第251話 初ポイント
カーテンの隙間から明るい光が溢れている。時計を見ると6時15分だった。
夕飯も食べずに眠ってしまったと思えば、起きたてなのにギュルっとお腹がなる。
『起きたか』
「もふさま、おはよう」
ギュッと抱きつく。やはりもふさまは最高だ。この隙間風の入ってくる部屋でもとても暖かく眠ることができた。
『寝たのが早かったからか? 起きるにはまだ早いだろう』
「6時半から掃除なの」
急いで顔を洗い、髪をひとつにまとめ、作業着に着替える。動けば暖かくなるとは思っても、3枚重ねにしてしまう。
「あ、もふさま、掃除だからここにいて。部屋の外はもっと寒いし。それから……今はご飯、とても質素なの。だからもふさまの分は部屋で出すからね」
下にたどり着けばもうみんな揃っていた。もふさまはいいと言ったのについてきてくれた。
「リディア、大丈夫なの?」
「うん、もう平気」
「お遣いさまは真っ白なのね。怖くない?」
「優しく寄り添ってくれるよ。あったかいし」
6時半きっかりにミス・スコッティーは現れた。
わたしともふさまを一度ジロっと見た。
「おはようございます」
少し不機嫌そうに言うミス・スコッティーに少女たちも挨拶を返す。
「今日の班の子たちも揃っているみたいですね。掃除の仕方は彼女たちに倣い、きれいにするように。始め!」
そう言って両手を合わせた。
みんな掃除をしたことがあるので、ポイントを伝えればよかった。光曜日はアイデラが突っかかってくるのでやりにくかったが、今日の班の子たちとはやりやすい。最後のチェックでミス・スコッティーの嫌らしさはみんな分かったと思うので手を抜くこともないだろう。清掃班がひとまわりしたら、それぞれの班に任すことにしよう。
掃除が終わり、朝ごはんだ。食堂にもふさまもついてきたが、絶句していた。聞きしに勝ると。
学園に行く時にアベックス女子寮の1年生に遭遇した。ユリアさまとエリーだ。エリーはわたしを心配してくれたがユリアさまには「目立ちたがりなのね」と言われて驚いた。もふさまが唸ったら、走って逃げていった。エリーが謝ってくる。そこまで悪い子じゃないんだけど、と。
クラスでは何人かはもふさまを触りたがった。唸られてやめていたけれど。
アイデラはユリアさまと同じでわたしに目立ちたがりなのねと言った。
ニコラスは心配してくれて、わたしが尋ねる前に、昨日の夕食と今日の朝のメニューを教えてくれた。うん、完全に同じドーン寮なのに、男子寮と女子寮で差がある。これは問題だね。先輩に話を聞かないとだ。
朝のホームルームの後に、先生に呼ばれ、体調を心配してもらい、後で保健室へも行くように言われた。
ひとコマ目は算術の授業だ。初日は四則計算だったので楽勝だった。
2コマ目と3コマ目は続けての「魔法戦」の授業だ。A組と合同だという。クラスは能力順なのだから、合同にするなら、上からAとB、そしてCとDで合わせるのがいいんじゃないかと思うが、歴代で試され、その組み合わせは張り合いの度が激しくなり喧嘩が絶えなくて、最終的にこの形に落ち着いたようだ。
運動着に着替える。着替えるような授業でも、休み時間の長さは変わらないので急がないといけない。屋外の魔法戦専用の演習場までがまた遠いのだ。
合同のクラスでも一緒に着替えて問題がないぐらいに広いし、それぞれの着替えをおける棚があるはずだが、A組の子がひとりでふたつ使ったりしているので、わたしたちD組は空いているひとつの棚を何人もで共有し着替えなければならなかった。それでもD組の着替えの方が早い。多分今まではメイドが何から何までやってくれていて、自分で着替えるのは最近やり始めたことなのだろう。
初日は更衣室付近まで先生が迎えに来てくれたが、これからは自分たちで演習場までたどり着かないといけないらしい。って地図買えないと悲劇じゃん。わたしはマップがあるからなんとかなるけれど。「初日だから迎えに行った→今後は迎えに行かない→自力でたどり着くしかない」と頭の中で結論が導き出されA組の子たちも表情を固くしている。
まずは属性の魔法を使って、的に攻撃するというミッションが下された。
水鉄砲で当てる子もいれば、出したお水が的まで届かない子もいる。燃やしていいのかと確認をとってから的を燃やした子もいた。わたしは無難に水鉄砲を当てておいた。魔力がまだ全然戻ってきていないのだが、これくらいの水鉄砲なら使う魔力は1だ。
そして実戦?である魔力を使ったのはそこまでで、その後は遊びのような演習になった。
先生が演習場に花びらのような配置で大きな円を4つ描いた。白い粉は何の粉だか知らないけれど、恐らく風魔法でその線は描かれた。円には1、2、3、4と番号が振られる。まずA組は1と2のどちらか好きな方に、D組は3か4の円の中に入るように言われる。わたしは3の円に入った。
先生が手を叩いたら、属性別の円に走れと言われる。1が火、2が水、3が風で4が土。属性が複数あるものは好きな方で構わないと。
ポンと手が叩かれて、A組15人、D組17人、合計32人の女の子が一斉に目指す円へと走り出す。
わたしは2の円に走った。それだけで疲れた。
次に手を叩いたら、1に春生まれ、2に夏生まれ、3に秋生まれ、4に冬生まれが集合と言われ、ポンと手が叩かれる。
お題によりわたしたちは右往左往、当てはまる円へと走り回らされた。
6回移動したところでヘロヘロになった。エリーはシャンと立っていた。バテている子となんでもない子とはっきりしている。
そして並びはどうでもいいから隣り合った人と手を繋ぎ丸くなれと言われた。
みんなで手を繋いで大きな輪ができた。手を離していいと言われ、手を離す。
「みんなの記憶力を試してみよう」
先生がニヤリと笑った。
「シンリー・メロウ」
「はい」
深緑色の髪の子が先生を仰ぎ見る。
「このシンリー・メロウが春生まれか、夏生まれか、秋生まれか、冬生まれか、手をあげるように。春生まれだと思うもの」
いくつかの手が上がる。
「夏生まれ」
パラパラと手が上がる。
「秋生まれ」
いや、同じ円にいなかった。
「冬生まれ」
わたしは手をあげた。手をあげた人が一番多かった。
「シンリー・メロウ。生まれた季節は?」
「冬です」
先生は含み笑いだ。当てたものに2ポイントを加算すると言って、正解者の名前を羅列した。初授業だったのにみんなの名前を覚えているようだし、顔と名前も一致している。一瞬手をあげただけなのに、〝冬生まれと思う〟で手をあげた子たちの名前を誰一人漏らさずに呼んだ。
わたしも呼ばれて、目の前にステータスボードに似ているものが出てきて、2Pと表示された。おお、ポイントが入った。こういうふうなんだ。
次から次へと質問された結果、全然周りを見ていないことがよくわかった。当てずっぽうで答えるしかなく、完全に覚えていたことはひとつもなかった。
当たった子はポイントをもらえるかと期待したが、ポイントをもらえたのは最初の1問目の正解者だけだった。
「戦う時に腕っぷしや、魔法の威力や精度も重要だが、情報を見誤ったら取り返しのつかないことになる。常に周りに気を配り、神経を研ぎ澄まさせろ。逆に言えば、魔力が少なかろうが、精度が悪かろうが、自分の持ち味を生かして使えるところで最大限に攻撃をすれば勝利に繋がる。それを忘れるな」
初の魔法戦の授業はみんなうなだれる結果となった。