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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
6章 楽しい学園生活のハズ
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第259話 アベックス女子寮とドーン女子寮

 アイボリー令嬢たちが予約をとってくれたのは北食堂。女生徒に人気のメニューがある食堂だ。わたしはそこのパスタとサラダのセットを注文した。ポイントで紅茶をアイボリー令嬢が、フルーツをマーヤ令嬢が奢ってくれた。

 美しく器に盛られた料理を目で楽しみ、そしておいしくいただいた。

 もふさまには量が足りないみたいだ。空のお皿をみつめるうなじに哀愁が漂う。


 食後のお茶を飲みながら、アイボリー令嬢が今日の昼食会の主題を切り出した。


「まず、リディアさま……ドーン女子寮の方たちに謝りますわ。無関心でいたことでこんなことになっているとは」


「私も謝りたいです。申し訳ありません」


 ええ?


「謝るっていったい何をです?」


 ふたりは目を合わせた。


「アベックスの現寮長は去年の副寮長で、ヤーガン公爵令嬢です。5年生は卒業を待つばかりとなり、夏の終わりからヤーガン令嬢が引き継ぎ寮長となりましたの」


 そこで一息つく。


「ヤーガン令嬢は、その、ドーン女子寮の寮長ガネット嬢に辛く当たっていたようなのです」


 ひと月に1回寮長会議なるものがあり、ヤーガン令嬢がガネット寮長に辛く当たっていたのは、上級生の間では知られていることだったらしい。アイボリー令嬢とマーヤ令嬢は執行部のことで忙しく、あまり意識していなかったそうだ。


「ヤーガン令嬢がドーン寮のことに口を出すようになり、ガネット嬢が言いがかりをつけないで欲しいとお願いしたそうです。それを待っていたかのようにヤーガン令嬢が持ちかけたそうです、勝負を」


「勝負ですか?」


「ええ。アベックス女子寮とドーン女子寮で年末の試験の総合点で甲乙をつけようと。自分が負けたらもう口も出さないし今までのことも謝る。でもアベックス寮が勝ったら願いごとをひとつだけ聞いてほしいと」


「……それでドーン女子寮が負けたんですね?」


 ふたりは重たく頷いた。

 入ってから聞いたことだけれど、平民はどんなに入園試験の点数が良くてもD組なのだそうだ。爵位はいくら関係ないといっても、貴族社会である以上、根底からその意識を無くす事は不可能。それは平民でも能力ある人を抜擢した王宮の働き口にも傾向はあり、子供ならなおさら顕著に現れるだろうと危惧した結果だそうだ。平民を守るために、貴族の多い組には入れない、それが学園が考えた処置。だから、成績順と言っても平民の子たちは違う。

 だけれど、A組は貴族として家柄もトップ、その財力を駆使し幼い頃から英才教育を叩き込まれた子供たちの集まりだ。そんなA組とD組を試験の総点数で勝負するなんて……。


「アベックス寮は、ドーン寮にどんな願いごとを言ったんですか?」


 ふたりは目を合わせ、深いため息をつく。


「それが……、全員退園しろと言ったそうなの」


『なんと!』


 もふさまも驚いたようだ。

 あんまりな話に、言葉が繋げない。


「ヤーガン令嬢は、その……同じ学園に平民がいるのが許せないと日頃から言っていたようです。彼女は身分の高い公爵令嬢。誰もその意見を咎められなかったらしいの」


 侯爵ではなくて公爵か……。それより上は王族しかいない。


「ガネット嬢がそれだけは許してほしい。他のことならなんでもするから、願いを変えてほしいと言ったそうよ」


「それで?」


 身分が上の方というのも忘れて、前のめりで促してしまった。


「貴族のように寄付ができたら、平民でも社会貢献しているとみなして学園にいてもいいと言ったそうよ」


 なんて酷い。

 平民でも豊かなお家の子もいるだろうけれど、みんながそうというわけではない。学園に通わせるだけで精一杯の家もあるはずだ。だから……みんな自分たちのできることからお金を抽出して、寄付をするようにしたんだ。

 できること。普通当然もらえるもの。享受すべきものを切り詰めてお金を算出し寄付に変えた……。


「そんなことが起きていたなんて……わたくしたちリディアさまから尋ねられなかったら、ずっと気づかなかった、きっと。本当にごめんなさい。そんな酷いことが学園内で起こっていたなんて、わたくしのいる寮で。……ヤーガン令嬢と話してみますわ」


「おふたりは、公爵令嬢への伝手があるのですか?」


 マーヤ令嬢が首を横に振る。


「いいえ。寮長であるということ以外は」


 平民を嫌うお嬢さまなら、身分にうるさい方だろう。伝手がなければ年下の侯爵令嬢や一代貴族に敬意を払うとは思えない。


「ヤーガン家には伝手はないけれど、4年生におひとり公爵令嬢がいらっしゃるの。お優しい方でお話をさせてもらったこともあるから、まずその方に話してみるつもりよ」


 ヤーガン令嬢と渡り合えるのは1つ下の公爵令嬢か役職のついた人、だけだろう。


「話してくださってありがとうございます。でも無理はなさらないでください。身分に敏感な方なようですし」


 アイボリー侯爵令嬢が意見をしたら下手に身分があるだけに、ヤーガン公爵家とフリート侯爵家の問題へと発展してしまうかもしれない。

 実際、それで退園者が出ていたなりしたなら問題になったかもしれないが、今表面上はおさまってしまっている。書状などにもしてないだろうし、言った言わないで丸め込まれてしまうかも。そうなったら圧倒的に平民のドーン寮が不利だ。……寄付も、寄付自体は悪いことではないし、先輩たちは良い行いをしたとして学園からポイントをもらっている。それらも有利に働くことはないだろう。だとしたら、真っ向からこの喧嘩を続けていく方がなんとかなるかもしれない。


「……そうですね、無理はせず、できたらその考えはヤーガン令嬢だけか、他のご令嬢たちも平民はいるべきでないとヤーガン令嬢の考えを支持しているのか探っていただけますか?」


「何か思いつかれたのですか?」


 マーヤ令嬢に言われて、頷く。


「今思いついただけなので、変わったりどうなるかわかりませんが、今年も勝負をしたいと思います」


「え?」


 もふさまも首を上げてわたしを見る。


「ヤーガン令嬢の、学園から平民を追い出したいっていう気持ちは、そうそう変えられるものではないでしょう。おそらく何を言っても無駄。でも年度が変わったのだから、また勝負してもらいます」


「策があるのですか?」


「いいえ、特には。でもがむしゃらにやるだけです。そちらの寮でも一致団結していて、そうですね、もし可能であれば、ヤーガン令嬢のしたことはやりすぎ、貴族として褒められたものじゃないという雰囲気を醸し出していただけるとありがたいです」


 アイボリー令嬢とマーヤ令嬢は、ぽかんと口を開けた。そんな表情もかわいらしいのだけど。


 わたしは事情を教えてくれたおふたりに心から感謝した。少し希望が見えた。

 再戦すればいい。今度は絶対負けないから。

 寄付をしなければいけない理由はわかった。寄付は社会貢献になる、それは確かだから続けましょう。でも寄付をすればいいのであって、それは必ずしも食費を削るとイコールである必要はない。


 あと、ミス・スコッティーはなんか気にかかるんだよな。それも確かめなくては。

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