第26話 苦い魔法
本日投稿する2/3話目です。
「兄さまたちは、最初魔法使って、倒れた?」
「ロビンが倒れた」
だからか!
恨みがましい目で見たからか、ロビ兄が言う。
「生活魔法は大丈夫だったんだ、ギフトを試してみたら魔力持ってかれて」
「なら、わたしも生活魔法なら、いい?」
なんでバラすんだというように、兄さまがロビ兄をこづく。
「でもさ、ロビンは魔力酔いで寝込んだりしてないよ。リーはまだ魔力に耐えられる体になっていないんじゃないかな?」
「そしたら、いつまでも、光魔法使えない。母さま、しんどいまま」
そう言うと、思うところがあったみたいだ。
「試す魔法はひとつだ、そうだな、水魔法のみ。兄さまが〝そこまで〟といったらやめる。約束できるか?」
「約束する」
「……魔を通したときに、身体中に魔が通ったのがわかった?」
わたしは祝福を受けたときのことを思い出そうとする。
「体は熱くなった。巡るのはわからない」
「それがわからないと難しいかもしれない。指先に魔力を込めるようにして、指の先から水が1滴出てくるって思い描いてみて」
『見ていてやる。やってみろ』
「リー、頑張って」
「水を思い浮かべるんだ」
みんなに応援してもらって、ウンと頷く。
丹田に魔力を溜めているって小説で読んだことがある。それを全身に巡らせる、か……。
? それ、何気に難しいな。
魔法はイメージとも読んだことがある。
指先や手のひらから水が出る。それは漫画や映像で見たことがあり、思い浮かべやすい。
目を閉じる。
そう、人差し指をたてて、不思議とそこに水の球体が生まれていくんだ……。
「リディア、そこまで!」
「リー、もうやめて」
「最初から球体を……」
『我が友は筋が良いな』
目を開けると、わたしの指先に直径1メートルはありそうな水の球体が浮かんでいた。
「リディー、やめて」
「もったいない。畑にまければいいのに」
と球体が消えて、外でビシャっと音がした。
ベッドから降りて、外に出る。
おお、畑が大雨でも降ったかのようにびしょ濡れだった。
あれ、丈も伸びてすっごく大きくなっている。これ収穫どきなんじゃない?
わたしたちがドタバタしたからか、何事かと父さまと母さまもやってきた。
「どうしたの?」
まずい。
「リーが凄いんだよ。水魔法ですごい量の球体を出した上に、もったいないっていって部屋から畑に水を撒いた」
ロビ兄は空気を読まない。
しーーーーんとした。
「フランツ、今、ロビンが言ったことは本当か?」
父さまがピリッとした声を上げ、みんな背筋が伸びる。父さま、怒ってる。
「……はい」
兄さまが頷く。
母さまに頬を両手で挟まれ、その手は、首、肩へと下に降りて、わたしの無事を確かめている。
「リディア・シュタイン、ステータスを見て、魔力量を見なさい」
父さまの厳しい声だ。
「ステータス」
画面を開いて魔力量を見る。
「残り、4073」
父さまはホッと息を落とす。
「さっき、父さまと母さまは今日は魔法を使うのを禁じたはずだ」
「はい」
「魔法を使うことを禁じたのには理由がある。リディアは魔力酔いを起こした。2日も熱が下がらなかった。これは魔力が体の負担になったからだ。熱が下がり目が覚めたからといって、負担が急になくなるわけではない。しかも魔法を使えばどれだけ体に負担がかかるかはわからない。だから、今日だけは絶対に使ってはいけないと言った」
わかっている。それは、そうなんだけど。
「ステータスが見られて、魔力の残高もわかるが、それは結果論だ」
ぐうの音もでない。
「リディアは約束を破った」
「……はい」
「約束を守れない子には罰を与える。今日と明日、魔法を使うことを禁ずる」
「もう、約束を破らない。今日は使わない。でも、明日は」
「だめだ。それが罰だ」
ブワっと涙が出る。
「ごめんなさい。もう約束は絶対に破りません。罰でもなんでも受ける。でも、母さまを治すのだけ!」
「罰は一番堪えることでないと意味がない」
「母さま、早く魔法しないと!」
母さまは命に関わる。罰は後で受ける。とにかく命に関わるんだから、母さまを治すのだけ先にしないと。
「母さまも大切だ。でもリディアも大切だ。リディアは体が小さいし、魔力酔いも激しかった。体に相当な負担がかかっている。リディアは夢中になると突っ走って、思いもよらないことをして知らずのうちに命を削りそうだ。自分で自分の魔力が管理できるようになるまで、父さまが管理する。もし破ったら、禁ずる時間を長くする」
そんなー!
