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第212話 追跡①推察

 みんなでの食事は圧巻だった。

 広ーい講堂に長ーいテーブルが連なっていて、椅子がきれいに並んでいる。

 料理人が十数名。手伝い要員も十数名。手伝いは一族から当番制で選出されているみたいだ。テーブルの上に山のように盛り付けられた大皿料理がどんどん、ドーンと置かれ、好きなものを好きなだけスタイルのようだ。

 わたしともふさまの分はアマンダ夫人が取り分けてくれた。


 食事前の祈りの言葉が終わると一斉に食べ始める。

 大皿に手が伸びたかと思うと、各自のお皿に山盛りにとりわけ、あっという間にお皿が空っぽになる。わたしの分は取り分けてもらっているし、焦る必要がないんだけど、雰囲気に押されて一生懸命口に押し込むようにして食べた。視線を感じた。ふと前を見ると、スッゲー注目されていた。キラキラした目で。


「あんなちっちゃい口が、よく動くな」

「一生懸命、食べてるぞ」

「飲み込んだ」


 実況中継いらないから。


「ほら、あんたたち、そんなに見られたら食べられなくなっちゃうだろ。あんまり見ると飯抜きだよ」


 ギャラリーがいなくなった。


「ごめんよ。みんな小さな女の子が家にいるのが嬉しくてしょうがないんだ」


 さっきの勝負はどっちの勝ちなんだって話になっていたけれど、そりゃやっぱりドラゴンに勝ったもふさまということになった。ひとりがちだ。

 骨付きの大きな肉を用意してもらって、ご満悦だ。アオとレオはリュックの中でご飯を食べてもらっている。なくなるともっと食べたいと合図を送ってきて、リュックがひとりでに動くのでヒヤヒヤする。3人で話をしながら賑やかしをして、1人がお皿の上のものをリュックの中に入れるというチームプレーだ。リュックにご飯を入れているのを、誰かに見咎められたらどうしようと胸がドキドキした。


 デザートはプラムのような果実だった。酸味がちょうどいい感じ。もっと甘い方が好みだが。

 ごちそうさまをして、部屋に案内される。




 4人で1つの部屋にしてもらった。

 小さなベッドも入れてくれていたが、大きなベッドひとつで十分そうだったので、4人ともふさまとアオとレオと、みんなで眠ることにした。

 引っ越ししたてのときみたいだ。

 横になると眠ってしまうので、座ったまま、話をねだった。でも、みんな話すより、わたしの話を聞きたがった。


 話せることはあまりないのだと前置きをする。

 父さまから手紙があったとおりに、ランパッド商会から迎えが来て、その馬車に乗ったんだと。商人さんに見えたし。ホリーさんと似た感じだと思って、商人さんってみんなこんな感じなのかなと思ったんだと話した。

 そうして途中の町でアダムに遭遇して、旅は道連れとアダムの馬車に同乗することになった。


「アダムって誰?」


 え? あ、兄さまたちは知らないのか。

 わたしは自立支援団体に寄せられた手紙のこと、それからセズがモロールまで仕事に行き、推薦状をもらったんだと話した。



 わたしの話はそれぐらいにして、兄さまたちに話をねだる。聞きたくてたまらなかったのだ。どんな作戦だったのか、何が起こっていたのか。

 兄さまたちは顔を見合わせる。起きたことは知っているけれど、父さまにはもっと何か考えがあるような気がするから、話すことは全てじゃないよと言われて頷いた。


 父さまも兄さまたちも、わたしに話すのに躊躇っていたのを納得する。

 父さまはみつけた。殿下の婚約者候補になったときにわたしを殺す依頼をした貴族を。兄さまたちが閉じ込められていた牢屋のあった家は、その貴族が悪いことを企むときの別邸だそうだ。

 忘れていたわけではないけれど、実行犯であるカークさんが消えたとあっては、主犯もみつけられないのではと思っていた。けれど父さまはずっと探してくれていたんだ。


「どうやって犯人がわかったの?」


 主犯がわかり、その上、そいつらのアジトに侵入していたと気づいたら怯えるとでも思っていたのか、わたしがめげないのでほっとした顔をする。


 兄さまが教えてくれる。

 ことはモロールの前領主と、ピンクの髪の子が町の家までやってきたところまで遡る。その席で、父さまはわたしが第二王子殿下の婚約者候補に名前が挙がったとたん、命を狙われたと話したらしい。カートライト男爵はいきなり、公表していなかったわたしの危機話を打ち明けられ驚いたようだ。

 聖女かもしれないとこれだけ噂になったら、たとえそれが事実であろうとも、なかろうとも〝邪魔者〟と思う人が出てくるかもしれないというのが父さまの言いたかったことだ。

 世界の危機に聖女は現れる。だから聖女さまをどうこうしようなんて考える人は本当に頭が悪いと思うけれど、アルノルトが言っていたように、欲深くなると見境がなくなっていく面も確かにある。


 それでね、もちろん用心した方がいいことと、ある魔具を渡した。それは比較的、手に入りやすい魔具。冒険者ギルドのある町などではよく見かけるもの。対象者と魔具を魔力で結びつけると、対象者の居場所が一時的にわかるようになるものだ。魔物の巣を知るために、魔具と魔物を結びつけ、逃して追跡をかけ、巣を一掃するのに使ったりするらしい。対象者と魔具を結びつけた者の魔力で追跡の精度が決まる。


 余談だが、実は父さまはわたしたちにも、そういった追跡の魔具をつけていたみたいだ。ただ父さまの魔力がそこまで高くないからか、お茶会で拐われたときも、今回王都へと呼び出された時も追跡はできなかったらしい。


 カートライト男爵には、魔力の高い方が追跡魔法を結んだなら、犯人もわかりましょうとアドバイスした。そして犯人がわかったら自分にも教えて欲しいと言ったそうだ。


 時が経ち、なんと父さまの読みは当たった。

 カートライト男爵とアイリス嬢は王都にきて、神殿に挨拶に行った。そこで神官さまに追跡の魔具を結びつけるお願いをしたようだ。神官なら魔力は高いだろうね。

 神殿に入る前に、家族でゆっくり過ごしているとき、その刺客はやってきた。

 今回のアイリス嬢の神殿行きは、王室も一枚噛んでいる。だからアイリス嬢は警護されていた。王都の凄腕の騎士が守っていた。アイリス嬢は髪の毛一本も怪我はしなかった。が、敵もさることながら、逃げ遂せた。


 そこで出番がやってきたのが、追跡の魔具だ。魔力の高い神官さまが結びつけたので魔具は遺憾なく力を発揮した。

 失敗した刺客が転がり込んだのはダグル男爵家だった。すぐに捕獲されたがシラを切り通していたそうだ。

 父さまはダグル家では筋が通らないと思った。アイリス嬢を邪魔に思うその意味は、聖女という力にではなく、聖女だと王族と婚姻する可能性があるからだ。もしアイリス嬢がいなくなったとしても、普通の男爵家なら王族と婚姻を結ぶなんて夢は抱かない。身分が低すぎるのだ。ダグル男爵に命令したものがいるーー派閥を調べ上げ、浮かび上がったのがガルッアロ伯爵家だった。

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