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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
4章 飛べない翼
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第194話 お茶会⑨miasma

「リディーも言ってたでしょ。王になられた第一子が少ないって」


 わたしは恐る恐る頷く。


「ユオブリアに生まれる人が魔力が多いのは教えたわね?」


 わたしは頷く。


「その中でも王族がぐんを抜いて魔力が多いわ。これは母さまの生家に伝わってきたことだけど。初代の聖女さまは魔王を倒したとあるけれど、魔王とは魔の王でもなんでもない、ただの瘴気の塊だと聞いたわ。聖女さまでさえ浄化することができなくて、それを封じ込めたの。ユオブリアの王宮のはるか下に」


 !


「王族たちの魔力、それから地形を利用した魔法陣、いろいろな物を駆使してやっとのことで封じ込めているのだと聞くわ。瘴気は何もかも枯らせていくの。もし封じているものが出てきてしまったら、人は生きていられないでしょうね。

 リディーは不思議がっていたわね。聖女さまが最高権力者の王族と結婚することを。王族を愛した方もいらっしゃると思うけど、そうではない方もいたと思うわ。それでも王族と結婚をした。光の使い手を残すために。魔力が多いものを残すために。自分が王族に手を貸さなかったらいつか世界が壊れる。愛した方を愛するのでは、いつか世界が壊れてしまうから。愛する人たちを永遠に守っていくには、世界を守るしかない。それで王族に添い遂げたのだと思うわ」


 ! 壮絶すぎて心が痛くなる。


「封じているけれど、日々瘴気の上で暮らす王族には瘴気が溜まりやすい。解明はされていないけれど、第一子の第一子は体を壊すか、精神を壊す。まるで瘴気が意志を持ち、濃い血縁を残させないようにしているかのようにね。王妃さまはそれをご存知で、聖女さまはいらっしゃらないから、光の使い手が欲しかったんだと思うわ。

 母さまは、王妃さまのお子さまの侍女になるべきだったのかもしれない。でも、どうしても嫌だったの。母さまはともかく、人質となるとわかっている子を宿すなんて恐ろしかった。だから逃げたの。

 リディーの体が弱いのも母さまが背いた罰だし、呪いにあったのも、王室に尽くせなかったから、そんな私に罰がくだされたんだと思ったわ」


 母さまの目から静かに涙が流れる。


「母さま」


「ごめんなさい。誇れる母でなくて、ごめんなさい」


 わたしは両手で母さまのほっぺを押さえた。

 母さまの視線をわたしに合わせる。


「母さま。侍女にならないでくれてありがとう。父さまと婚姻してくれてありがとう。だから、わたし生まれた。この子もだから在る。母さまはわたしたちのために父さまと婚姻することが決まってたの!」


「……そ、そうね。父さまとじゃなかったら、リディーと会えなかったし、フランツ、アラン、ロビン、このお腹の子にも出会えなかったわ」


「そうだよ。だから、母さま悪くない」


「その通りだわ」


 母さまが泣き笑いになる。


 いろいろねじ曲がったりなんだりしているけど、根本の悪さしているものがわかった。それは〝瘴気〟だ。


 母さまはずっと心に秘めていて、とても辛かっただろうと思う。

 でもそっか、王妃さまとそんなしがらみがあるんだ。ってことはわたしをよくなく思う王族って王妃さまか。それで第一王子に気をつけろ、ね。繋がった。

 瘴気か……。聖女でも浄化できないほどの、封じるだけがやっとだった瘴気。


 ロサが言っていたのはこのことだね。王族のことを知らないって。確かに、ばらまいたら世界がダメになるような瘴気を封じ続けるのを担っているとは思いもしなかった。そのために、血の濃い方が狂う可能性と背中合わせなことも。

 聖女さまがこの地に現れるのもそういう理由か。外国がユオブリアにだけに現れる聖女にとやかく言わないのも、ユオブリアが一身に世界の均衡を保つために在るからなんだ。全くとんでもないものが組み込まれた世界だ。

 いやそんなことないか。前世にも人が自分たちではもうどうにもできないものを作り出していたし、それは危険性を薄めてやはり封じることしかできていなかった。瘴気も、もしかして人族が作り出したんだったりして。



 授業の時間をたっぷり使って、母さまと話し続けた。

 外国でなんとか暮らしているときに、陛下から手紙がきたそうだ。王妃さまからではなく。手紙は王妃さまが勝手に持ち出した提案について謝るような内容だったらしい。そして母さまにとって外国は危険であり、王妃さまのいうようには決してならないからと帰国を勧められた。母さまは省いてちゃんとは教えてくれなかったが、その危険というのはどうも母さまのお姉さま、双子の実のお母さまが関係しているみたいだった。

