第213話 追跡②罠
ガルッアロ伯爵家には4人の子供たちがいる。10歳のジョバンニ、8歳のビアンカ嬢、7歳のシルビア嬢、6歳のルチア嬢。6歳のルチア嬢を第二王子の婚約者に大プッシュしているそうだ。奥さんの実家がお金持ちで、お金をばら撒くようにして取り巻きを得ている。そして、殿下の婚約者と決まったかのように吹聴している。
他の一族にももちろん殿下と同年代の女の子はいたが、群を抜いてガルッアロ家が怪しさ満載だったので念を入れて調べた。貿易業をして一人勝ちをしているが、それはライバルが出てくれば汚い手を使って蹴落としてきた結果に過ぎなかった。ライバルやライバルの家族が不審な死を遂げていて、それはひとりではない。こいつだ、と父さまは思ったという。
アイリス嬢の追跡の魔具で引っ張れるのはダグル男爵まで。
そんなときにガルッアロ伯爵家から親書が届く。長女と次女の婚約者を探していて、どちらかと双子を婚約させないかという内容だった。
父さまは怒りでおかしくなりそうだった。
わたしを殺そうとしておいて、その兄と自分の子供との婚約話を持ちかけるとは。どんな神経をしているとそんな恥知らずな考えが生まれるのかわからず、犯人ではないのか?勘違いなのか?と思ったほどだという。
父さまは兄さまたちに協力を申し出た。
わたしを狙った人か見極め、証拠を得るために、ガルッアロ伯爵家を探りたい。双子の婚約話が持ち上がったので、顔見せということで伯爵家に一緒に行ってくれないか、と。兄さまも双子も証拠を集めるのになんでも協力すると答えた。
王都に向かう途中、ガルッアロ伯の住むトリノの町に寄り、双子との顔合わせに行った。ちなみに、その時は兄さまとシヴァは外で待機していたそうだ。
双子のガルッアロ伯・長女と次女の感想。高飛車。いけすかない。以上。
協力するとは言ったものの、5分で同じ空間にいるのが苦痛になったという。
すぐに腕を絡めてくるのも、すっごく嫌だったらしい。
ロビ兄が触るなとキレてしまい、田舎者を相手にしてやろうと思ったのに、生意気だの願い下げだのキャンキャン吠えて大変だったそうだ。
そんな経緯にはなったが、父さまはガルッアロ伯と接点を持った。
次の日、父さまだけが訪問。父さまは罠を仕掛けると言っていたそうだ。わたしを狙った犯人だとしたら食らいつくような餌を撒いた。
シヴァと兄さまに、ガルッアロ邸にて動きがあるはずだからそれを追って欲しいと言った。双子には、すぐに帰るつもりだが、連絡なく1日帰らなかったら、それをおじいさまとアルノルトに伝達魔法で伝えて欲しいとそれぞれにすることを示唆した。
みんな指示された通りに動くつもりだったが、問題が起こる。ガルッアロ伯の長女と次女は頭に血がのぼったらしく、双子のことを取り巻きたちにぶちまけた。婚約者になってくれとシュタイン家の双子が来たが、生意気な上に礼儀がなってなくて、縁談を断ってやったと。
ガルッアロ伯家はトリノの町のお山の大将だ。歯向かう者はいない。みんな従順に従っていた、表向きは。
ガルッアロ伯が縁談を断ったというシュタイン伯の子息。第二王子殿下がシュタイン領に肩入れしているのは明白だった。殿下の覚えがいい双子。領地は目覚しく発展していっていると聞く。双子は6歳、成人まで12年ある。もしそれまでに良くないことがあれば〝破棄〟すればいいんだし、優良物件でフリーの今、婚約者になっておくの、手じゃね?と思ったのか、宿屋に使いの者が列をなした。父さまがいなかったので、屋敷に招待して手懐けちゃうのは?と思ったようで、ヒートアップしていき、使者たちの喧嘩が始まり大きな騒ぎとなった。シヴァはそれを止めるのに奔走し、伯爵家の動向を探ることができなかった。
