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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
4章 飛べない翼
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第192話 お茶会⑦scared

「もふさま、知ってるんでしょ?」


 だって、こやつは大丈夫って言ったもん。

 もふさまが知っていた人。ついでに送ってくれると言った。

 助けてくれたついでに送ってくれるのかと思ったが、あの場所かあの人たちを探っていて、助けてくれたこと自体が〝ついで〟だったのかもしれない。

 黒づくめは何の勢力なのだろう? 仮面の人は何か探られていた?


 もふさまは少し躊躇う。


『よくこの家の周りをうろちょろする気配があった。ある所からは近寄ってこないがな。一度、何者なのか確かめに行ったことがある。フランツの知り合いのようだ』


「……兄さまの?」


 思いもよらない答えに一瞬呆けた。


〝……嬢ちゃんに何かあったら若が悲しむからだ〟

 ……兄さまが〝若〟?

 わたしに何かあったら〝兄さま〟が悲しむ……、だから助けてくれた。


 おじいさまは、人をつけて守らせたりしない。己で、自分を守れという信条でやってきたし、実践して成り上がった人だ。


 兄さまを若と呼ぶ可能性があるのは……。

 兄さまの生家……は兄さまの父さまが罪人となり、奥さんも子供も亡くなったことになり、傍系から当主を選んだとか言ってなかったっけ? それに兄さまの本当の出自がバレたら、兄さまの父さまの代わりに罪を背負うことになるって……。でも兄さまに罪を償わせようとか考えているそんな様子はないし、兄さまと話していたってことは、兄さまも彼らを知っているってことだ。


 真っ黒なもので身を包み、わたしに何かあったら兄さまが悲しむとわたしをも救ってくれた。兄さまを護る存在だ。


 侯爵家は本当は兄さまが生きていることを知っていて、秘密裏に兄さまを守ってきた? ってことは、いつか兄さまを迎えいれるつもりなの? それを兄さまが知っているってことは、兄さまはいつか侯爵家に帰るつもりなの?


『リディア、どうした? なぜ泣く?』


 泣く? 手の甲で探れば、冷たく濡れる。

 ドアが開く。入ってきたのは母さまだ。

 母さまがベッドに腰掛ける。そして手のひらでわたしの頬を拭う。


「もう、ここは安全よ。怖い人は入って来れないわ」


 うんとわたしは頷く。

 何度も涙を拭ってくれるが、とまらない。

 父さまも部屋に入ってきた。わたしを抱き上げて胸にギュッとしてくれる。

 そこらへんからわたしの記憶はぼんやりしている。泣いて疲れてねむねむだったのだと思う。


「もう、大丈夫だ。何も怖いことは起こらない」


 そう父さまが言って


「……本当?」


 すがりたくて、その言葉にすがった。


「ああ、大丈夫だ。父さまがいる」


「……兄さまも、どこにも行かない?」


「ん? ああ、兄さまもどこにも行かないぞ」


 ……よかった……。





 目が覚めれば朝だった。誰かが着替えさせてくれて、夜着を着ていた。

 体を起こす。

 昨日のことを少しずつ思い出してきた。

 ドアがノックされる。

 返事をすると顔を出したのは兄さまだ。


「おはよう。大丈夫?」


 わたしは頷く。

 兄さまはベッドに腰掛けてわたしを見る。


「怖い思いをさせて、守れなくてごめんね」


 わたしは首を振る。


「町の子たちに話した物語のことを聞かれた。わからないけど、わたしがやりすぎたのだと思う」


 確かにあれも怖かったが、冷静になれば自分でしたことにより引き起こされたことなので自業自得だ。


「……父さまが、リディーが私がどこかに行ってしまうと思っているって、話して来いって言われたんだ」


 わたしの喉が鳴る。

 兄さまがわたしの隣で寝そべる、もふさまに視線を移す。


「黒づくめの人のこと、主人(あるじ)さまから聞いたんだね?」


 わたしの体がびくっとなった。


「あの人たちは私の知り合いだとも聞いたんだね?」


 答えずにいると言い募る。


「リディーは推測した。私の生家の関係者じゃないかと」


 全くもってその通りだ。


「リディー、私はどこにも行かないよ」


「本当? 迎えが来たんじゃないの?」


「……彼らが接触してきたのは2年も前だ。どこかにいくつもりならとっくに出ているし、リディーと婚約をと言い出さないよ」


「2年も前に?」


「リディーと主人さまには言っておくね。父さまたちには、心配をかけるから言いたくないんだ。だから内緒にして欲しい」


 そう前置きをして、兄さまは教えてくれた。

 黒づくめの人たちは、兄さまの生家バイエルン侯爵家に仕える直系を護る人たちで、通称blackと呼ばれている。兄さまも一度だけ面識はあったようだが、兄さまの父さまを護れなかった時点で空中分解したようなものだし、自分も死んだことになっているので、まさか組織が続いているとも思っていなかった。もし続いたとしても侯爵家は傍系が引き継いでいるのでそちらを守るのが筋だが、blackは兄さまを護ることに決めたそうだ。自分はバイエルンを名乗ることは決してないと言ったそうだが、そのことについては何も言わないそうだ。

 兄さまは帰る気がなくても、その人たちは兄さまを立てて、侯爵家を立ち直らせたいと思っているんだ。


「リディーはいろいろ考えてしまうみたいだから言っておこう。1年前には父上を嵌めた人たちの報告を聞いた」


 もふさまも顔を上げる。

 報告ってことは。


「誰に嵌められたか、わかったの?」


 兄さまが視線を落として頷いた。

 なんてこと!

 兄さまの手を取る。


「リディー、泣かないで」


 兄さまがわたしの涙を掬いとる。


「それを知ったら、私が父上の無実を証明して侯爵家に戻ると思ったんだろう」


 兄さまはそこでわたしを見て、微笑んだ。


「父上の無念を晴らしたいと……いや、やり返したいと思ったこともある。でもね、報告書を読んだら、父上が中央で槍玉にあげたことのある家門だった。父上は不正を正しただけだけど、逆恨みだと思うけど、誰かが思い切って鎖を断ち切らないと恨みって続いてしまうんだと思う。もしそれで、リディーや父さま母さま、アラン、ロビン、おじいさま。家族に何かあったら嫌だから、私で断ち切ることにした。blackにもそう伝えてある」


 ……この人はなんて強い人なんだろう。

 わたしは母さまが助かったから、今こうして笑っていられるけど。

 取り返しのつかないことになっていて、それが呪いのせいで、誰かが呪ったからだったりしたら。そしてその誰かがわかったら、わたしの全身全霊をかけて何かをしてしまったかもしれない。

 それを自分自身で断ち切ったんだ。


「私は、リディーに嫌われて顔も見たくないと言われない限り、リディーのそばから離れないよ」


「絶対?」


「絶対」


 兄さまは約束と言って、わたしのおでこに口付けた。

 それからガラッと調子を変えて


「それじゃぁ、起きよう。夕飯も食べずに眠ったままだから、みんなとても心配しているよ」


 そう言いながら靴下を履かせてくれて、そしてわたしをベッドから下ろしてくれた。


「着替えたら顔を洗いに行こう。ドアのところにいるからね」


 うんと頷いて、着替えをベッドの上に置く。


『よかったな』


「うん。もふさまも、ありがと」


 よかったのかな? そっと思う。わたしには間違いなくよかったことだけど、兄さまにはどうなんだろう? 久々に爪を噛んでいた。

 わたしは兄さまを縛りつけているのだろうか? 思いを巡らせてみたけれど、答えは堂々巡りだ。……ただ自分勝手な自覚はある。

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