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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
5章 王都へ
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第205話 牢屋で再会?

 足音は部屋の前まで来た。

 ガチャガチャと何かを開けるような音がする。


「大人しいな。そのままでいてくれよ。お優しいご主人さまが最後の晩餐だとよ。ありがたく食うことだな」


 何かを落としたような音がする。ガチャガチャと再び金属音。


「坊ちゃんたちは集まって。今頃怖くなってきたのかい? お可哀想に。素直に婚約するといえばよかったのに」


 足音が遠ざかっていく。完全な沈黙が降りた。







「リディー、なぜお前が!」


 声を荒げた父さまの口をシヴァが手で塞ぐ。

 うんうん頷いて、父さまがその手を外す。父さまは声のトーンを落とした。


「リディー、なぜ、ここに来た?」


「それより、その格好は何?」


 兄さまにすっごい顔で詰め寄られる。




 袋小路にいたわたしたち。その格子檻はわたしだったらなんとかすり抜けられる間隔だった。もふさまも小さくなれば通れる。わたしはもふさまから降りて、格子の合間に足を入れ、体を入れた。最後に頭を通そうとすると、ちょっとつかえてモタモタした。カツーンという音が大きくなっているから、余計に焦る。父さまが頭をそうっと持って角度を変えてくれて何とか通った。もふさまも小さくなって入ってくる。

 わたしは兄さまのジャケットを被され、部屋の隅につれていかれる。ハッとする。〝水着〟のままだった。兄さまたちが3人寄り添ってわたしともふさまを隠すようにした。父さまとシヴァが檻の前の方に立つ。

 そこに降りてきた人がぐだぐだ言って、引きあげていった。

 石の床上には固そうなパンが転がっていた。




 レオがポシェットから飛び出す。


『はじめまして。リディアたちの父君だね?』


 アオがポシェットから飛び出す。


「はじめまして、リディアたちの父君だね?と言ってるでち」


「あ、アオ?」


 みんなの声が重なって響く。

 みんな慌てて自分の口を塞ぐ。

 動きを止めて耳を澄ませる。何も音はしない。胸を撫で下ろす。

 もふさまが魔具を出した。みんな無言で手を乗せる。


『シードラゴンのレオだ』


「シードラゴン?」


 サイズが違うだけに、理解が追いつかないみたいだったが、さすが父さま、立ち直るのが早かった。


「いつぞやは海の幸をたくさんいただき、ありがとうございました。領地のものとも分け合い、とてもおいしくいただきました」


 と胸に手をやり礼を尽くした。


『それはよかった。今日は海で遊ぼうって誘いに家に行ったんだ。リディアと海で遊んで。兄たちとも会いたかったといえば、リディアもアオも会いたいっていうから、連れてきた』


「そうなのか?」


 言われて頷く。


「遠くからただ顔を見て帰るつもりだったんだけど、王都じゃない町の地下に気配があるって聞いて。何があったの?」


 だって、これ閉じ込められているんだよね?


「リディアはここにいてはいけない。会えたからいいだろう、家に帰りなさい」


「あんな不穏なこと聞いて、帰れるわけない」


「これは罠なんだ。だから大丈夫だ」


「罠って!」


 大問題じゃないか!


「それより、リディー、なんて格好を」


「それは私も聞きたい」

「リー、どういうこと?」

「こんな足見せて」

「お嬢、それはまずいです」


 そこか!? この牢のような中で気にするところ、そこなのか?