わたしは首を横に振る。
「いっぱい謝るから。もうしないから。母さま治すのだけ」
覆すことのできない目だ。
お願い、お願いだよ! せっかく母さまを治せるカードが揃っている。罰はいくらでも後から受けるから、お願いだから……。
「これは覆らない」
涙が溢れかえって、よく見えない。湧きあがってくるもので、胸が痛い。とても苦しい。涙と一緒に声にならない声が漏れる。
「ごめんなさい。……ごめんなさい、母さま」
気が急いて、辛い日を伸ばしている、わたしが。
泣きじゃくるわたしを母さまが抱きしめる。
「わかってちょうだい。リディーが母さまを思ってくれるみたいに、父さまも母さまも、兄さまたちもみんなリディーが大切なの。小さい頃に魔力が暴走したり、ひどい魔力枯渇を起こして魔法を一切使えなくなる人もいる。魔法は使えるけれど、魔法を使うと命を削る人もいる。リディーは魔力も多いみたいだから、体に負担がいくのがとても心配なの。それに人は一度無理を通すと、それがどんどん加速していく。あたりまえになって止められなくなるのね。だから、リディア・シュタイン、今日と明日は絶対魔力を使ってはダメよ。もし使ったら、母さまへの光魔法は拒否します」
流れていく涙を、母さまの指が拭ってくれる。それでも止まらず流れ落ちる。
なんで? 呪いを解けなかったら母さま……、命に関わるんだよ? 間に合わなかったらどうするの? ……こんなに顔色が悪い、父さまだって心配で仕方ないのに。言ってることはわかる! だけど、わたしは大丈夫なんだから、先に母さまを治させて……。
頭がガンガンして目が覚める。
隣でもふさまが〝伏せ〟をしていた。
『起きたか?』
「……うん」
大泣きしてそのまま眠ってしまったみたいだ。
『兄たちも今日と明日は魔法を使わないそうだ』
ゆっくり起き上がると、もふさまも体を起こして、ブルっと体を震わせた。
「兄さまたちも?」
『領主だって母君を本当はすぐに治したいはずだ。でもそこでお前を許したら、お前は例外を重ね自分を大事にしなくなる。人を助けるためなら身を削ってもいいと思ってしまう』
!
もふさまの言葉で気がついて目をつぶる。目頭が熱くなったのをやり過ごそうとする。
『だから、苦渋の選択だな。領主にとっても罰だ、お前に約束を守らせられなかった。母君もお前が自分を大事にしないならと命を科しての拒否という罰を自分に与えた』
!
そうだ、もふさまの言うとおりだ。
『兄たちも、お前が自分を大切にしないのを後押しした罰が必要だと考えたようだ』
わたしだけでなく、みんなが請け負う罰だった。
浅はかな目先だけの考えで、みんなを巻き込んでしまった。
「わたし、ちゃんと謝ってくる」
そういうと、もふさまは頷いてくれた。
ベッドから降りて、ふたりの寝室をノックする。
母さまがベッドに横になり、父さまがそのベッドに腰掛けていた。
「約束破ってごめんなさい。明日まで、魔法使わない」
部屋に入ってそう宣言すると、父さまが立ち上がってこちらにやってきた。
わたしを抱きあげる。
「ああ、そうしてくれ」
ギュッと抱きしめてくれた。