落ち着いたのは夜になってからで、父さまは帰ってこなかった。
1日経っていなかったが心配になり、おじいさまとアルノルトにその旨の手紙を送った。
その夜、宿に異変があった。シヴァと兄さまは気配に気付いたが、捕まった方がいいかと思い、特別に抵抗はしなかった。連れて行かれたのはある屋敷の地下で、牢屋のようになっていた。そこには父さまがいて、4人を見て口をぽかんと開けた。
「お前がいながら、なぜ捕まっている?」
と父さまはシヴァに言って、シヴァは
「どうしてお前は捕まっている?」
と返したそうだ。二人は強い。兄さまと双子もそこそこだ。捕まえてきた者より実力があるのはわかりきっている。捕まっているのは、捕まろうと思ったからに他ならない。
ひとつ予定が狂ったのは、魔力を封じられたことだ。魔力を封じる魔具はかなり高い。それを5つも用意してあったとは、ガルッアロ家はかなり豊かなようだ。表向きは貿易業を営んでいて、羽振りがいい。クリーンなイメージを押しているが、内状はかなりエグく汚い手口を使い、汚いことは子分たちにやらせている。
魔力を封じられたことにより、伝達魔法の魔具を使えない、外と連絡が取れない、それが困ったことだった。
魔力を封じられても、父さまとシヴァなら牢屋から簡単に逃げられる。
父さまを捕まえたということは罠にかかったということだ。罠にかかるということは、やはりわたしの殺害を依頼したのはガルッアロ伯。それなら証拠をつかみたい。ガルッアロ伯を裁判に引っ張り出し、調べてもらう必要がある。だが……。
子供たちは安全なところにいて、シヴァに守られているはずだった。多少の痛い目を見るのは自分だけだと思っていた。
子供たちを連れてきた、それは父さまに言うことをきかせるため、いわば人質だ。父さまはすぐに逃げることを選択した。
それに兄さまたちが反発した。まだ証拠をつかめていないのでしょう?と。
父さまはダメ出しをした。
今すぐに逃げ出さなければ、明日お前たちに嫌な思いをさせることになる、と。恐らく、お前たちを盾にとって情報を探ろうと父さまに暴力を振るうだろう。そこに居合わさせることになる、と。どんな危険があるかわからないからと。
兄さまも双子も即答した、問題ないと。
それよりも、そうやって人をすぐに傷つけることで解決するような奴を野放しにするべきではないと。
しばらく言い合いが続いたが、父さまもできれば〝証拠〟を得たかった気持ちがあり、結局、兄さまたちの言い分が通った。
翌日、父さまの読み通りのことが起こる。兄さまたちは想像していたが、予想していたそれよりもずっと辛くキツく、衝撃的なことだったそうだ。
ガルッアロ伯は父さまに「言え」と迫る。令嬢を拐った者の居場所を。
父さまを痛めつけても口を割らないとわかると、ロビ兄を掴みあげてナイフを首に当てた。父さまは情報は話す。子供に怪我を負わせたら、一瞬で葬ってやると凄んだ。兄さまも双子もビビるほどの迫力だったそうだ。
話すのなら子供は傷つけないと言われ、父さまは言った。
「辺境の砦の近くに、空っぽダンジョンと呼ばれるダンジョンがある。そこに閉じ込めている」と。
父さまは、もし自分に何かあった時には家族を頼むと遺言書のようなものを書かされた。
アルノルトとおじいさまにはある程度の計画は話していて、連絡があった場合にやって欲しいことを伝えてあった。おじいさまの場合は、空っぽダンジョンの見張りに、中に誰かいると思い込んでやってくる者がいたら、拷問を受けた傷が悪化して亡くなったと言うように……。