第255話 先輩たちの思い
5階まで階段をのぼり、わたしの部屋に入る。着替えてくるからと、敷いたラグの上に座っていてもらう。クッションが人数分ないが、ラグの裏に海きのこのホウシ、シロホウシを包んだものを貼りつけてあるから、暖かいし足も痛くならないはずだ。
洗面所で顔や手を洗い自分にクリーンをかける。着替えて出ていき、何かつまむか聞いたが、もうすぐ夕食なのでお茶はいらないという。
「2年生以上は、あの切り詰めた食費で満足しているってことだよね?」
「総意ってことは、そうみたいね」
「どうするの?」
みんながわたしを不安げに見る。
「寮の総会を開くために15人以上の同意をもらうのと。その総会の時には寮生の半数以上の食費を上げる賛同を得るしかないね」
揃って大きなため息となる。
「何でこの食費でいいと思っているか、そこが要だね」
ジョセフィンの意見に頷く。わたしもそう思ってた。
「みんなで手分けして、今の食事に本当に満足しているのか、それから切り詰めた食生活をなぜ賛同したのかそれを探ろう」
「〝探る〟なの?」
提案するとダリアに尋ねられる。
「うん。反発心をもたれたら、話してくれなくなっちゃうかもでしょ? わからないけど、食費をあげることに強く拒否感持っていたら、聞いただけで話してくれなくなりそうな気がして」
団体心理はどう動くか予想つかないからなー。
「そうかもね。大っぴらじゃなく、静かに〝探る〟方が良さそうだね。なぜこんなことになったのか理由がわかれば、対処法だって考えられるけど、それがわからないとどうしようもないものね」
レニータがまとめてくれて、みんなで頷く。
理由がわからないと何もできない。ということはしばらくの間、この食生活が続くということだ。
それならせめて厨房を使わせてもらえないかを聞いてみよう。
食事の時わたしたちはバラバラになり、各々先輩たちのテーブルに相席をさせてもらった。そして何気なくを心がけて情報収集だ。
わたしはもふさまを触りたがっている人たちに目をつけ、そのテーブルに相席させてもらった。案の定向こうから話しかけてくれた。ふふふ、わたしは話しかけるのが苦手なのだ。
会話も弾みお遣いさまと一緒に眠ったというと大変羨ましがられた。
途中で首を傾げたのだが、父さまはわたしが魔力を吸い取られたと真実を知っていたけれど、生徒たちには聖樹さまとわたしの魔力の相性の関係でわたしが倒れ、またいつそんなことがあるか分からないので遣いのものをやったと認識されていたことだ。ヒンデルマン先生にどうしてなのか聞かなくては。
「先輩たちはお腹が空いたりしないんですか?」
控えめにわたしは尋ねた。
先輩たちはチラチラと周りを気にしながら小さな声で言った。
「もちろん空くよ」
「もっと、ちゃんと食べたいって思わないんですか?」
「思うけど、せっかく入れたんだもの、学園にいられなくなるのは嫌だわ」
「食べると……学園にいられなくなるんですか?」
先輩たちは互いに目を合わせる。
「あなたは貴族だからわからないかもしれないけれど、私たち庶民が目をつけられずに、平穏に過ごすにはこれしかないのよ」
「A組に負けないくらい頭が良ければ、そんなことなかったかもしれないけどね」
ふたりは、お腹が空いたらお水を飲むといいと助言をしてくれて、席を立った。
え、一体、どういうこと?
ガネット寮長を見かけたので、炊事場を使わせてもらうことは可能かどうか聞いてみた。それにはA組の寮長の許可がいると言われ愕然とする。何でドーン寮のことなのにA組の許可がいるんだ? あの冊子に書いてあるかな? ちゃんと読まないとだ。なんとなくそれも長引きそうだなと思った。
炊事場が使えるまでに時間がかかるとしたら、これはお腹が空いた時、森でやり過ごすしかないね。
食後もわたしの部屋に集まって、みんなで聞いたことを報告しあった。
先輩たちは食費が抑えられた時、最初はキツかったけれど慣れれば大したことはないし、ポイントがもらえるからそう悪くないと思っていた。いきなり暗礁に乗り上げた感がある。
情報を合わせ、先輩たちの話から読み取れたことは
・試験で負けた
・学園を辞めることになるのなら、この状態の方がマシ
・食費を下げていれば、平穏に過ごせる?
・ガネット寮長が可哀想
・平民は平民らしく
・目をつけられないように
・アベックス寮と何かがあった
ってなところだった。
この次は、これらのことを踏まえて、過去を知っている前提で話すようにして、先輩たちから探ることにする。
同時に新入生の子たちが、食事についてどう思っているかを、休み時間などを使って聞くことにした。
さらにわたしは、アベックス寮の知り合い、アイボリー令嬢やマーヤ令嬢に何か知らないか聞いてみようと思う。
「あーあ、食べたばかりなのに、もうお腹空いたよ」
レニータが口を尖らせると、みんなが笑った。
「……ねぇ、ちょっと怖いかもしれないけどさ、わたし外に出てやりたいことがあるんだよね。みんな手伝ってくれる?」
「え? これから外に?」
キャシーが不安そうに言った。その背中をレニータが軽く叩く。
「面白そうじゃん」
「いいよ、リディアのやりたいことなら」
「玄関開いてるのかな?」
わたしたちは手を繋いだり、肩に捕まったりして、わたしともふさまを先頭にして玄関へと階段を降りて行く。消灯前だし、お風呂に行く子もいるだろうに誰にも会わなかった。玄関を出て、そっと外に出て行く。
灯りの魔具をつけて、しーっと言い合いながら、多少木がこんもりした森に入って行く。もふさまが一緒だし、頼りなくはあるが明かりを持っいる、それでも暗いと足がすくむ。
「リディア、どこまで行くの?」
抑えた声でリニータに尋ねられる。
木のないあたりだ、このへんだね。
「ジョセフィンは土属性だったよね?」
「え? うん」
「じゃあ、これ」
押しつけると、ジョセフィンは半歩下がった。
「何、これ?」
「芋!」
「芋?」
みんなの声が重なり、意外に響いた。
レニータが声をひそめる。
「芋をどうするの?」
「これは種芋。そこら辺を少し耕してくれない?」
「え? う、うん」
ジョセフィンはあまり魔法を使うのが得意でないようだ。
もふさまがその隣りあたりを掘ってくれた。
適当に切っておいた芋をぽんぽん投げ込んで上に土をかぶせる。
そして魔法のお水を撒く。ダリアとキャシーも水属性だったので3人で撒いた。
この芋は、ウチの庭で育った特別なものだ。すでに魔力をたっぷり含んでいる。これでよし、と。
「リディアは夜に芋を植えにきたの?」
みんなが不思議そうにわたしをみた。