっ?


「そうね、せっかくだから。一小節でもいいわ、お願いできないかしら?」


「リディア!」


 ……………………。

 レニータたちが期待の目で見ている。もふさまの尻尾が揺れる。


『リディア、あれを弾いてくれ、あれを!』


 うう、本当に上手じゃないんだよ。ただなんとか弾けるだけだ。

 もふもふ軍団はどんな下手な演奏も喜んでくれる。


「……では、少しだけ」


 こっちの曲はあまり親しめなくて、前世の曲を弾いていた。

 ハープで聞きたいと思っていた音色の曲。

 考え事をする時にちょうどいい、もふさまのお気に入りの曲。

 某有名ゲームの音楽だ。


 オーロラのカーテンが揺すられた時って、こんな音を奏でるんじゃないかと思って聞いていた。光が差し込み、光が行き、悠久の時を過ごす。もの言わない水晶に思いを馳せたりした。石に耳を当てると、在り続けた悠久の時の記憶の音が聞こえたら素敵なのにと思った。そしてその記憶の音はこの曲になるんじゃないかと思う。

 寄せては返す波のような、同じようにも感じるけれど、きっと何かが違う〝時〟を編み込んでいくような調べ。


 終えると割れんばかりの拍手が巻き起こった。


「シュタインさん、素晴らしいわ!」


 お、ポイントが5点も入った!

 先生はわたしの演奏も素晴らしかったけれど、みんなが素直に音に親しみ楽曲の良さに触れられたことがとてもいいと言った。その機会を作ってくれてありがとうとも。


 今年は学校行事が多いそうで、外国から授業を観にくるイベントがあるそうだ。そこで歓迎の意を示すのに、音楽でおもてなしもするそうだ。クラスから何名か選抜することを付け加えていた。

 めんどくさそう……。

 絶対、それにはならないとわたしは心に決めた。

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