 陛下からの使者は母さまだけでなく、父さまにも手紙を渡した。やはり帰国を促す内容だったそうだ。

 父さまが帰国を決め、ふたりは帰ってきて砦を住処とした。

 婚姻を結ぶと王妃さまから手紙が届いたそうだ。結婚のお祝いとあの時のことを謝るものだったという。子供を産むことの不安から愚かなことをしてしまったのだと。お茶会の時あまりにもいいタイミングで母さまを助けるように起こった魔法の事故。お茶会でそんなことが起こるのも珍事だし、王妃さまは元々母さまと父さまが恋仲で、お茶会の後に外国に駆け落ちするつもりだったと思っているような文面だったそうだ。それから母さまの光魔法の精度が高くないことも調べたようで、無謀なことを持ちかけたと思っていることも書かれていた。そして最後には母さまを陛下に近づけるようなことは決してないとあったそうだ。


 母さまはそれは遠く離れたところで静かに暮らせというメッセージと受け取った。その頃、陛下の子を宿した側室さまにいろいろな事故が起きている噂を聞いていただけに、今は自分を王室に近づけたくないと思っているんだと納得した。母さまは王室に近づかないことを心に決めた。

 そうか、だから母さまは王室と王妃さまを恐れているんだね。


 母さまが昔あったことを言いにくかったのは、王妃さまや王室、それから世界に対して悪いことをしたと思っているからだ。

 確かに全てを知ったら母さまの選択をなじる人はいるかもしれない。いずれの世界の危機に対抗できる力があるのに、なぜそれを差し出さない、そう言われるかもしれない。

 でも、わたしもやだな。わたしは母さまの選択を支持するよ。だってそうじゃなきゃわたしは生まれなかっただろうし。それからわたしも光魔法を使えるけれど、はっきりしたこともわかっていないのに、瘴気を薄めるためだけに力を放出させられるのも嫌だ。母さまと同じ選択をするだろう。

 神さまがくれた贈り物の力を、そんな哀しい使い方をしたって、くださった神さまはきっと喜ばないよと言えば、母さまは少しだけ笑った。


 偉い人たち、頭のいい人たち、魔力の多い人たち、そのトップたちがずっと考えて思いを巡らせ、そしてどうにもならなかったことだろうとは思うけれど。何か方法があってよさそうじゃないかと思う。





 部屋から出れば、ロサからの知らせが待っていた。

 父さまはオブラートに包んで言ってくれたが、ふんわりしていると意味がよくわからなかったので、わたしは突っ込んで聞いた。

 事実は容赦なかった。仮面をつけた男とコルヴィン夫人は亡くなったそうだ。詐欺と伯爵令嬢誘拐発覚を恐れ自害したと片付きそうだとのこと。わたしを誘拐したのはなぜかは突き止めることができなくなってしまったが、わたしに質問をしたことから〝知りたかった〟ことがあると推測される。

 で、さらに推察すると、わたしのしていたことが罠を仕掛けているようにもみえ、そのバックが誰なのかを調べたのではないかと思われる。

 ちなみに後片付けに紛れ込んでいたわたしを拐った実行犯は逃げおおせた。王室の名簿にある身分のしっかりしたお手伝いの人たちはコルヴィン夫人たちの遺体があったところで、縛られて眠らされていた。新規で雇われたまだ顔の覚えられてない人たちを眠らせて、入れ替わっていたらしい。

 仮面をつけていたのはドナモラ伯爵。わたしが会ったのが仮面をつけたドナモラ伯爵だったかはわからないけど。

 確かなことはわかっていないが、みんな心の中では口封じだと思っているに違いない。

 

 詐欺ももちろん悪いことだけれど、それを口封じされたってことは……詐欺が投資詐欺レベルでなくもっと大きなものをやっている組織だったか、そもそもキートン夫人を巻き込んだ事件が詐欺ではなく他の意味合いを含んでいたか、が考えられるだろう。





「何を考え込んでいるの?」


「アラ兄。うーーん、キートン夫人のお屋敷の件でロサが介入しなかったら、どうなっていたのかを」


 皆が凝視している。アオさえもだ。


「何?」


「殿下じゃなくて、リーがだよね?」


 何をおっしゃるウサギさん、だ。

 わたしの介入? なんてことを言うのだ。人聞きの悪い。

 ロサが場所を選び、ロサがキートン夫人を活気づけたから物事が動いたのだ。わたしがしたのはただの嫌がらせ。ちょっぴり効いたみたいだけど。


 そう、あんな子供騙しに乗ってしまう人がキートン夫人を騙せたことがおかしい。やっぱりあの人もただ利用されただけなんじゃ……。なぜあの人が? キートン夫人に含みを持つ人だったから?

 それにしても、キートン夫人は中央からとっくに退いている元侯爵夫人だ。なぜ、彼女を?


「……介入しなかったらどうなったかは永遠にわからないけど、介入すればどうなったかは分かったよね?」


 アラ兄は人差し指を立てた。


「訴えをあげれば、優秀な教え子たちが動いた」


 アラ兄の言う通りだ。


「今も侯爵夫人の一声で助けたいと思う、殿下や教え子たちがいっぱいいるってことだ」


 ロビ兄の〝まとめ〟を聞いて、わたしと兄さまはロビ兄をみつめる。


「え、何?」


「ああ、その通りだな」


 兄さまがロビ兄の頭を撫でて褒めた。

 そうだ。キートン夫人が今も力があると分かったことだろう、それを知りたかった誰かにも。

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