「リディー?」


「これは水着だから」


 なんで今そこを問題視するかわからないが、とくとくとお説教された。着替えがあるんだろうと促され、着替えを要求される。話が進まないので着替えました。


 そして帰れと言われたが、ご飯を出して、みんなに食べてもらう。お昼の残りの魚介スープもだ。何もしないでいてもじわっと汗が出てくるぐらいに暑いけれど、スープを食べてお腹が温かくなるとみんなの表情が緩んだ。

 アオの若返りの姿のことを話すと、表情が明るくなる。

 やっといつもの父さまたちに戻ったので、〝さっきの人、最後の晩餐と言ってたと思うけど〟と切り出した。


「リディーは帰るんだ。母さまたちが心配している」


 あ、もう夜だ。確かに母さまたちは心配しているだろう。


「あ、伝達魔法は?」


 父さまは腕を出した。腕輪のような物がついている。父さまだけでなくみんなの腕にそれはついていた。


「魔力を封じられている」


『その変なのを壊せばいいのかい?』


「壊したいところではありますが、壊したとわかるはまずいのです」


 魔法を使わなくても壊せる何かしらの力があると思われて、次はもっと厳重に拘束されてしまうからだろう。


『ああ、機能は止めていいんだね? えい』


 そう言って、レオが父さまの腕輪に爪を置く。

 父さまから風が吹き上がったように髪がふわっと持ち上がった。


「あ」


 父さまはレオに頭を下げ、レオは同じようにみんなの腕輪の機能を壊して回った。


「ありがとうございます」


 父さまはごほんと喉を整え、シヴァから受け取った魔具を持って、部屋の隅に行った。何やらぶつぶつ呟いている。


「父さま、リディーは話さないと帰らないと思うよ」


 その通りだと頷けば、父さまは思案顔だ。


「いいか、リディー、父さまたちがここに捕まっているのは作戦だ」


「作戦?」


「ある者たちを捕まえるのに、わざと捕まっている」


「わざと?」


「そうだ」


 罠と言ったのは、嵌ったのではなく、嵌めているということ?

 唇の端に血が滲んでいる。殴られたような痕もあるのに?


「ここにリディーがいると台無しになってしまう。代わりにリディーにはやって欲しいことがある」


「なあに?」


「家に帰り、明日、いや、明後日まで、絶対に家から出ないでくれ」


 頬が膨れていく。


「作戦がうまくいけば、明日の夕方、家に使者が訪れるだろう」


「使者が?」


「リディアに婚約を申し込んでくるはずだ」


「え? わたしには兄さまが」


「奴らは油断している。今ならウチの領地を好きなようにできると思っている」


 ええ?


「変わったところは見せちゃいけない。アルノルトは明日普通に町へ行く。町からじーさんたちがウチの見回りにつく。リディーも母さまも、決して家から出てはいけない。すべてじーさんやハウスさんに任せるんだ」


「でも……」


「本当は父さまひとりが捕まって、シヴァと3人には他の仕事を頼んでいたんだ。けれど敵もあっぱれで、少し手筈が狂った。だが、5人を一緒にしてくれて却って助かったんだ。主人さま、レオさま、アオ、リディアをお願いできますか? 家まで送り届け、どうかよろしくお願いします」


 シヴァや兄さまたちも頭を下げる。

 でも……。


『主人さま、私は残るよ』


 レオはいいことを思いついたと言いたげに胸を張る。


 え?


『兄たちと遊びに来たんだ。まだ遊んでいない。明日、ことが終わってから遊んでそれから帰るとしよう。それならリディアも家で待てるだろう? いざとなったら、私が〝敵〟は踏んづけてやる!』


 頼もしいが、最後の言葉が嫌に楽しげに聞こえて、本気のような気がする。

 レオはキュキュッと鳴いて、兄さまのジャケットの胸ポケットに収まった。


『任せたぞ、レオ』


 もふさまがそういえば、レオは嬉しそうに鳴いた。


『任せられたぞ』


「……ちゃんと、手紙で知らせてね」


 父さまに訴えかければ、一応頷いてくれた。


「わかった」


 後ろ髪を引かれる思いだが、わたしは役立たずだし、何ができるわけでもない。バレたらどうやってここまで来たということになるし……。

 ひとりずつハグする。無事でと祈りを込めて。


 体を曲げて格子から出る。

 もふさまの背中に乗れば、足音を立てずに階段を登っていく。振り返っても、牢の中はもう見えなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分たちよりリディーの服装の心配をする家族+シヴァに笑わせてもらいました。 レオのお仕置きタイムが楽しみですね。
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